"48歳の誕生日、母親をやめました" 第18話
メリッという乾いた音が、静かな部に響いた。
現れた隠しページには、びっしりと文字がかれていた。
それは族のスケジュールではなく、久美子自の記だった。
付は久美子がをたあののもの。
48歳の誕の付だった。
『今は私の誕』
丸みを帯びた久美子の字がそこにはあった。
『朝起きた、誰か1でもおめでとうと言ってくれるかな?しだけ期待してしまった。でもみんな忙しそうだから仕方ない。夜はしだけ奮発して美しいすき焼きにしよう。彦さんが仕事帰りにさなケーキを買ってきてくれるかもしれない。健太と美結がをくれるかもしれない。そうしたら緒に笑ってべよう。』
そこには族へのささやかで純粋な期待が綴られていた。
決して価なプレゼントや豪華な事を望んでいたわけではない。
ただ族からのさなと関を待っていたのだ。
15の苦労がその言で報われると信じていたのだ。
しかしそのの文章は何度もペンで黒く塗りつぶされていた。
い圧でが破れるほど激しく、ぐちゃぐちゃに消されている。
涙が落ちたのか、インクがひどく滲んで広がっていた。
どれほどのしみと絶望を抱えて、この文字を消したのか。
そしてページの最、1番の余にたった1だけ、静かな文字でこうかれていた。
広告
『私の誕を覚えているは、このに誰もいませんでした。』
彦はそのから目をすことができなかった。
全の血が逆流するような、恐ろしい覚に襲われた。
彦のから、獣のような嗚咽が漏れた。
「ああ……ああ」
膝から崩れ落ち、ノートに顔を押し付けて泣き叫んだ。
「俺は、俺たちはなんてこと」
どれほど残酷なことをしてしまったのか。
久美子はあの夜、どんないでこのをいたのだろうか。
朝から晩まで族のために働き、たった言の謝を待っていた。
期待して見事に裏切られて、1で静かに絶望したのだ。
美結が自分の髪を掻き毟りながら、声をあげて泣き叫んだ。
「お母さん、ごめんなさい。ごめんなさい」
美結は涙をこぼした。
「私、お母さんの誕全然気にしてなかった。友達の誕はあんなに切にしてプレゼント買ってたのに、1番切なお母さんを無してた」
自分の母親を友達以のとして扱っていた罪悪。
それが美結のを完全に々に壊していた。
健太もに何度もを打ち付けて号泣している。
「俺、ゲームばっかりして母さんの顔も見てなかった。母さんがどんな顔で泣いてたか全然らなかったんだよ。俺最だ。のクズだ」
15自分を育ててくれた母親の痛み。
それに気づきもしなかった自分自に、健太は絶望していた。
広告
彦もが完全にへし折れていた。
会社でられて仕事がうまくいかないことなど、どうでも良かった。
おがないことも、がゴミだらけで汚いことも全く問題ではなかった。
1番の恐怖は、自分たちがのを持たない化け物だったという事実だ。
1の女性のとを骨の髄までしゃぶり尽くした。
そして謝の言葉1つすら与えずにボロ雑巾のように捨てたのだ。
彦は涙でぐしゃぐしゃになった顔をげた。
「俺は、久美子のを殺したんだ」
事を全くしない偉そうな夫。
文句ばかり言って母親を召使いのように扱う子供たち。
自分の介護を全て押し付けて謝もしない義父。
このそのものが、久美子のを殺すための残酷な牢獄だったのだ。
あの夜、久美子は静かに微笑んでいた。
『もう母親やめます』
あの笑顔は、族への最の別れの挨拶だったのだ。
完全に見切りをつけた絶望の笑顔だった。
それに気づかず全員で馬鹿にして爆笑した自分たちの姿。
彦は自分自を今すぐ殴り殺したい衝に駆られた。
どうしても謝りたかった。
たとえ許してもらえなくても、顔も見たくないと言われても、この罪をから謝罪しなければならなかった。
彦はフラフラとちがり、の固定話に向かった。
自分のスマートフォンは、とっくにブロックされている。
だが固定話からなら久美子に繋がるかもしれない。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
「冷たい嫁」と書かれた分担表
