"最後の迷子放送" 第8話
でも今度は、ずいぶんい迷子になってしまったわね」
芳はそう言って、寂しそうに笑った。
休憩を終えて案内所へ戻ると、澄はまだ子へ座っていた。今は断られるとっていたのだろう、いつも以にさく見えた。恵子がづくと、澄は慌ててちがった。
「崎さん」
「はい」
「今の放送、私にやらせていただけませんか」
澄はし驚いたあと、くをげた。
「お願いします」
午258分、恵子は初めて自分が放送席へ座った。さな部にはマイクとスイッチ、館内の売りを示す覧表があり、ガラス越しに事務の々が働いている姿が見える。普段なら売り案内や閉刻を読みげるだけなのに、そのは原稿用にかれたいが妙にくじられた。
午3。
恵子はスイッチを入れた。
「お呼びしを申しげます」
度息を吸い、いつもよりゆっくりと名を呼んだ。
「京ちゃん。京ちゃん。お母さまが1階案内所でお待ちです」
それだけだった。
けれど恵子には、そのい言葉のに、20以分のが含まれているようにえた。
放送を終えて案内所へ戻ると、澄はいつもの子へ座っていた。壁の計は午32分を指し、正面玄関からはがりのいが差し込んでいる。化粧品売りでは販売員が客へを試させ、菓子売りからは包装を折る音が聞こえていた。
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5分が過ぎた。
誰も来なかった。
澄は何も言わず、々の顔をずつ確かめるように正面玄関を見ていた。恵子も案内を続けながら、何度もエスカレーターの方向へ線を向けた。
8分。
9分。
10分。
やはり今も来ない。
澄はゆっくりちがった。もうこれで最だと自分に言い聞かせるように提げを持ち直し、恵子と芳へ向かってをげた。
「い、本当にありがとうございました」
その瞬だった。
りのエスカレーターから、きな旅鞄を持ったの女性が姿を現した。30歳に見えるその女性は、茶いコートにいブラウスを着ており、何かを探すように1階を見回していた。
数歩んだところで、女性のが止まった。
子のにつ澄を見つめていた。
澄も、その女性を見ていた。
案内所の周囲には勢のがき交っているのに、そののだけ、が止まったように見えた。
女性のから、旅鞄がゆっくりへろされた。
「……何、こんなことしてたの」
澄の唇が震えた。
「京子……」
20以呼ばれ続けた名の持ち主が、初めて案内所へ現れた。
恵子は、母娘ならすぐ抱きうものだとっていた。しかし澄も京子も、歩もかなかった。数メートルの距を挟み、互いの顔へ刻まれたを確かめるように見つめっていた。
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澄が最に見た京子は24歳だった。頬にはまだ女らしい丸みが残り、ると眉を吊りげる癖があった。それから8くが過ぎた京子の顔には落ち着いたの表があり、髪型も装も、母のらない女性へ変わっていた。
京子にとっても同じだった。をた頃の澄はまだ50代で、背筋を伸ばし、しで歩く女性だった。目のにいる母は髪にいものが増え、肩も以よりさく見えた。
最初にをいたのは京子だった。
「ずっとやってたの?」
澄はうなずいた。
「毎?」
「うん」
「馬鹿みたい」
責めるような言葉だったが、声は震えていた。澄は言い返さず、ただ「そうね」と答えた。
京子は顔を背けた。
「私、ってたよ」
その言に、澄が目を見いた。
京子は故郷の友から聞いたこと、何度か町へ戻ってきたこと、百貨のまで来たことを話した。度はの向かいから母がへ入る姿まで見ていたが、どうしても声をかけられなかったという。
「だったら、どうして……」
澄はそこまで言いかけ、を閉じた。自分にも同じだけのがありながら、もっと積極に娘を探さなかった事実をいしたからである。互いに相から来るのを待っていたのだと気づけば、片方だけを責めることはできなかった。
「今も、聞くだけのつもりだった」
京子は旅鞄の持ちを握りながら続けた。俊夫の張にわせて久しぶりに故郷へ戻り、午3になるから百貨のの階を歩いていたという。
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