"「住所は教えない」と言った息子へ" 第11話
しかし、私はついにその封を切ることはしなかった。
私は静かにデスクのにちがり、未封のままのい封筒を両でそっと持ちげた。指先でのずっしりとしたみを静かに確かめると、机の最段にある引きしの奥底へと、音をてずにそっと戻し、鍵をかけた。
を読まないというこの選択は、決して酷さや復讐からくるものではなかった。 それは、自らのとしての尊厳を度と汚させないための、そして息子とのに引いた絶対な境界線を守り抜くための、私なりの最の「けじめ」であったのだ。
その夜、私はリビングのかりを落とし、テーブルのに本のアロマキャンドルを灯した。 揺らめく柔らかな炎の傍らで、お気に入りの革表のノートを静かにく。そこには、これからの私のでやりたいこと、訪れたい所を記した「未来のリスト」が、美しい文字でき連ねられていた。
ずっと訪れてみたかった国内の美術館、若い頃に読み耽り、もう度じっくりと読み返したい古典文学の名著の数々、季折々の美しい景を巡る旅の計画……。
私は万をに取り、そのページの端の余に、未来の自分自に向けたいメッセージを、を込めてき添えた。
『あなたは、誰かに都よく利用されるためにまれてきたのではありません。
広告
あなたは、あなた自の誇りきを、からきるためにまれてきたのです』
翌週、私はい切って、のであった完全な旅にることを決断した。 き先は、若い頃からずっと憧れを抱き続けていたヨーロッパの古い都であった。
畳の続く静かなを、誰の顔を窺うこともなく、自分の歩調だけでゆっくりと歩く。数百の歴史を刻んできた荘厳な古い教会にを踏み入れ、ステンドグラスから差し込むので、静かに祈りのを過ごす。さな広のカフェのテラス席に腰掛け、湯気のつ温かなスープをゆっくりとわう。
そのカフェで寛いでいた、隣の席に座っていた老夫婦の観客が交わしていた、さな会話の断片がふとに乗ってに届いた。
「……自分のを、自分の志で選ぶことができた。それこそが、にとって何よりの最の贅沢だね」
その言葉が、私の胸の最もい所へと、温かな羽毛のように柔らかく落ちて染み渡っていった。 私はにしたカップをソーサーに戻し、窓のに広がるヨーロッパの淡い曇り空を仰ぎ見ながら、く、静かに頷いたのである。
旅から帰国した、私の毎の暮らしは、層穏やかで洗練されたものへとえられていった。 朝の清らかなルーティン、昼の豊かな学びと運、そして夜の静かな休息と読。
広告
活のリズムが美しくうにつれて、私のは驚くほど固に、そして定していった。
あるの午、文化サークルの教を終えたのサロンで、私と同代の品の良い女性が、温かいお茶をに微笑みながら声をかけてくださった。
「佐々さん、最本当にお顔ちの表が、見違えるほどるく、ききと輝いていらっしゃいますね。何か素らしいことでもおありだったのですか?」
私は瞬驚いたが、すぐにからの穏やかな微笑みを浮かべ、率直にお答えした。
「ええ……自分自ののに、確な『境界線』を引くことができたのです。に頼られることと、都よく利用されることとは、まったく別のことですものね。勇気をして本の線を引いた瞬に、目のに広がるの景が、驚くほど澄み渡ったのです」
その方は私の言葉を噛みしめるように聞き入り、やがて目元に微かな涙を浮かべながら、私のをそっと温かく握りしめてくださった。
「素らしいお話をありがとうございます……。私も、とてもきな勇気をいただきました」
は、誰かが自らの尊厳のために毅然と境界線を引く姿を見るだけでも、い救いと勇気を得ることができるのだということを、私はこの、をもってったのである。
にわたり、「族」
という言葉の持つ緒な美徳によりかかり、私たち世代のは、あまりにもくの理尽や搾取を「」
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
離婚後に生まれた息子
