みかん小説
本棚

"「母に腎臓をくれ」と泣いた夫――手術直前、私は提供を取り消した" 第9話

『浩司君、お義母さんの術本当に丈夫なの?もしあの女が直で逃げたらどうするの?』

美穂のそうな声に対する夫の返答。

丈夫だよ。あいつは昔から族って言葉にいんだ。俺がし泣いて頼んだらあっさり信じたよ。馬鹿な女だよ。本当に俺が浮気しているなんてこれっぽっちも疑ってない』

馬鹿な女。

その4文字が、私の25を全否定していた。

術が終わって母さんの体にあいつの腎臓が定着したら、すぐに婚届けを突きつける。慰謝料代わりにあのをもらう約束だったって言いくるめるさ。実印の所も体見当がついているしな』

く浩司君としいマンションにみたいな。お義母さんもあの女がいなくなって私とめるのを楽しみにしているわ』

『ああ、俺もだよ。あんな女の作ったい飯もわなくて済むとうとせいせいするよ』

は母さんの術の準備があるからって、あいつを昼までからさないようにする。その、病院で3でゆっくり話そう』

私は報告をテーブルに置き、両で顔を覆った。

涙はなかった。

ただ、これまで25、私が夫と義母のために費やしてきたが、砂のように崩れ落ちていく音だけが聞こえた。

たい台所で1ご飯をべていた々。

義母の嫌に耐えながら湯呑みを洗っていた夜。

広告

自分の命を削り、のない野菜をみ込んでいたここ数ヶ

その全てが彼らにとっては、馬鹿な女の滑稽な姿でしかなかったのだ。

私は顔をげ、部の隅にある仏壇を見つめた。

写真のの父は、静かに私を見守ってくれている。

「お父さん、ごめんなさい」

私は謝った。

「私、族を守りたかっただけなのに、こんなたちを信じてしまいました」

私はがり、報告と写真を茶封筒に戻した。

そして、もう1枚の類を鞄から取りした。

それは弁護士の先緒に準備した、臓器提供の撤回だ。

移植の術において、ドナーの自発な同は絶対の条件である。

病院の倫理委員会は、ドナーがしでも圧迫を受けていたり、無理やり同させられたりしていると判断した、いかなる理由があろうと即座に術を止する。

私はこの撤回と、夫の倫と財産横領計画の証拠である報告を1つのファイルにまとめた。

そしてそれを、の病院へ持っていく黒いバッグの底に静かに忍ばせた。

彼らは私が術台に乗ることを微も疑っていない。

だからこそ、所から突き落としてやる必がある。

の2過ぎ、玄関の鍵がく音がして夫が帰ってきた。

夫は音を忍ばせてリビングに入ってきた。

でソファに座っている私を見て、ビクッと肩を震わせた。

広告

「ゆ、由美。まだ起きていたのか。いんだぞ」

「ええ、し緊張してしまって眠れなくて」

私は静かにがり、夫に向かって穏やかに微笑みかけた。

「そうか、無理もないよな。でも丈夫だ。俺がずっとついているから」

夫は優しい声で言いながら、私の肩を抱こうとした。

私は自然な作でそれをかわした。

「お呂沸いていますよ」

とだけ言った。

夫はし気まずそうに目を逸らした。

「ありがとう」

と言って洗面所へ向かった。

その背を見送りながら、私はバッグの持ちをしっかりと握りしめた。

そして翌朝、私は夫から「昼にゆっくり来ればいい」と言われ、1で病院へと向かった。

彼らが私を病からざけ、美穂を呼んでいることはすでに分かっている。

私はあえて予定よりく病院に着き、庭へ向かった。

そこで夫と義母、そして美穂が楽しそうに笑っている姿を、たい柱のから見つめることになる。

「ありがとう美穂さん。あなたが本当の娘になってくれたらどんなに良かったか」

「あの女の実を売らせれば、美穂の居もすぐ買えるしね」

庭でその言葉を聞いた、私のに最に残っていたわずかな迷いも完全に消えった。

全ては私が仕掛けた罠の最終段階へと向かっている。

に戻った私は、窓際の丸子に座りながら夫と義母が部に入ってくるのを静かに待った。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: