みかん小説
本棚

"ただいまの裏にあった10年" 第7話

「最初は、そう言えばお母さんがぶと教えられていました」

かず子は顔を覆った。

は苦しそうに続けた。

「でも……途から違いました」

「何が違うの」

「本当に好きになったんです。お母さんの卵焼きも、このも、お父さんと鉄所へも」

誠は何も言わなかった。

「私は族というものをりませんでした。だから最初は演技だったのに、いつのにかへ帰るのが楽しみになっていました」

8

嘘から始まった

それでも毎起きた来事まで嘘だったわけではない。

緒にべた事。

病気の病した夜。

両親の誕

で働いた々。

その全てが瞬でを失ったようで、それでいて完全に消すこともできなかった。

「本物の健はどこにいるんだ」

誠が絞りすように尋ねた。

は首を横に振った。

本さんに聞いてください」

がった。

「田さん、署で詳しく事を聞きます」

は抵抗しなかった。

玄関をる直、もう度だけ振り返った。

「お父さん、お母さん」

そう呼び続けた言葉がからた。

誠とかず子の顔を見て、田はすぐ言い直した。

「……佐藤さん。本当にごめんなさい」

扉が閉まった。

佐藤に静寂が戻った。

しかし、朝になれば戻ってくるとっていた男は、もう息子として帰ってはこなかった。

広告

翌朝、本孝志が岡警察署へ連された。

失踪当28歳だった本は、51歳になっていた。

取り調べに座った男は、で真面目に働いてきたらしい落ち着いた装をしていた。しかし顔は疲れ、線を机からげようとしなかった。

刑事が正面に座った。

本さん。昭60815の佐藤健さん失踪について、っていることを話してください」

本は黙っていた。

「田誠さんから話を聞きました」

肩がわずかにいた。

「あなたが彼を佐藤へ送り込んだそうですね」

さらにい沈黙が続いた。

やがて本が顔をげた。

「話します」

声はかすれていた。

「全部話します」

が録音を始めた。

本は度目を閉じ、それから言った。

「昭60815、あの、私は佐藤をなせました」

本のには、銭の問題があった。

本は当、借を抱えていた。

妻にも詳しく話していなかった。

そので健から30万円を借りていたという。

「返済の約束をしていたんですが、が用できませんでした」

仕事が終わった本は健へ声をかけた。

し話がある」

は断らなかった。

2くの川敷へ向かった。

本はそこで、もうし返済を待ってほしいと頼んだ。

「佐藤はらなかったんです」

本は両を握った。

丈夫ですよ、本さん。焦らなくてもいいって言いました」

広告

それなのに、その言葉を素直に受け取れなかった。

妻へ隠している借

返済できない焦り。

自分だけが追い詰められているという苛ち。

の穏やかな態度さえ、自分を見しているようにじてしまったという。

に血ががりました」

言いいになった。

本は健く押した。

元のバランスを崩し、川敷のを打ちつけた。

倒れたままかなかった。

「救急を呼べばよかったんです」

本の声が震えた。

「でも怖くなりました。借のことも全部られる。仕事も庭もなくなるとった」

本は健くの雑林へ運んだ。

目につきにくい所に穴を掘り、そのまま埋めた。

が乗っていた自転は川へ捨てた。

計もし、で健と同じ所へ埋めたという。

「どうして2に田誠さんを佐藤へ送り込んだんです」

が尋ねた。

本はく息を吐いた。

「佐藤の両親を見ていられなかったんです」

へ何度も訪ねてくる誠。

息子の報がないかと、同僚11げるかず子。

皆が「きっときている」と励ましている。

そのに、自分もいた。

本も両親へ「きっと戻ってきます」と言った。

自分が健を埋めた所をりながら。

「毎、苦しくなりました」

あるで田誠を見かけた。

所もなく、まともに事も取れていない男だった。

最初はただ、健と背格好が似ているとっただけだった。

しかしその考えが、次第に歪んだ計画へ変わっていった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: