みかん小説
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"ただいまの裏にあった10年" 第4話

2、どこで何をしていたのかさえ分からないのだ。

変わって当然だとった。

1かが過ぎる頃には、男性は佐藤での活へ自然に馴染み始めた。

ある朝、かず子の作った卵焼きをべながら、ぽつりと言った。

「これ、懐かしい気がする」

かず子の目が輝いた。

「そうよ。健、昔から私の卵焼きが好きだったの」

男性はべ、し笑った。

「やっぱり美しい」

その笑顔を見た瞬、かず子のに残っていた最まで消えていった。

63

男性は、かつて健が働いていたへ復職した。

医師から無理をしないよう言われていたため、最初は簡単な作業から始めた。2の空と体力のがあり、以と同じプレスをすぐ任せることはできなかった。

それでも働きぶりは真面目だった。

誰より勤し、作業には械の周囲を丁寧に清掃した。分からないことがあれば素直に聞き、覚えたことは同じ失敗をしないよう何度も確認した。

「無理するなよ。しずつ戻せばいい」

同僚たちは温かく接した。

本孝志も、そのにいた。

「よく戻ってきたな」

復職初本はくそう言った。

男性はげた。

「ご配をおかけしました」

本はその顔をしばらく見つめ、それ以は何も言わなかった。

も経つ頃には、男性は以と同じように械を扱えるようになった。

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も働きぶりを評価し、職では「佐藤健が戻ってきた」という事実が完全に常の部になっていった。

佐藤にも、穏やかなが戻った。

かず子は毎朝弁当を作った。

卵焼き。

おにぎり。

には健が昔好きだったおかずを詰める。

男性は帰宅すると空になった弁当箱を台所へ持っていった。

「母さん、今も美しかった」

その言葉を聞くだけで、かず子は嬉しかった。

誠も休には男性を鉄所へ連れていった。

旋盤の音や属を削る匂いので、父親は自分の仕事をしずつ教えた。

「いつかこっちを継いでくれたら嬉しいんだがな」

冗談めかして言うと、男性は静かに笑った。

「いつか、ちゃんと覚えたいです」

父と母にとって、失踪していた2は次第にざかっていった。

には3で買い物へった。

には温泉へかけた。

かず子は息子の好物を作り、誠は晩酌をしながら仕事の話をした。

普通の族が持つ普通の常だった。

平成元

代が昭から平成へ変わっても、3活は穏やかに続いた。

平成2になると、かず子は息子の結婚を気にし始めた。

「健、もう28歳でしょう。そろそろお嫁さんのことも考えたら?」

、突然そんな話を持ちした。

男性は箸を止めた。

「まだいいよ」

「何言ってるの。いい頃じゃない」

所から話が来ているという。

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は25歳の女性だった。

内のレストランで見いがわれた。

は穏やかで、男性も丁寧に話した。雰囲気は悪くなかったが、結婚の話になると男性は決断できなかった。

「もうし考えさせてください」

結局、縁談はそのまま終わった。

かず子は残そうだったが、無理いはしなかった。

「あなたのだから、あなたが決めればいいわ」

男性はその言葉に救われたように微笑んだ。

平成4で主任に昇した。

失踪以の記憶が完全に戻ったわけではなかったが、職で必な技術はほとんどにつけ直していた。

活も定した。

平成5には、再び見いの話が持ちがった。

今度の相は27歳で、何度か会ううち互いに好を持つようになった。

それでも結婚の話が具体になると、男性はまた迷った。

「すみません。やっぱり今は、まだ……」

へ戻った男性へ、かず子が配そうに尋ねた。

「健、何か悩んでいるの?」

「何もないよ」

「じゃあ、どうして」

男性はしばらく黙った。

「自分に自信がないんだとう」

それ以は言わなかった。

かず子は、失われた2の記憶が原因なのだろうとった。

自分がどこにいて、どんな活をしていたのか分からない。

そんな空を抱えたまましい庭を持つことが怖いのかもしれない。

母親はそう理解した。

しかし男性のにあったは、もっと根いものだった。

自分は佐藤健ではない。

両親が信じている息子ではない。

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