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"判を押さなかった妻" 第6話

すると、驚くほどの空気が変わった。

修司の机には未封の郵便物が積みがった。以なら私が仕分け、請求があれば支払期を確認し、な広告は処分していたが、もう触らないことにした。

ある気料の支払いに関する通卓へ置かれていた。修司が続きを変更した際に座登録を誤ったらしく、私は気づいていたが訂正しなかった。

「これ、何だ?」

修司が尋ねたので、私は類を見てから答えた。

「あなたが変更した気料でしょう。いてある連絡先に話したら?」

ならおがやってたじゃないか」

とは違うから」

修司は舌打ちした。

最初は、その苛ちさえ私を怖がらせるとっていた。けれど実際には逆で、修司がるたびに私は落ち着いていった。

彼がっている理由は、妻を失うしみではなかった。

今まで当然に与えられていた便利さがなくなったことへのりだった。

それが分かっただけでも、私は分だった。

事をやめて2週ほど経った頃、修司はパソコンのに座るようになった。これまでインターネットバンキングをでさえ私を呼んでいたが、自分で何度も残を確認し、卓を叩いている。私はさず、れたところからその様子を見ていた。

修司には、老分にあるという確信があった。

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退職は友たちに「のローンも終わったし、夫婦なら困らない」と話していたし、私にも何度か同じことを言っていた。その自信の根拠になっていたのは、10ほどに積みがっていた預貯額だった。

しかし、それから10、彼自庫の底に穴をけ続けていた。

賃。

子どもの教育費。

保険。

クリスマス。

そして、千佳へのな援助。

回は修司の収入の範囲内に見える支でも、10積みなればきな額になる。さらに退職与収入が減っているにもかかわらず、支準をほとんど変えていなかった。

「おかしいな」

ある夜、修司が独り言を漏らした。

私は何も答えなかった。

「定期預、こんなになかったか?」

「何の数字と比べてるの?」

「退職した頃はもっとあった」

「そのあと何に使ったのかは、あなたがっているでしょう」

修司の顔が歪んだ。

彼はようやく、自分が千佳たちに使ってきたが「どこか別の所からてきた」ではないと理解し始めた。悠斗の学費を払えば私たちの老が減り、賃貸マンションの賃を払えばの修繕費に回せるが減る。当たりのことなのに、、修司はつのを同に維持できるとい込んでいた。

、修司は産会社へ話をかけた。

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私が聞くつもりはなかったが、同じにいれば会話は自然とに入る。

「このを売ったら、だいたいいくらになる?」

修司はを売却し、その資活へ回す計算を始めたらしい。

話を終えた、私は静かに言った。

「売れないわよ」

「何でだ」

「私の持ち分があるから。私が同しない限り、全体をあなたの判断で売ることはできないでしょう」

修司はしばらく黙った。

婚すれば俺のものになるだろ」

「どうして?」

そこで初めて、修司はの権利関係を確認した。登記関係の資料を引きしから持ちし、私の名を見つけると眉い皺を寄せた。

「こんなの、昔の話だろ」

「昔でも登記は登記よ。それには私のおも入っている」

修司は何も答えなかった。

しいのために売る予定だったは、彼のものではなかった。

さらに、に千佳と暮らすためには、たな居を準備する必がある。今の賃貸マンションは千佳と悠斗で暮らすには分でも、68歳の修司を加える提では借りていないらしかった。

その頃から、修司のスマートフォンに千佳からの話が増えた。

の話はどうなったの」

「いつ婚できるの」

「悠斗の来のことも考えないといけないでしょう」

声までは聞こえなくても、修司が話のたびに廊へ移し、以よりい声で話すようになったことで、内容はおおよそ像できた。

ある夜、修司は話を切ったあと私へ言った。

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