"赤ん坊を背負った応募者" 第4話
そので、しげに泣いている赤ちゃんがいる。
文子はその景を何気なく瞥した。
そして、そのまま通り過ぎようとした。
面接会で騒ぎを起こす応募者なら、事部が適切に処理するだろう。
彼女はそうったからである。
しかし、まさにその瞬であった。
警備員のを振り払った優がいた。
くしゃくしゃになった図面を胸に抱きしめていた優である。
彼がゆっくりと顔をげた。
事部を見げ、何かを言おうとするかのように顎をげたのである。
優の目は真っ赤に充血していた。
涙で滲んだその瞳のには、決して屈しないという頑固で力いが宿っていた。
その瞳が、歩いていた文子の線と真正面からぶつかった。
文子のがピタリと止まった。
いや、止まったのではなかった。
彼女の全の細胞が、同に凍りついたのである。
まるで誰かに背から氷の入ったバケツを浴びせられたかのようであった。
のてっぺんから爪先まで、戦慄が稲妻のように体を貫いた。
あの目つきである。
芯の通った目尻と、しっかりとした筋。
そして、当でしい状況にあっても決してをげないさ。
世ののいかなる理尽のでも、を曲げないあの特の頑固な表。
文子は息ができなくなった。
25にくなった夫の、若い頃の姿であった。
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誰よりも正直で、誰よりも頑固で、だからこそ誰よりもした。
あの男性の顔である。
25という歳を突き抜けて、今目のにきていた。
鳥肌が背筋を駆けった。
文子の瞳が微かに震え始めた。
彼女は驚きで目を見いた。
固く結んでいた唇のから、かすかな声が漏れた。
「違う」
文子は信じられないものを見るように首を振った。
「違うはずだ」
背から、秘の伊藤の用い声が聞こえた。
伊藤が配そうに尋ねた。
「会、どこかお加減が悪いのですか?」
伊藤は文子の顔を覗き込んだ。
「顔が優れませんが」
文子は伊藤の言葉に答えなかった。
文子の線は、に膝をついたままの優に釘付けになっていた。
図面を抱きしめたまま顔をげた優の顔から、目をせなかった。
その、事態を把握した事部がいた。
彼は真っ青な顔をして、慌てて駆け寄ってきた。
事部は文子ので腰をく折った。
事部は震える声で言った。
「申し訳ございません。会」
事部は必に弁解した。
「面接会の際でした。あのような乱入者がいるとはいもよりませんでした」
事部は顔をげた。
「直ちに引きずりします」
事部は顔を真っ赤にして、警備員たちに向かって叫んだ。
事部は急かすようにで図をした。
「何をしている?」
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事部は鳴った。
「くあの男を追いせ!」
警備員たちが、再び優の両腕を掴もうとづいてきた。
乱暴なが、優の腕を掴もうとした。
まさにその瞬であった。
文子が声を発した。
「やめなさい」
ロビーの空気が瞬にして凍りついた。
く、しかし々しい声である。
そして、喉の奥から絞りすような凄みのある叫びであった。
それは本の建築業界の頂点につ者の声である。
数千の従業員を率いてきた、川文子会の絶対な命令であった。
警備員たちのが、空でピタリと止まった。
彼らは驚いてきを止めた。
事部のが、半きのまま固まった。
ロビーにいた全てのが息を止めた。
全員が、驚愕の表で会を見つめた。
文子は、凍りついた事部に線を移すこともしなかった。
彼女は優を見つめたまま、く言い放った。
「誰もをすな」
文子は鋭い線で周囲を制圧した。
「私が直接話をするから、全員がりなさい」
事部はをパクパクさせた。
彼は何も言えず、ずさりをした。
警備員たちも慌てて優から距を取り、ろへがった。
文子は、自分でも気づかないうちにいていた。
歩、また歩とをにめる。
理性が「とどまれ」と叫んでいた。
しかし、が言うことを聞かなかったのである。
まるで目に見えない力に背を押されるようであった。
文子の体は、に膝をついている優に向かって自然と引き寄せられていった。
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