みかん小説
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"「住所は教えない」と言った息子へ" 第1話

「……所は教えないけどね」

受話器の奥から鼓膜へと叩きつけられたその言は、鋭利な氷の刃となって私の朶を無残に貫いた。 その言葉がの奥くに突き刺さったまさにその瞬、私は自らが握りしめているスマートフォンのプラスチックの質さと、それを支えるの指先が微細に、しかし抑えようもなくガタガタと震えているのをはっきりと自覚した。

息子のから、触れもなく唐突にかかってきた本の話。 その通話の画面に浮かびがっていたのは、見慣れた息子の名だった。しかし、回線を通じて運ばれてきた声の響きは、私のこれまでのの根底を容赦なく揺さぶり、平穏な盤そのものを根こそぎ崩壊させるような残酷な内容だったのである。

これまで、私たち族のには暗黙の、しかし固い約束がしていたはずだった。ねた暁には共に暮らし、互いに支えってきていこうと、幾度となく穏やかに言葉を交わしっていたのだ。それにもかかわらず、積みねてきたその約束は、何の触れもなく、な宣告によって無残に打ち消された。 穏やかな常の延にあるはずの、温かなに満ちた未来の景が、目ので突如として分い黒に覆われ、い暗へと閉ざされてしまったかのようだった。

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受話器の向こうで、は息をつ吸い込み、何のためらいもなく淡々と言葉を継いだ。

「母さん、僕たち、代の両親と緒にむことにしたんだ。もちろん、所は教えないけどね」

切のを削ぎ落としたそのたい響きに、私は返す言葉を完全に失った。呼吸の仕方を忘れたかのように、喉の奥が引きつる。 私が何か無理な同居を懇願したわけでもない。ただ、互いに労わりい、困ったには自然と助けうのが族というものだという素朴ないを胸に抱き、今まで々を誠実に過ごしてきただけだった。それなのに、私がこれまで信じ、捧げてきたいのすべてを、無価値なものとして瞬で否定されたようにじたのだ。

これまで積みねてきた献々が、このわずか数秒の通話によって、跡形もなく無なものへと変えられてしまった気がした。 受話器越しに伝わってくるの声は徹を極めており、そこには母親である私へのや、これまでの恩義に対するの揺らぎを挟み込む余など微も残されていなかった。それはまるで、無用になった過の遺物をあっさりと切り捨てるかのような、酷な断絶の宣告そのものであった。

あまりの衝撃に、私の胸の奥底では「どうして……どうしてこんなことに」

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という言葉にならない疑問と激痛が黒い渦となって激しく渦巻いた。目ので突きつけられた現実をどうしても受け止めることができないまま、私は受話器をに当てた姿勢のまま、たいフローリングのち尽くすしか術がなかった。

改めまして、自己紹介をいたします。 私の名は、佐々美津子。今歳になります。

通話がにプツリと切れた、ツーツーという無質な子音だけが静寂な内に響き渡っていた。私は震えるで通話終のボタンを押し、スマートフォンをゆっくりと胸元に引き寄せ、静かに目を閉じた。 そして、暗で息をえながら、これまでの途方もないの記憶を、つひとつ繰り寄せるように振り返り始めた。

えば、息子ののためにと全霊を捧げて歩んできたという歳は、私自そのものだったと言っても過言ではない。

が妻である代さんと結婚してもない頃のことだった。若いが「自分たちののマイホームを購入したい」と胸を躍らせて相談してきた際、私はにわたり商社の経理部としてにして働き、堅実に蓄えてきた切な退職から、惜しげもなく百万円をとして差しした。

「これで、しい活の基盤を作りなさい」

そのの息子のれやかな笑顔を、私は今でも昨のことのように鮮すことができる。

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