"「母に腎臓をくれ」と泣いた夫――手術直前、私は提供を取り消した" 第6話
私はちがり、の隅にある古いタンスを見つめた。
あの夜、夫がリビングの引きしを必に探しても見つからなかった理由。
それは、私が切な類を全てこのタンスの奥に隠していたからだ。
父が使っていた、鍵のかかる古い引きしのである。
彼らはまだ気づいていなかった。
自分たちが私を騙しているつもりが、すでに私に全てを見透かされていることに。
その夜、夫のいびきが寝から聞こえてきたのを確認した。
私はでに向かった。
音をてないように引きしをけ、ある類の束を取りした。
そこにはとの権利のに、もうつ切なものがあった。
私はその類の文字を見た瞬、たい決を胸に刻んだ。
の静寂の、私は古いタンスの引きしを静かにけた。
そこにはき父が私のために残してくれたの権利と、私の実印がしまってある。
私はそれらをに取り、く堵の息を吐きした。
あの夜、夫が必になってリビングを探し回っていたものは、違いなくこれだ。
体移植の術には、族の同はもちろん様々な続きが必になる。
夫は私がドナーになるための類を準備するふりをしたのだろう。
どさくさに紛れて私の実印を押させようとしていたのに違いない。
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あるいは私が術の麻酔で眠っているに、勝に続きをめるつもりだったのかもしれない。
私は権利と実印を、しい茶封筒に移し替えた。
そしてそのから、もうつの古い通帳を取りした。
それは父が私にこっそり残してくれた、私名義の定期預の通帳だ。
結婚してから25、度もをつけていないまとまったおが入っている。
「由美、いざというはこれを使って自分のを守りなさい」
父の温かい言葉が、の奥に鮮やかに蘇った。
私はその茶封筒を、厳に鍵がかかる提げ庫にしまった。
さらにそれを、クローゼットの奥にある古いスーツケースのに隠した。
これで彼らが物理に私の財産を奪うことはできなくなった。
翌朝、夫が会社にかけたのを見届けてから、私はすぐにを始した。
向かったのは駅にあるの支だ。
の待席は朝から配のたちで混みっていた。
番号札を握りしめながら、私は自分の順番を待った。
窓に呼ばれると、私は自分名義の通帳をしいものに切り替えた。
暗証番号も変更した。
万が、夫が私の誕などから暗証番号を推測し、勝におを引きすのを防ぐためだ。
その続きのついでに、活費を入れている夫婦の共座の記帳もった。
ATMの械がジージーと音をてて通帳に印字していく。
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てきた通帳のページをいた瞬、私は目を疑った。
ここ半、毎のように5万円、10万円という自然な引きしがあったのだ。
引きされているのは決まって曜の夜や、休のだった。
活費の支払いや、義母の額な医療費ではない。
私はその額の列を指でなぞった。
ふっとたい笑いをこぼしそうになった。
私が腎臓を提供するための厳しい事制限に耐えていた。
もやしや豆腐ばかりをべていたその裏で。
夫は共の貯を切り崩し、あの美穂という若い女と事や旅を楽しんでいたのだ。
「お客様、どうかされましたか?」
窓の女性が通帳を見つめる私に配そうに声をかけてくれた。
「いいえ、何でもありません。ありがとうございます」
私は通帳をバッグにくしまい込み、をにした。
の空気はたく、私のをすっきりとさせてくれた。
になって泣き叫ぶようなはもう終わったのだ。
この通帳の記録も、夫を追い詰めるための切な証拠のつになる。
その夜、夫は珍しく嫌で帰宅した。
「ただいま、今はしく帰れたよ」
リビングに入ってくる夫のには、名なケーキのさな箱が提げられていた。
夫は笑顔で言った。
「母さんの術もいし、由美も頑張ってくれているからご褒美だよ」
そう言って笑う夫の顔は、から見ればとても穏やかな良き夫に見えただろう。
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