"赤ん坊を背負った応募者" 第9話
滞納した治療費に、さらに今すぐ必な術の費用。
通帳の残が数万円しかない優にとって、その額は空のを掴むようなものであった。
優は病院の廊のいプラスチックの子に座り込んだ。
を固く抱きしめて、絶望の涙を流した。
が父の濡れた頬をさなでポンポンと叩いた。
そして、キャッキャと笑った。
その笑い声が、むしろ優の胸をさらにく引き裂いた。
まさにそのであった。
優の携帯話がポケットのでけたたましく振した。
液晶が割れた画面のに、見らぬ番号がはっきりと表示されていた。
『建設本社秘』とある。
優は信じられない目で画面を2度、3度と確認した。
震えるで通話ボタンを押した。
受話器の向こうから、丁寧な秘の声が聞こえてきた。
「田優様、ご提いただいた設計図がい評価で通過いたしましたので、の午、会主催の特別2次面接が設定されました」
秘は付け加えた。
「お子様連れでも構いませんので、までに会にお越しください」
優は受話器を握るが、まるで枯れ葉のように震えた。
終わった、終わった、もう何の希望も残っていないとっていた。
そのチャンスが、再び巡ってきたのである。
真っ暗なトンネルの先に、筋のが差し込んできたようであった。
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優は話を切るや、集治療のガラス窓に駆け寄った。
嗚咽するように囁いた。
「美咲、諦めなくていいんだ」
優は涙を拭った。
「チャンスが来た。俺が何としてでも、君を必ず助けるから」
ガラスの向こうの妻は、依然として微だにせず横たわっていた。
しかし優の胸には、先ほどまでなかったい種がつ燃えがっていた。
翌朝、優は再び古いおんぶ紐に息子のをしっかりと背負った。
そして、建設の本社ビルのにった。
昨と同じ建物であったが、優の差しは昨とは違った。
晩、集治療の廊の子でもせずに夜をかした。
そのため、目のには濃いくまができていた。
しかし、瞳だけは力く輝いていた。
病院のトイレの鏡ので、で顔を洗った。
しわくちゃのシャツをでできる限り伸ばした。
しかし、アイロンをかけたようにはならなかった。
それでも優は襟を正し、鞄の紐を締め直した。
これが妻を救える最のチャンスだと分かっていたからだ。
昨追いされるようにてきたあのロビーを、再び通らなければならない。
それが怖くなかったかと聞かれれば嘘になるだろう。
しかし集治療のガラスの向こうで、かろうじて息をしている妻をえば、恐怖など贅沢なものであった。
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優は歯をいしばり、正面玄関のドアを押した。
案内デスクでは、秘の職員が優を待っていた。
昨とは全く違う丁寧な態度で、優を迎えた。
職員は、会専用エレベーターのまで直接案内してくれた。
昨、自分をけない目で見ていた待席。
そのロビーを、今は秘のエスコート付きで歩いていくのは奇妙な気分であった。
昨の屈辱をいし、の奥がツンとした。
しかし優はまっすぐを向いて歩いた。
エレベーターが33階で止まった。
なの防音扉が、音もなくにいた。
扉がいた瞬、都会の喧騒が完全に遮断された。
巨で豪華な会専用執務が、姿を現した。
優はわず息を呑んだ。
から井まで続く面のガラス窓の向こうに、京の全景が望できた。
この空の真んに、広い机がある。
その奥の座に、文子が彫像のように座っていた。
昨ロビーで見たのと同じ、たい無表であった。
しかし目のにく刻まれたくまが、このも昨夜は眠れなかったことを物語っていた。
机のには、優が昨置いていった図面がすでに広げられていた。
あちこちに、文子が直接メモした付箋がびっしりと貼られている。
晩、この図面を眺めていたということであった。
文子の両隣には役員2が同席している。
秘の伊藤が歩ろに控えていた。
優は豪華な部ので、自分の古いおんぶ紐と角のすり切れた鞄がこのなくみすぼらしく見えることを分かっていた。
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