"四十九日の注文票" 第3話
胸の奥が揺れた。
夫はで、私の料理を褒めるではなかった。が濃い、煮物が柔らかすぎる、盛りつけが昔だと、直すところばかりにしていた。
千鶴は公民館をけ、私をへ招いた。
さな調理には、庭用の蔵庫と炊飯器が3台置かれていた。壁には子どもたちが描いた絵や、で作られたが貼られている。
「夫は、ここへ弁当を届けていたんですか」
「はい。5から毎120分の材料費をしてくれました。ただし、ご主が作っていたわけではありません」
千鶴は棚から分いファイルをした。
弁当を作っていたのは、この子ども堂に集まる母親や齢者たちだった。夫は材料費を負担し、私ので余った容器や調理具を届け、品の続きも伝っていたという。
「なぜ、私には黙っていたんでしょう」
千鶴はすぐには答えなかった。
「雄さんは、ここに来ている子どものを特に気にかけていました」
見せられた写真には、弁当を受け取る学たちが写っていた。その端に、赤いパーカーを着た10歳ほどの女がっている。
私は、その顔に見覚えがあった。
莉奈だった。
今から5ではない。写真の付は26になっていた。莉奈がまだ学だった頃の写真で、裏面には《平成1212》と記されている。
「どういうことですか」
「この堂は、以は別の名で活していました。
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莉奈さんのお母さんがくなったあと、彼女は何度かここへ事に来ていたんです」
莉奈の母親は、病気でくにくなったと聞いていた。父親が男つで育て、苦労して護学まで通わせたという話も、結婚の顔わせで聞いている。
しかし千鶴によれば、父親は仕事を失ったあと酒に溺れ、を空けることがかった。莉奈は所のに連れられ、無料で事をしていたさな会へ通っていた。
そこで、夫とりった。
「雄さんは当、商の青部で、余った惣菜を届けてくれていました。莉奈さんが拓也さんと結婚すると聞いた、ずいぶん驚いていました」
「夫は、莉奈の過をっていたんですね」
「はい。でも、誰にも言わないと約束したそうです」
それだけなら、のを息子へ譲った理由にはならない。
私が尋ねると、千鶴はファイルから別の封筒を取りした。
「雄さんから預かりました。自分がくなったあと、奥さんがのことで困って訪ねてきたら、渡してほしいと」
封筒には、夫の跡で《円へ》とかれていた。
私はすぐにけることができなかった。
んだ夫からのを読みたい気持ちと、またらなかった事実がてくる怖さが、胸のでぶつかっていた。
ようやく封を切ると、には通帳の写しと1枚の便箋が入っていた。
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《円へ。のを隠してすまない。だが、拓也に渡したは、俺たちのではない》
その文を何度も読み返した。
のは、夫が父親から相続したものだと聞いていた。登記にも夫の名があり、現は拓也へ移っている。
それなのに、夫は《俺たちのではない》といていた。
の続きには、さらに信じられないことが記されていた。
《本当の持ち主は、30にを追いされた女性だ。俺はそのへ、毎しずつを返していた》
その女性の名も、榊原千鶴だった。
「このは、あなたのものなんですか」
私が尋ねると、千鶴は静かに首を振った。
「今さら私のものだとはっていません。でも、最初にを作ったのは、私と雄さんです」
32、千鶴は夫と同じ商の総菜で働いていた。
当の夫は27歳で、父親が営む乾物を伝っていた。千鶴は婚して幼い娘を育てながら、昼は総菜、夜は堂で働いていたという。
千鶴には料理の才能があった。
い野菜や肉の切れ端でもをえ、忙しい母親や暮らしの齢者がべやすい献を考えた。の主からしい商品を任されるようになると、売はしずつ伸びていった。
「雄さんは、私の料理をにしようと言いました」
乾物の倉庫を改装し、2で惣菜をく計画をてた。
千鶴がレシピと調理を担当し、夫が資と仕入れを引き受ける。業資の半分は、千鶴が婚に働いて貯めた600万円をした。
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