"1億8400万円の夜逃げ" 第10話
《母さん、俺たちこれからは幸せに暮らそう》《俺が母さんに贅沢させてやるから》
佳子はずっと、その言葉を就職が決まったというなのか、何か良いらせがあったのかと考えていた。しかし失踪、の部から内定通のような物は見つからず、座にもはなかったため、結局答えは分からないまま9が過ぎていた。
佐藤は、が両親のためにを探すつもりだったことも伝えた。健の供述によれば、は事件当の居酒で「母さんは腰が悪いから階段のないところがいい」「父さんには仕事を辞めてもらう」と何度も話していた。自分のために何を買うかという話は、ほとんどしなかったという。
秀夫は息子の写真を見た。
い沈黙の、両で顔を覆った。
「あいつらしいな」
それだけ言った。
佳子は泣きながら笑った。しいのか、息子の気持ちを9越しにることができて嬉しいのか、自分でも分からないようだった。佐藤は何も言わず、のが落ち着くまで待った。
「さんは、最までご両親のことを考えていました」
佐藤がそう伝えると、佳子は何度も頷いた。
「っています。あの子は、ずっとそういう子でした」
事件が報されると、「宝くじ当選者失踪事件」として全国な注目を集めた。9、健がロト1等に当選してへ逃げたとわれていた来事は、実際には当選者そのものが別だった。
広告
しかも本当の当選者は、最も信頼していた友へ秘密を話したことで命を奪われていた。
健の弁護側は、当い精神圧迫を受けていたことや、期にわたり罪悪を抱えていたこと、自ら犯を認めたことを主張した。方、検察側は事件にセメントを購入し、コンクリートについて検索していた事実から計画性が極めていと指摘した。が銭援助を断ったに具体な準備が始まっていることも、偶発犯ではない根拠として挙げられた。
裁判で最も静まり返ったのは、事件当のの会話が読みげられたときだった。
健の供述によれば、は酒をみながら笑っていた。
「母さんがさ、いつも階段つらそうなんだよ。だから次は絶対エレベーター付き。父さんももう辞めさせる」
その隣で健は頷いていた。
数には、すでにセメントを買っていた。
202511、京方裁判所で判決が言い渡された。法廷には報関係者と傍聴が詰めかけ、その片隅に鈴の両親が並んで座っていた。秀夫は学入学式のに撮った息子の写真を両で持ち、佳子は被告席から度も目をそらさなかった。
健は黒いスーツを着てっていた。フィリピンで逮捕されたときよりし顔は戻っていたが、9の写真に写る青とはまるで別に見えた。
広告
裁判が判決理由を読みげる、健はほとんど顔をげなかった。
判決は懲役25だった。
計画に友の命を奪い、額の当選券を奪取し、さらに遺体を隠して期国へ逃した点がく判断された。自や反省の態度は考慮されたものの、9にわたり真相が隠されたことで遺族へ与えた苦痛は極めてきいと指摘された。
判決が読みげられた瞬、佳子は声をげなかった。
ただ、膝のに置いていた両が震え始めた。
秀夫は隣から妻のを握り、自分の胸へ息子の写真を押し当てた。で働いたため節の太くなった指が、写真の端をくつかんでいた。が1億8400万円をに入れたとき、最初に休ませたいとったのは、その父親のだった。
法廷をた、記者から「犯に何か言いたいことはありますか」と尋ねられた佳子は、しばらく考えてから首を横に振った。
「もう、何もありません」
そしてしを置いた。
「息子が帰ってきてくれた。それだけでいいです」
もちろん、本当に帰ってきたわけではない。
それでも9、どこかできているのではないか、怪をして記憶を失っているのではないか、突然玄関をけて「ただいま」と言うのではないかと考え続けた両親にとって、待ち続けるはようやく終わった。しみは消えなくても、「なぜいないのか分からない」
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 76 -
完結第16話
雪の空港で消えた四人と第七格納庫
