"届かなかった母の手紙" 第7話
佐々がそれを見て言った。
「それは、芳ちゃんが病気したのだ」
芳子のが止まった。
昭37の。
をして、医務で3寝込んだ。
寮母が田へ報を打ってくれた。
それでも母から返事がなかった。
芳子が母を諦めた、あのだった。
葉には、
「びょうきだとききました」
とかれていた。
そのに、
「そばにいけなくてごめん」
と続いていた。
最の「め」は形が崩れていた。
文字の周囲には、い染みが残っていた。
を落としたような跡。
けれど芳子には、それが何なのか分かった気がした。
「これ……」
声が震えた。
佐々はしばらく黙っていた。
「報が来たな、お母さん、郵便局へんできたよ」
佐々の話では、ハルは顔を真っ青にしていたという。
「京へくには、どうすればいい」
そう聞かれた。
だが当のハルには、すぐに京までていける余裕などなかった。
旅費も必だった。
田畑も放りせない。
何より、1で京へた経験もない。
佐々は、寮からの報には「で療養」という内容があるだけで、命に関わるとはかれていないと説した。
「返事をいたらどうだ」
佐々はそう勧めた。
ハルは頷いた。
そのの夜、何度も何度も葉をいた。
「びょうきだとききました」
最初の1枚は字を違えた。
次は途で文字の形が分からなくなった。
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またき直した。
「そばにいけなくてごめん」
最までいた、ハルはいその葉を見ていた。
佐々は翌、郵便局へ持ってくるとっていた。
しかし持ってこなかった。
数、聞いた。
「葉はさないのか」
ハルは俯いた。
「まだ字が汚い」
それだけ答えたという。
芳子は葉を握ったまま、唇を噛んだ。
自分はあの、
「私のことなんか、どうでもいいんだ」
とった。
母を切り捨てた。
自分からをくのをやめた。
けれど母は、同じ夜にこの葉をいていた。
娘のそばへけないことを詫びながら。
「何で……」
芳子の目から涙が落ちた。
「何でしてくれなかったの」
佐々は答えなかった。
答えられるはずもなかった。
それはハル自が抱えていた恐れだった。
娘を恥ずかしい目に遭わせたくない。
自分の字のせいで笑われてほしくない。
そのいがすぎて、最も必なにを送ることができなかった。
芳子は次の葉をめくった。
「げんきになったか」
さらに次。
「しごといけるようになったか」
母は返事が来ない相へ、何度もいていた。
もちろん、その答えをることはできない。
芳子もをくのをやめてしまったからだ。
母と娘は、互いに相をっていた。
それなのに、言葉だけが届かなかった。
箱の葉を見つめながら、芳子はもう1つ気になっていたことをいした。
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毎届いていた。
差欄にかれていた、
「母より」
という文字。
芳子は顔をげた。
「佐々さん」
「うん?」
「じゃあ、毎のおは……」
佐々の表がし曇った。
「お母さんが送ってた」
「それはってます。でも……どこからそんなおを?」
芳子はの暮らしをっていた。
父がくなった、ハルが1で守っている田畑から得られる収入はくない。
芳子が京へれば費は減る。
それでも毎、娘へ送できるほど余裕があるとはえなかった。
佐々はゆっくり息を吐いた。
「おのお母さんな、ずっと苦しかったよ」
から。
ハルは自分の田畑をこなした、所の農の仕事まで伝った。
田植え。
取り。
稲刈り。
が必だと聞けば、しでも当を得るために働きにった。
になれば農作業は減る。
その代わり、藁仕事を引き受けた。
夜、囲炉裏のそばで藁を編む。
には縫い物の内職もした。
指先が切れても、翌になればまた続けた。
「京じゃ、何をするにもがいる」
ハルは何度もそう言っていたという。
芳子が料をもらっていることは分かっていた。
それでも15歳で親元をれた娘に、しくらいを持たせてやりたい。
そのだった。
末になると、ハルはさな布袋に貯めたを入れて郵便局へ来た。
「佐々さん、これ芳子に送ってください」
額はくない。
しかし毎だった。
佐々は何度も聞いた。
「はどうする?」
そのたび、ハルは決まって答えた。
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