"質屋に出された夫の時計" 第9話
千代はった。
しかった。
夫婦として過ごしたすら嘘だったのではないかとった。
だが。
はつずつ裏返った。
秘密の部は。
女と会うためではなかった。
会社に見つからない所へ証拠を保管するためだった。
引きしたは。
自分が逃げるためではなかった。
会社を辞めることになった、千代を困らせないためだった。
汽の切符は。
京から姿を消すためではなかった。
正をる元技師へ相談しにくためだった。
帳簿は。
会社のを盗む記録でもなかった。
会社が正な材料を使った証拠だった。
そして。
懐計。
を偽装するため誰かへ渡したのでもなかった。
信介が度助かった。
取り残された職を助けるため再び危険な所へ戻り。
そこで落としたものだった。
震災は。
だけではなく。
所も。
帳面も。
の証言も。
「昨まで確かにしていたもの」を、夜で消してしまった。
だから信介の最を完全にることは、最までできなかった。
どの瓦礫のにいたのか。
のからどこまで逃げられたのか。
最に何を考えたのか。
それは分からない。
でも千代には。
もうつだけ確かなことがあった。
信介は逃げなかった。
会社の正からも。
自分が正しいとったことからも。
助けを求めていたからも。
何も話さない、器用な男だった。
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妻を配させたくないと言いながら。
結果には誰より配させた。
「あなたらしいわね」
あるの。
千代は懐計を掌に置きながら笑った。
もう涙はなかった。
夫を疑ったも消えない。
そのことも含めて。
自分がった信介の最だった。
正1291。
午1158分。
つのきな災害が京を襲った。
その翌から。
千代は「んだはずの夫」が本当は何をしていたのかを探し続けた。
答えを運んできたのは。
役所の記録でも。
会社の証でもなかった。
度、質へ持ち込まれたさな懐計だった。
その計が辿ったを追うことで。
千代はようやくった。
自分が「族を捨てようとしていた」と疑った夫が。
本当は最まで。
族と、自分自の信じるものを守ろうとしていたことを。
千代は計の蓋を閉じた。
そして箱のへ、信介のと緒にしまった。
保したかったのは、価な計ではなかった。
夫を疑った自分を責めるためでもなかった。
度はすべてを失ったとった震災ので。
残されたさな痕跡を拾い集めることで、ようやく辿り着いた事実。
――桜井信介という男は、最まで何からも逃げなかった。
そのことだけを。
千代は涯、忘れなかった。
それからも千代は、毎9になると信介の革鞄を取りした。
はきれいに落としたものの、表面に残った傷までは直さなかった。
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角にはが入り込んだ跡がく残り、留め具の片方もし歪んだままだった。
品のように戻してしまえば、あのまで消えてしまうような気がしたからだ。
鞄のには、信介のと懐計を緒に入れていた。
々、千代はった。
もし91に震が起きなかったら、信介は翌朝、予定通り浦へ向かっていただろう。
田所に帳簿を見せ、会社の正について相談した。
その、会社へ戻ったのか。
辞表をしたのか。
誰かと激しく争ったのか。
あるいは何事もなかったような顔をして帰宅し、夕飯の席で初めて千代に事を話したのかもしれない。
「実はな」
そんなふうに、いつものい声で切りしただろうか。
千代がれば、
「だから言わなかったんだ」
と困った顔をしたかもしれない。
その先には、本来なら続いていたはずの夫婦の暮らしがあった。
になれば鉢を囲み。
になれば所の桜を見て。
歳を取れば、信介はますます無になっていたかもしれない。
けれど、その未来は正1291で途切れた。
だから千代は、夫を必以に派なとして語ろうとはしなかった。
「うちのは英雄だった」
そう言ったこともなかった。
信介はただの会社員だった。
数がなく。
妻に事なことを相談するのもで。
正しいとったことを曲げられないせいで、には周囲と衝突する、器用な男だった。
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