義母の介護を一人で背負うことを断った佐和子に、夫は冷たく言い放った。 「介護をしないなら、遺産は弟夫婦に譲る」 これまで買い物も通院も掃除も、黙って引き受けてきたのは佐和子だった。それなのに、義母の家で現金が消え始めると、疑いの目は真っ先に彼女へ向けられる。 さらに見つかったのは、義母が書いたはずの《佐和子さんがしたこと》というノート。そこには、覚えのない失敗や盗みの記録が並んでいた。 本当に義母の思い込みなのか。 それとも、誰かが佐和子を“悪い嫁”に仕立てようとしているのか。 介護、遺産、家の売却、消えた薬――。 家族のために我慢し続けてきた妻が、ようやく自分の人生を取り戻すまでの物語。兄弟姉妹|嫁姑|相続|介護1.4萬字5 32 -
完結第13話
閉じ込められた臨月の妻
妊娠38週、予定日まであと12日の加奈。夫が海外出張へ出た2日後、突然訪ねてきた義両親は「様子を見に来た」と言いながら、家事や学歴を責め続けた。そして義母に促され、家庭用サウナの中を確認しようと入った瞬間、背後で扉が閉まる。外側には南京錠。スマートフォンまで奪われた。「私たちから息子を奪った罰よ」。そう言い残し、義両親は5泊7日の温泉旅行へ出発した。水もなく、いつ陣痛が始まってもおかしくない密室。しかし加奈には、義両親が知らないことがあった。このサウナは、かつて一級建築士だった加奈自身が安全設計に関わった機種だった――。嫁姑|親子関係|修羅場2.0萬字5 548 -
完結第12話
ゆで卵ひとつで嫁をやめた朝
夜勤明けの朝9時、16時間働いて帰宅した千明の前に置かれたのは、冷たいゆで卵が1つだけだった。 食卓には夫と義母のための朝食が並んでいる。炊きたてのご飯、味噌汁、焼き魚、小鉢。けれど、千明の分だけはなかった。 「食べられるだけ感謝しろ」 義母のその一言で、千明の中で8年間張りつめていたものが静かに切れる。 同居する義母の生活費、光熱費、食費、固定資産税まで支え続けてきたのは誰だったのか。夫は本当に何も知らなかったのか。そして、毎月の明細に隠れていた“もう一つの家族”とは――。 家を出て3日後、義母からの着信は100件に達した。 たった1つのゆで卵から始まった決別が、8年間隠されてきた家族の金と嘘を暴いていく。嫁姑|絶縁1.9萬字5 1237 -
完結第6話
帰宅した夜、夫の嘘を知った
里帰り出産を終え、生後2ヶ月の息子を抱いてようやく自宅へ戻った美咲。夫・直人との3人暮らしが始まると思っていたその夜、隣人が突然玄関を叩いた。「毎晩毎晩、夜中までいい加減にしてください」。さらに「ご主人には前にも2回注意しました」と告げられ、美咲は耳を疑う。この2ヶ月、美咲は一度も家に帰っていない。では、隣人が何度も見かけた“妻らしき女性”は誰だったのか。問い詰められた直人は「会社の後輩が1度泊まっただけ」と説明するが、翌朝、隣人の証言によってその嘘も崩れ始める。出産のため家を離れていた2ヶ月間、自分の家庭で何が起きていたのか――美咲は静かに真実を確かめ始める。嫁姑|夫婦|不倫8.8千字5 1492 -
完結第15話
消えた実印
嫁が実印を隠した本当の理由。 姑が泥棒だと思った相手は、家を守るために動いていた。 70歳の誕生日を前に、仏壇から消えた大切な実印。 前日に家へ来ていたのは、長男の嫁・香織だけだった。 家の売却を調べていた嫁。 勝手に印鑑を持ち出した嫁。 文江は、すべてを裏切りだと思っていた。 しかし、弁護士から届いた一通の書類によって、隠されていた真実が明らかになる。 母の家を売ろうとしていた本当の人物は誰なのか。 そして、嫁が命をかけて守ろうとしていたものとは――。嫁姑|親不孝2.3萬字5 752 -
完結第10話
捨てられた妻の逆転相続
十年間、義母の介護を一人で背負い続けた妻・恵子。 しかし、四十九日の法要が終わった直後、夫から告げられたのは「もう君の役目は終わった」という冷たい離婚宣告だった。 家族のために尽くしてきた年月を、ただの「役目」としか見ていなかった夫と息子。 何も言い返さず家を出た恵子だったが、翌日、誰も知らなかった一通の封筒が加納家で見つかる。 そこに記されていた亡き義母の最後の意思が、家族の運命を大きく変えていく――。嫁姑|夫婦|介護1.4萬字5 1145 -
完結第11話
私を変えた元嫁
老舗和菓子店「宮本屋」を守ってきた宮本美津江は、一人息子の結婚相手・梨奈を初めて見た時、心の中でこう思った。 「この子なら、教えれば変えられる」 靴の揃え方、挨拶、お辞儀、言葉遣い、店での立ち居振る舞い。美津江はかつて自分が姑に教え込まれたように、嫁である梨奈を“宮本屋にふさわしい人”へ育てようとした。 最初は頼りなかった梨奈も、やがて店の顔となり、若女将として客に愛される存在になっていく。売上も伸び、雑誌やテレビにも取り上げられ、美津江は誇らしげに言った。 「この子は、私が育てたのよ」 けれどその言葉は、少しずつ梨奈の心を傷つけていた。 そんな中、息子・拓海の裏切りが発覚する。梨奈は家を出て、宮本屋を去る決意をするが、美津江が最初に心配したのは、嫁の心ではなく店の未来だった。 梨奈は本当に、美津江に育てられただけの嫁だったのか。 そして、宮本屋に残された美津江は、梨奈のいない店で初めて、自分が何を奪い、何を見落としてきたのかを知る。 嫁を変えようとした姑と、自分の人生を取り戻そうとした元嫁。 これは、家族でも他人でもない二人の女性が、衝突の末にもう一度向き合っていく物語。嫁姑|第二の人生1.6萬字5 403 -
完結第11話
捨てた料理の代償
義母・美智子と同居しながら、穏やかに暮らしていた奈々子。 ところが、お盆になると義妹の杏奈夫婦が突然帰省してくる。連絡もなく家へ上がり込み、食事を当然のように食べ、手伝いもせず、さらには義母へ金まで借りようとする二人。注意されるたび、杏奈は奈々子を「他人」扱いし、実家を乗っ取った嫁のように責め続けていた。 そして迎えたお盆の夕食。 食卓に並んだ料理を見た杏奈は、皆の前で言い放つ。 「他人が作った食事なんて、汚くて食べられない」 さらに翔太まで調子に乗り、料理を捨てようとする。 しかし、その料理には杏奈夫婦が知らない“ある秘密”があった。 閉じられていた和室の襖が開いた瞬間、杏奈の顔色は一変する。 翌朝、この家を出ていくことになったのは、「他人」と呼ばれた奈々子ではなかった――。兄弟姉妹|嫁姑1.7萬字5 8139 -
完結第13話
実印を押さない母
3年前、「半年だけ」という約束で始まった息子一家との同居。 夫を亡くし、一人暮らしだった67歳の佐伯佳代子は、息子夫婦と孫たちを自宅に迎え入れた。最初は賑やかで温かな暮らしだったが、いつの間にか食事、洗濯、孫の送迎、生活費の負担まで、すべてが佳代子の“当然の役目”になっていく。 そんなある日、息子が何気ない口調で切り出した。 「母さん、この家さ。そろそろ俺の名義にしない?」 家族だから。どうせ将来は相続するから。リフォームのためだから。 そう説明されながらも、佳代子の胸には小さな違和感が残る。そして偶然見つけた一枚の書類には、名義変更後の家の売却と、佳代子を高齢者住宅へ移す計画が書かれていた。 家族のために黙ってきた母が、初めて自分の人生を選び直す。 名義変更の日、佳代子が判子を押したのは、家を渡す書類ではなかった――。嫁姑|親子関係|金銭問題2.0萬字5 2078 -
完結第14話
4200万円の隠し家
日曜日の午後、佳代のもとへ義母から一本の電話が入る。 「家のローン、なんでまだ払ってないの?」 しかし佳代には、心当たりがなかった。夫・慎也から聞かされていたのは、義母と義妹が“手頃な賃貸”へ引っ越したという話だけ。けれど電話をきっかけに調べてみると、そこには4200万円で購入された新築の家と、夫が背負った3600万円のローンが隠されていた。 しかも所有者欄には、夫と義妹の名前。妻である佳代の名前はどこにもない。 さらに慎也は、亡き父が佳代に残した2400万円の遺産まで、返済計画の一部として勝手に考えていた。義母にも義妹にも、それぞれ都合のいい説明をしながら。 「家族のため」という言葉の裏で、夫は一体どこまで嘘を重ねていたのか。 一本の電話から、27年間信じてきた夫婦の形が静かに崩れ始める。人生逆転|嫁姑|金銭問題2.2萬字5 2062