1989年のクリスマスイブ、北海道の空港から四人の客室乗務員が姿を消した。車には荷物と靴だけが残され、手掛かりのないまま35年が過ぎる。 2024年、解体中の旧格納庫で隠し部屋が発見され、事件は再び動き始めた。浮かび上がったのは、空港内部を熟知し、彼女たちを密かに監視していた元整備士だった。ミステリー|真実|真相1.9万字5 113 -
完結第14話
七年後、屋上で見つかった妻の秘密
1993年、鹿児島。自治会の帳簿を整理していた主婦・ミキは、過去の火災復旧費に不自然な水増しを見つける。調査を始めた直後、彼女は遺書とバッグだけを残して姿を消した。 投身とされた事件から七年後、マンション屋上の封鎖された旧貯水槽から、ミキと一致する人骨が発見される。ミステリー|真相|行方不明2.1万字5 203 -
完結第13話
成人式に消えた母と十三着目の振袖
2014年の成人式当日、貸衣装店から母・奈津子が消えた。店の960万円もなくなり、共に姿を消したカメラマンとの逃避行が疑われる。娘の紗季に残されたのは、「今日は署名をしないで」という謎のメモだけだった。 10年後、閉店する店の倉庫から、記録にない「13着目の振袖」が見つかる。その裾には、若い女性たちの名義で作られた高額ローン契約書と、母が隠した証拠が縫い込まれていた。ミステリー|真実|行方不明2.3万字5 240 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 111 -
完結第10話
31年間、母が捨てなかったマットレスの秘密
31年間、両親が頑なに使い続けてきた古いマットレス。中央は大きく沈み、父の腰痛も悪化していたが、母はなぜか買い替えを拒み続けていた。 息子のデイヴィッドは、両親を旅行へ連れ出した隙に新しいものと交換しようとする。ところが搬出業者から、「お母様を寝室へ入れず、まず一人で確認してください」と切迫した電話が入る。 マットレスの下から現れたのは、古い手紙や小さな靴、写真、ぬいぐるみ。そこには両親が31年間、息子にさえ存在を明かさなかった幼い娘・グレースの記憶が封じられていた。 娘を失った悲しみから逃げるため、名前すら口にしなくなった父。そして誰にも見つからない場所で、毎年娘へ手紙を書き続けた母。古い寝台が取り払われた日、沈黙の下に閉じ込められていた家族の時間が、ようやく光の中へ戻り始める。ミステリー|真実|真相|親子関係1.5万字5 772 -
完結第15話
午前2時17分、亡き妻が病室を訪れる
午前2時17分。夜勤看護師の由衣は、面会時間を過ぎた病棟で黒いコートの女性を目撃する。 女性が立ち止まったのは、家族との連絡を拒み続ける71歳の患者・久世修一の病室前。だが受付記録にも防犯カメラにも姿はなく、乗り込んだエレベーターからも忽然と消えていた。 修一は女性の特徴を聞くと顔色を変え、10年間疎遠だった娘へ連絡してほしいと頼む。やがて判明したのは、黒いコートが10年前に亡くなった妻・美佐子のものと同じだったこと。そして彼女が息を引き取った時刻も、午前2時17分だった。 妻の最期に間に合わなかった父と、その父を許せなかった娘。再び同じ時刻にエレベーターが開く夜、10年間止まっていた家族の時間が静かに動き始める。ミステリー|夫婦|真実|真相1.4万字5 150 -
完結第10話
昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父
昭和51年、炭鉱が閉山した3日後、保安係だった父・修一が姿を消した。玄関には泥のついた長靴と作業帽が残され、母は「探さなくていい」と口を閉ざす。だが娘が父の作業着から見つけた紙片には、閉鎖された坑道の名と、謎の時刻が記されていた。 調べるほどに浮かび上がる、改ざんされた保安記録、帳簿から消された作業員、そして会社が隠そうとする閉山直前の事故。やがて坑道に残された録音から、父が誰かを救おうとしていた事実が明らかになる。しかし数十年後に届いた父の名札には、さらに不可解な言葉が刻まれていた。 「北の出口から出た。家へは戻れない」 父はなぜ、生きて坑内を出ながら家族のもとへ帰らなかったのか――。時代|歴史|昭和|ミステリー|真相1.5万字5 246