10年間の不妊治療の末、「子供もできなかった」と姑に責められ、夫・健一から離婚を告げられた38歳の由美。ところが離婚から2週間後、最後に受けた治療が実っていたことが判明する。由美は悩んだ末、元夫には知らせず、実家で1人の男の子を出産した。それから1か月。離婚から10か月後のある日、玄関に現れたのは健一と、彼が再婚する28歳の美香だった。「来月、結婚式をするんだ」と招待状を差し出そうとした健一。しかし、由美の腕に抱かれた赤ん坊を見た瞬間、その笑顔が消える。「その子……まさか俺の?」。10年間「子供を産めない妻」と責められ続けた由美の人生が、そこから大きく動き始める。夫婦|真相|修羅場2.0萬字5 3 -
完結第13話
閉じ込められた臨月の妻
妊娠38週、予定日まであと12日の加奈。夫が海外出張へ出た2日後、突然訪ねてきた義両親は「様子を見に来た」と言いながら、家事や学歴を責め続けた。そして義母に促され、家庭用サウナの中を確認しようと入った瞬間、背後で扉が閉まる。外側には南京錠。スマートフォンまで奪われた。「私たちから息子を奪った罰よ」。そう言い残し、義両親は5泊7日の温泉旅行へ出発した。水もなく、いつ陣痛が始まってもおかしくない密室。しかし加奈には、義両親が知らないことがあった。このサウナは、かつて一級建築士だった加奈自身が安全設計に関わった機種だった――。嫁姑|親子関係|修羅場2.0萬字5 9 -
完結第12話
面接官の誤算
夢だった大手企業の最終面接。 24歳の小館達郎は、人事の仕事に憧れ、努力を重ねてようやく最終面接までたどり着いた。だが、中央に座っていた人事部長は、彼の学歴や家庭環境を見下し、面接の途中で冷たく言い放つ。 「低学歴の貧乏人は、面接する必要なし。不採用で決まりだな」 母子家庭で育ち、必死に支えてくれた母への思いまで踏みにじられた達郎。悔しさをこらえながらも、彼はその場で言い返さず、静かに会社を後にした。 しかし1か月後、達郎は再び同じ会社へ呼び出される。 案内されたのは、あの日と同じビルの役員会議室。そこには人事部長の佐野、社長、そして達郎のよく知る一人の男が座っていた。 達郎の姿を見た瞬間、佐野の顔色が変わる。 あの日の「不採用」は、ただの終わりではなかった。 一人の応募者を見下した面接官が、会社全体に隠されていた問題を暴き出すきっかけになる――。真実|修羅場1.8萬字5 200 -
完結第13話
孫の一言で知った息子の計画
元看護師のかず子は、孫の何気ない一言から、自分のお茶に睡眠薬が混ぜられていると気づく。犯人は、実の息子と嫁だった。 二人の目的は、彼女を認知症に仕立てて施設へ送り、家も預金も奪うこと。証拠を掴んだかず子は財産を守り、静かに家を脱出する。68歳から始まった逆転人生の行方は――。祖父母と孫|修羅場2.0萬字5 11 -
完結第20話
「病院に行くな」と娘を閉じ込めた婿の本当の目的
娘の部屋から漂い始めた、肉が腐るような悪臭。 62歳の母・ヨネは、義理の息子・健二が留守にした隙に電子ロックを破壊する。 そこで見つけたのは、骨が浮くほど痩せ、床ずれで肉まで腐った娘・さやかだった。 「今すぐ警察に通報してください」 救急医が告げた真実は、難病ではない。健二は妻を監禁し、餓死寸前まで追い込み、正体不明の薬で衰弱させていたのだ。 さらに家から見つかった赤い錠剤、20億円の生命保険、そして妊娠中の愛人。 母は涙を隠し、何も知らない老婆を演じる。 悪魔が自ら罪を語る、その瞬間を待つために――。介護3.0萬字5 770 -
完結第10話
父の葬儀の日_夫は愛人を車に乗せて去った
