みかん小説
本棚

"清掃員が書いた設計図" 第9話

期契約。

それはつまり。

料をどうするか。

気代をどう払うか。

いつ廃業するか。

そんなから、ようやく解放される能性がまれたということだった。

「本当に……うちで?」

夫が聞く。

常務は頷いた。

「今回の結果を見れば、へ任せる理由がありません」

夫は何か言おうとした。

けれど声にならなかった。

代わりに、目から涙が流れた。

たちも俯いた。

ゆいも泣きそうになった。

夫が振り向く。

「ゆいちゃん」

初めて会ったと同じ呼び方だった。

「はい」

「助かったよ」

ゆいは首を横に振った。

「私だけじゃありません」

「でも、おがいなかったら終わってた」

夫の声が震える。

「父親から受け継いだこのを……守ってくれた」

ゆいの涙がこぼれた。

その

の職げた。

「佐藤さん」

ゆいが驚いて見る。

「悪かった」

「え?」

卒だとか、清掃員だとか……ずっと馬鹿にしてた」

別の職も続いた。

「俺もだ」

「数式のノート、笑って悪かった」

ゆいは慌てて首を振った。

「やめてください」

「でも――」

「私も何も言わなかったので」

涙を拭きながら笑った。

「これから教えてください。私、械のことはまだ皆さんほどりませんから」

たちは顔を見わせた。

そしてが笑った。

「分かったよ、先

「先はやめてください」

今度はから笑い声が起きた。

久しぶりの笑いだった。

広告

械の油の匂いが残る古いで。

全員が、泣きながら笑っていた。

3か

の朝は、以と同じようにかった。

6になると旋盤のモーターが回り始める。

切削油の匂い。

具の音。

狭いへ漏れる械音。

見た目だけなら、何も変わっていない。

しかしでは、きな変化が起きていた。

元請け企業との期供契約が正式に結ばれた。

追加の注文も入った。

度は5まで減った従業員も、しくを採用する話がている。

古かった設備の部も更できることになった。

そして。

「ゆいちゃん」

夫が事務から顔をした。

「ちょっと来てくれるか」

「はい」

ゆいは作業台からがった。

今のゆいは、もう清掃用のエプロンを着ていない。

同じ作業着。

胸にはしい名札がついている。

――技術責任者 佐藤ゆい。

正式にの技術部を任されることになった。

最初は断った。

「私には資格もありません」

そう言った。

すると夫は笑った。

「資格が部品を作ったのか?」

答えられなかった。

「おさんが作ったんだ」

それで話は決まった。

事務へ入る。

夫の机のには枚のがあった。

初めてへ来たに持ってきた履歴だった。

「まだ持ってたんですか?」

「当然だろ」

夫は笑った。

学歴欄。

卒業。

ゆいはそこを見つめた。

昔は、この文字を見るのが怖かった。

広告

どれだけ勉しても。

何冊本を読んでも。

どれだけ数式を解いても。

履歴ける学歴は増えなかった。

その欄を見ただけで、

「あなたには無理」

と言われた。

「でもな」

夫が履歴を指した。

「ここにはいてないものがいっぱいあったんだな」

ゆいが顔をげる。

「6で勉したことも」

「諦めずに20社回ったことも」

「毎朝誰よりく来てを拭いたことも」

夫はゆいを見る。

「全部、履歴にはいてなかった」

ゆいの目が赤くなった。

「俺も最初はらなかった」

「でも、ってのは枚じゃ分からないもんだな」

ゆいはさく笑った。

「社だけでした」

「何が?」

「学歴を見ても追い返さなかったの」

夫はし照れたようにをこすった。

「俺は難しいこと分からねえからな」

「でも、事なことを分かってました」

「そうか?」

「はい」

ゆいはげた。

「本当にありがとうございました」

夫は慌てた。

「やめろよ。俺の方が助けてもらったんだから」

その

側から声がした。

「ゆい先!」

「だから先はやめてくださいって!」

しい加条件、見てくれ!」

「今きます!」

ゆいは笑って事務した。

夫はその背を見送った。

初めてここへ来た

女はずっと俯いていた。

今は違う。

顔をげて歩いている。

まで、このではつ、またつとかりが消えていた。

夫も、自分のがいつその仲になるかと毎怯えていた。

だが今朝も、シャッターの隙からが漏れている。

旋盤のモーター音が響いている。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: