"父の葬儀の日_夫は愛人を車に乗せて去った" 第1話
父の葬儀が終わった、空は朝からり続いていたで暗かった。
佐藤由美、48歳。20連れ添った夫・浩司と並んで参列者を見送りながら、由美は何度もをげた。父・正雄は78歳。3に脳梗塞で倒れてから歩くことが難しくなり、最の1はほとんど寝たきりだった。
介護のにいたのは由美だった。朝7に父のへき、事、薬、通院、排泄の介助をする。自宅に戻るのは夕方。浩司は会社経営が忙しいと言って、父の見いに来たのはこの1で3回だけだった。
「会社も厳しいんだ。親父さんのことは、おが何とかしてくれ」
半、父の介護ベッドを交換するために14万円必だと話した、浩司はそう言った。
計からしてほしいと頼むと、「今は無理だよ。会社の資繰りがどれだけ変か分かってるのか」と嫌になった。
由美は結局、父が昔買ってくれたカシミヤのコートをリサイクルで売った。受け取った6万8000円と自分のわずかな貯をわせ、介護用品を買った。
それでも由美は、浩司を責めなかった。会社が本当に変なのだとっていたからだ。
だが、葬儀の。浩司の隣には、会社の経理責任者だという34歳の女性・美穗がずっといた。
「社にはいつもお世話になっております」
黒いワンピース姿でをげる美穗の首元には、さなダイヤのついた細いネックレスがっていた。
広告
30万円はしそうなしい品だった。
葬から戻り、親族への挨拶も終えた午4過ぎ。
浩司が言った。
「由美、帰るぞ」
由美は父の遺と、父がくなる2に「に持って帰れ」と渡してきた古い革鞄を抱え、浩司のに乗った。
美穗も緒だった。
「彼女、会社まで送るから」
そう言われた、由美は何も言わなかった。葬儀のも美穗は浩司の隣にいた。違はあったが、今だけは父のことでがいっぱいだった。
は父のから20分ほどり、駅のロータリーに入った。突然、浩司がした。
「由美」
「何?」
「悪いけど、おここでりて」
由美はが分からなかった。
「どうして?」
「俺、これから美穗と会社のことで話があるんだよ」
助席の美穗はを向いたままだった。
「今はもう遅いし、で帰ってくれ」
由美は窓のを見た。はさらにくなっていた。自宅まではを2本乗り継いで1くかかる。
「私、喪なんだけど」
「駅なんだから帰れるだろ」
「父の葬儀のよ」
浩司はため息をついた。
「だから何だよ。俺だって1付きって疲れてるんだ」
1付きった。
その言葉が、由美の胸に刺さった。
父がをした夜、由美が1でタクシーを呼び、夜の救急来へ連れていった、浩司は「朝いから」と寝ていた。父のオムツ代を相談したには「あるだろ」
広告
と言った。
その夫が今、父の葬儀を「付きった」と言った。
「りて」
浩司がもう1度言った。
由美は何も返さなかった。部座席から父の鞄と自分のバッグを持ち、をりた。
扉が閉まる。その数秒、浩司のはりした。助席には美穗。美穗は最まで振り返らなかった。
由美はのでを追わなかった。泣きもしなかった。
駅の待スペースへ入り、濡れた喪の袖をハンカチで拭いた。そして膝のに父の古い革鞄を置いた。
父はくなる2、まだ会話ができたに言った。
「由美。これは、俺がんでからけろ」
「何が入ってるの?」
「見れば分かる」
それ以、父は説しなかった。
鞄のには、3つしか入っていなかった。
父からの封筒。
「森田法律事務所」とかれた名刺。
そして、数枚にまとめられた会社関係の資料。
由美は最初に封筒をいた。
父の震えた字があった。
最初の1を読んだ瞬、由美の指が止まった。
『由美。浩司君に、私の通帳も印鑑も渡してはいけない。』
第1章 父が最に守ったもの
由美は同じ1を3回読んだ。
浩司に、父の通帳も印鑑も渡してはいけない。なぜ父がそんなことをくのか。
次のには、さらに具体な言葉があった。
『ここ1、浩司君は私の、預、印鑑の保管所を何度も聞いてきた。最初は由美を助けるためだとった。しかし、あの男が見ているのは私の老ではなく、私がんだのだと分かった。
広告
おすすめ作品
-
完結第6話
帰宅した夜、夫の嘘を知った
里帰り出産を終え、生後2ヶ月の息子を抱いてようやく自宅へ戻った美咲。夫・直人との3人暮らしが始まると思っていたその夜、隣人が突然玄関を叩いた。「毎晩毎晩、夜中までいい加減にしてください」。さらに「ご主人には前にも2回注意しました」と告げられ、美咲は耳を疑う。この2ヶ月、美咲は一度も家に帰っていない。では、隣人が何度も見かけた“妻らしき女性”は誰だったのか。問い詰められた直人は「会社の後輩が1度泊まっただけ」と説明するが、翌朝、隣人の証言によってその嘘も崩れ始める。出産のため家を離れていた2ヶ月間、自分の家庭で何が起きていたのか――美咲は静かに真実を確かめ始める。嫁姑|夫婦|不倫8.8千字5 33 -
完結第12話
花嫁が追い出した親友
幼なじみであり、仕事の相棒でもある親友・陸人の結婚式。 車椅子で生活する平井圭人は、心から親友の幸せを祝うつもりで式場へ向かった。だが、そこで待っていたのは、花嫁・美智からの冷たい拒絶だった。 「あなたがいると品格が下がる」 そう言われた圭人は、静かに式を去ろうとする。しかし美智はそれだけでなく、陸人との長年の友情まで断ち切るよう迫ってきた。 親友を困らせたくない圭人は、一度は身を引こうとする。 だが、美智は知らなかった。 目の前にいる車椅子の男が、陸人の人生を大きく変えた人物であり、さらに彼女が見下していた相手こそ、陸人が働く会社の代表だったことを。 結婚式当日、花嫁の一言から、隠されていた過去と本当の人間性が明らかになっていく――。怒り|修羅場1.9萬字5 216 -
完結第13話
判を押さなかった妻
65歳の佳代は、38年間連れ添った夫・修司から突然、離婚届と一枚の写真を差し出される。 写真に写っていたのは、10歳になる男の子。夫が11年前から外で関係を続けていた女性との子どもだった。 「離婚して、残りの人生は好きに生きたい」 そう言いながら修司は、離婚後も佳代に家に残り、食事や洗濯、薬の管理まで続けるよう当然のように求めてくる。 しかし佳代は、すぐには判を押さなかった。 悲しくて離婚できなかったわけではない。夫が隠してきた金の流れ、削られていた義母の施設費、そして“新しい人生”の裏にある都合のいい計画を、すべて明らかにするためだった。 38年間尽くしてきた妻が、最後に守ろうとしたものとは――。人生逆転|夫婦|熟年離婚1.9萬字5 407 -
完結第13話
0円の注文帳
母の死後、55歳の直子は、43年間続いた弁当屋「こもれび弁当」を片づけるため、久しぶりに実家へ戻った。 店の奥から見つかったのは、母が残した古い注文帳。そこには、直子が20歳の誕生日に母を嫌いになった夜の記録が残されていた。 《6号棟504 2食 0円》 《白いタオル》 《直子には言わない》 あの日、母は誕生日の食卓を途中で抜け出し、急ぎの配達へ行った。直子はずっと、母が自分より店の客を選んだのだと思っていた。 しかし30年後、注文帳に残された「0円」の意味を追ううちに、直子は知らなかった母の顔、父が隠した事実、そして自分が娘に繰り返しかけていた言葉の重さに気づいていく。 母は本当に、娘の夢を奪った人だったのか。 古い弁当屋に残された一冊の帳面が、30年間止まっていた母娘の時間を静かに動かし始める。金銭問題|修羅場1.9萬字5 215 -
完結第13話
「田舎者」と見下した婚約者を実家へ招いたら、態度が一変した
地味で素朴なまゆは、恋人・光希から突然プロポーズされる。 しかし彼と女社長の母は、結婚相手を「家政婦」として値踏みし、田舎育ちのまゆを見下していた。そんな二人を実家へ招待すると、専属運転手、大豪邸、ワインセラー、ヘリポートまで現れ態度が一変。 だが、本当の審査はここからだった――。人生逆転|夫婦1.9萬字5 179 -
完結第14話
消えたアナウンサー
6年前、人気キャスターの水野紗季は突然姿を消した。残された車、動かない銀行口座、使われていないパスポート。そして失踪当時、彼女は妊娠32週だった。時が流れたある夜、同僚の高橋真紀のもとに海外から1枚の写真が届く。欧州の人体標本展に展示されていたのは、30代前半、妊娠32週と記された女性の標本。さらに写真の隅には〈MA-214〉という謎の管理番号が写っていた。偶然にしては一致しすぎている。真紀が標本の出所を追い始めると、6年前に紗季が調べていた別の妊婦失踪事件、病院、献体記録、そして消された取材素材が次々につながり始める。ガラスケースの中の女性は、本当に水野紗季なのか――。ミステリー|行方不明|不倫2.1萬字5 8 -
完結第20話
温泉旅行を贈った夫の本当の目的
結婚32年、家族のために働き続けた恵美子。ある日、夫から突然贈られた高級温泉旅行に喜ぶが、忘れたスマホを取りに戻ったことで、夫と若い愛人の恐ろしい本音を聞いてしまう。 「退職金も土地も奪って、最後は追い出せばいい」 しかし二人は知らなかった。 “何も知らない従順な妻”と見下した恵美子が、32年間の医療事務経験で培った知識と証拠収集力を武器に、すでに完璧な反撃を始めていたことを――。 愛も金も家も失うのは、一体誰なのか。夫婦|修羅場3.0萬字5 499