48歳の由美は、3年間ほぼ1人で父を介護し、78歳の父を見送った。ところが葬儀の帰り、20年連れ添った夫・浩司は、愛人と思われる女性を助手席に乗せたまま、喪服姿の由美を雨の駅前で車から降ろす。「俺だって1日付き合って疲れてるんだ」。由美は泣かず、父が亡くなる2日前に渡してくれた古い革鞄を開いた。中にあったのは、1通の手紙、弁護士の名刺、そして夫の会社に関する資料。手紙の最初には、「浩司君に、私の通帳も印鑑も渡してはいけない」と書かれていた。なぜ父は、娘の夫をそこまで警戒していたのか。由美は父が最後に残した手がかりを追い始める。夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場|不倫1.5萬字5 519 -
完結第12話
花嫁が追い出した親友
幼なじみであり、仕事の相棒でもある親友・陸人の結婚式。 車椅子で生活する平井圭人は、心から親友の幸せを祝うつもりで式場へ向かった。だが、そこで待っていたのは、花嫁・美智からの冷たい拒絶だった。 「あなたがいると品格が下がる」 そう言われた圭人は、静かに式を去ろうとする。しかし美智はそれだけでなく、陸人との長年の友情まで断ち切るよう迫ってきた。 親友を困らせたくない圭人は、一度は身を引こうとする。 だが、美智は知らなかった。 目の前にいる車椅子の男が、陸人の人生を大きく変えた人物であり、さらに彼女が見下していた相手こそ、陸人が働く会社の代表だったことを。 結婚式当日、花嫁の一言から、隠されていた過去と本当の人間性が明らかになっていく――。怒り|修羅場1.9萬字5 633 -
完結第13話
0円の注文帳
母の死後、55歳の直子は、43年間続いた弁当屋「こもれび弁当」を片づけるため、久しぶりに実家へ戻った。 店の奥から見つかったのは、母が残した古い注文帳。そこには、直子が20歳の誕生日に母を嫌いになった夜の記録が残されていた。 《6号棟504 2食 0円》 《白いタオル》 《直子には言わない》 あの日、母は誕生日の食卓を途中で抜け出し、急ぎの配達へ行った。直子はずっと、母が自分より店の客を選んだのだと思っていた。 しかし30年後、注文帳に残された「0円」の意味を追ううちに、直子は知らなかった母の顔、父が隠した事実、そして自分が娘に繰り返しかけていた言葉の重さに気づいていく。 母は本当に、娘の夢を奪った人だったのか。 古い弁当屋に残された一冊の帳面が、30年間止まっていた母娘の時間を静かに動かし始める。金銭問題|修羅場1.9萬字5 732 -
完結第20話
温泉旅行を贈った夫の本当の目的
結婚32年、家族のために働き続けた恵美子。ある日、夫から突然贈られた高級温泉旅行に喜ぶが、忘れたスマホを取りに戻ったことで、夫と若い愛人の恐ろしい本音を聞いてしまう。 「退職金も土地も奪って、最後は追い出せばいい」 しかし二人は知らなかった。 “何も知らない従順な妻”と見下した恵美子が、32年間の医療事務経験で培った知識と証拠収集力を武器に、すでに完璧な反撃を始めていたことを――。 愛も金も家も失うのは、一体誰なのか。夫婦|修羅場3.0萬字5 1118 -
完結第13話
退職届を出した夫が、最後の会議で暴いた妻社長の嘘
3年前。 妻・美穂が経営する会社で働いていた健二は、突然退職届を提出した。 理由は、妻の秘書・田中から告げられた一言だった。 「空気を読んで、自分から辞めてください」 愛する妻の会社で、自分だけが邪魔な存在になっていた。 しかし美穂は、田中との関係を否定し続ける。 「彼とは同僚としての関係しかない」 健二が信じていた3年間の結婚生活は、少しずつ崩れていた。 だが退職の日、健二はさらに恐ろしい事実を知る。 自分を追い出すために仕組まれた偽のセクハラ告発。 消された顧客情報。 そして、妻と秘書が隠していた本当の目的。 追い詰められた健二は、最後に残された証拠を手に取る。 音声記録。 社内システムの履歴。 競合会社との裏取引。 すべてを明らかにする場所は――妻の昇進をかけた役員会議だった。 そこで暴かれる、愛していた妻の裏切り。 10年間支えてきた会社も、信じ続けた夫婦の絆も、一瞬で崩れ去る。 そして健二は、何も奪わず、ただ一言だけ告げる。 「もう、昔の俺には戻れない」修羅場2.0萬字5 480