"7年目に開いた薬袋" 第5話
さな声で礼を言い、すぐへ戻る。
町の々はそんな哲夫を気の毒にった。
佐藤医院は変わらず繁盛していた。
待には毎患者が並び、佐藤医師は朝から夕方まで診療を続けていた。
齢者にされる薬の種類は以より増えていた。
臓病。
血圧。
糖尿病。
胃腸薬。
眠薬。
ビタミン剤。
複数の持病を抱える齢者がいため、民は薬が増えてもく疑わなかった。
「佐藤先が必だと言うんだから、んでおけばだろう」
誰もがそう考えていた。
昭53。
町にむ85歳の田という齢女性がくなった。
田は、佐藤医院へ通院していた。
臓に持病があり、血圧もあったが、晩まで自分で歩き、所へ買い物にける程度には常活を送っていた。
田には、京で会社員をしている1息子がいた。
田健。
母親の葬儀のため、健は久しぶりに町へ戻ってきた。
葬儀を終えた、実の遺品理を始めた。
類を畳み、古い類を分け、タンスのを理する。
そのだった。
引きしの奥から、薬の袋が量にてきた。
「何だ、これ……」
健はへ並べた。
1袋や2袋ではない。
押し入れをけると、そこにも薬があった。
台所の棚にも。
寝の箱にも。
のあちこちから、処方された薬が次々とてきた。
しかも、くが未封だった。
広告
健は審にった。
母親が病気だったことはっている。
だが、これほど量の薬をんでいたとは聞いたことがなかった。
母親と付きいのあった所の女性を訪ねた。
「母はちゃんと薬をんでいましたか」
女性は困った顔をした。
「よく言ってたよ。薬がすぎてみきれんって」
「みきれない?」
「でも佐藤先がしてくださるから、もらわんわけにはいかんって」
健はへ戻り、もう度薬袋を見た。
袋には佐藤医院の処方に基づくものがく含まれていた。
母親が自分から買い集めた薬ではない。
医師から正式に処方されたものだった。
疑を抱いた健は、母親の国民健康保険に関する記録を確認し始めた。
そして数字を見て、言葉を失った。
過5。
母親にかかった医療費は、計500万円を超えていた。
でも薬剤に関する費用が異常にかった。
健は医療の専ではない。
それでも分かった。
普通に活できていた母親に、これだけの薬が本当に必だったのか。
量に余っているのに、なぜしい薬が次々に処方されたのか。
疑問は、母親のとともに終わらなかった。
むしろ遺品を理したことで始まった。
健は佐藤医院を訪ねた。
昔から町で評判の医師であることは、彼もっていた。母親も話で何度も「佐藤先には本当によくしてもらっている」
広告
と話していた。
診療の、佐藤医師は健を診察へ通した。
「このたびは本当に残でした」
静かな声でそう言い、をげた。
「お母様はい診せていただきました。できる限りのことはしたつもりです」
健も度はをげた。
しかしすぐに鞄から薬袋を取りした。
「先、1つ聞きたいことがあります」
佐藤医師は薬袋を見た。
「何でしょう」
「母に、これだけの薬が本当に必だったんでしょうか」
瞬。
ほんの瞬だけ、佐藤医師の表が止まった。
だがすぐ穏やかな顔へ戻った。
「お母様は臓に問題がありましたし、血圧もありました。複数の症状があれば、それぞれに薬が必になります」
「でも、ほとんどんでいません」
健は未封の袋を机に置いた。
「実に量に残っていました。押し入れにも、台所にも、タンスにもです」
佐藤医師は息を吐いた。
「それはお母様が薬をきちんと守れなかったということでしょう」
「母が悪いということですか」
「齢になるとみ忘れは珍しくありません。私は何度も説しました」
健は引かなかった。
「み忘れているなら、なぜ同じ量をし続けたんですか」
佐藤医師の目つきが変わった。
「私の診断に問題があると言いたいんですか」
「必だったのか聞いているだけです」
「私は30以医師をしています」
声はかった。
「医療の識のない方に、処方の内容までをされる筋いはありません。私は患者に必な治療をしています」
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 83 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 127 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 213 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 269 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 147 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 773 -
完結第15話
午前2時17分、亡き妻が病室を訪れる
午前2時17分。夜勤看護師の由衣は、面会時間を過ぎた病棟で黒いコートの女性を目撃する。 女性が立ち止まったのは、家族との連絡を拒み続ける71歳の患者・久世修一の病室前。だが受付記録にも防犯カメラにも姿はなく、乗り込んだエレベーターからも忽然と消えていた。 修一は女性の特徴を聞くと顔色を変え、10年間疎遠だった娘へ連絡してほしいと頼む。やがて判明したのは、黒いコートが10年前に亡くなった妻・美佐子のものと同じだったこと。そして彼女が息を引き取った時刻も、午前2時17分だった。 妻の最期に間に合わなかった父と、その父を許せなかった娘。再び同じ時刻にエレベーターが開く夜、10年間止まっていた家族の時間が静かに動き始める。ミステリー|夫婦|真実|真相1.4万字5 152 -
完結第10話
昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父
昭和51年、炭鉱が閉山した3日後、保安係だった父・修一が姿を消した。玄関には泥のついた長靴と作業帽が残され、母は「探さなくていい」と口を閉ざす。だが娘が父の作業着から見つけた紙片には、閉鎖された坑道の名と、謎の時刻が記されていた。 調べるほどに浮かび上がる、改ざんされた保安記録、帳簿から消された作業員、そして会社が隠そうとする閉山直前の事故。やがて坑道に残された録音から、父が誰かを救おうとしていた事実が明らかになる。しかし数十年後に届いた父の名札には、さらに不可解な言葉が刻まれていた。 「北の出口から出た。家へは戻れない」 父はなぜ、生きて坑内を出ながら家族のもとへ帰らなかったのか――。時代|歴史|昭和|ミステリー|真相1.5万字5 248