"家族写真の左端" 第7話
を守る。
を守る。
瀬の名を守る。
たちは何度もその言葉を使う。
だが、守るために1のをいなかったことにしていいのか。
をしたあとで助けてもらい、その事実まで隠してきていくことが、本当にを守るということなのか。
そのの午、清郎は帳へた。
源蔵は普段通り、番と帳簿を見ていた。
父の横顔を見ながら、清郎は初めて考えた。
このはずっと兄の代わりにここへ座ってきたのだ。
そして、このが度兄に救われたこともっている。
清郎が線を向けていることに気づいたのか、源蔵が顔をげた。
「何だ」
「……何でもありません」
清郎は度、目を逸らした。
しかし、そのままちることはできなかった。
「父」
「何だ」
「あの写真、本当に捨てるんですか」
源蔵の表が固くなった。
「その話は終わった」
「僕は残してほしいです」
「清郎」
「伯父の写真なんでしょう」
帳のそろばんを弾く音が止まった。
番が気まずそうに線を落とす。
源蔵はい声で言った。
「誰から聞いた」
清郎は答えなかった。
だが、父には分かったらしい。
「母さんか」
清郎は目を逸らさずに言った。
「宗吉伯父が、を助けたことも聞きました」
源蔵の顔から、すっとが消えた。
そのの夕方、清郎は父の部へ呼ばれた。
源蔵は机のに座り、問題の族写真を置いていた。
広告
く写った宗吉の姿は、何度見ても議だった。
はっきりそこにいるのに、今にも消えてしまいそうなほど淡い。
「母さんから、どこまで聞いた」
源蔵が尋ねた。
清郎は正直に話した。
宗吉が男だったこと。
ハナという女性を選び、をたこと。
横浜へったこと。
くなる、瀬の糸を売るために力を貸したこと。
源蔵は度も遮らなかった。
すべて聞き終えると、く息を吐いた。
「余計なことを」
「余計なことではないといます」
源蔵の目が向く。
清郎はし怖かった。
それでも言った。
「伯父は瀬のだったんでしょう」
「昔のことだ」
「昔でも、なくなるわけではありません」
源蔵は黙った。
「どうして父は、今まで誰にも話さなかったんですか」
「話してどうなる」
「なくとも、僕たちは伯父がいたことをることができます」
「って何になる」
「族だったをらないままよりいいです」
源蔵は机のの写真へ目を落とした。
清郎は初めて、父の顔にりではない疲れを見た。
「おは兄貴をらない」
「だからりたいんです」
その言葉に、源蔵の眉がわずかにいた。
しばらくして、源蔵はぽつりと言った。
「子どもの頃は、何をやっても兄貴には勝てなかった」
清郎は黙った。
父が自分から宗吉のことを話したのは、それが初めてだった。
「そろばんも、読みきも、の顔を覚えるのも。
広告
俺が父に褒められるには、必ずそのに兄貴がもっとくやっていた」
源蔵は苦笑ともつかない表を浮かべた。
「俺はずっと、兄貴の弟だった」
それでも、兄が嫌いだったわけではない。
宗吉が町へるには、源蔵もついてきたがった。
の帳でしい仕事を任されたには、宗吉がこっそり教えてくれたこともあった。
ある、源蔵が帳簿の数字を違えて父親に叱られた。
夜になって宗吉が隣へ座り、何も言わずにもう度計算の仕方を教えたという。
「嫌いだったんですか」
清郎が尋ねた。
源蔵は写真を見たまま首を振った。
「いや」
しを置く。
「だから困るんだ」
その言葉は、きぬが話したことと同じだった。
宗吉がいなくなったから、自分がを継げた。
宗吉が捨てた跡取りの座へ、自分が座った。
父親からは、何度も宗吉のようになるなと言われた。
を守れ。
勝なことをするな。
の名を汚すな。
源蔵は、その教えを守ってきてきた。
「兄貴の名をせば、父の決めたことを否定することになるとっていた」
「祖父がくなったもですか」
「く守った決まりというのは、そう簡単には消えん」
源蔵はを組んだ。
「それに、兄貴の名を戻せば、俺は何者になる」
清郎にはすぐ分からなかった。
源蔵は続けた。
「本来、を継ぐではなかった。
兄貴がをたから、俺がになった。俺が今ここにいるのは、兄貴が追いされたからだ」
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
七〇二号室の秘密
入籍12日目、初めて義実家を訪れた遥香は、豪華なすき焼きの陰で、義姉・真帆が水をかけた冷や飯だけを食べさせられている姿を目撃する。 真帆から託された住所を訪ねると、そこには夫・直樹がいた。彼は義姉の避難部屋を用意しながら、兄と母を恐れて救出を先延ばしにしていたのだ。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|真実|裡の顔|修羅場2.0万字5 219 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 285 -
完結第21話
昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由
昭和二十九年、上棟式の朝。棟梁・源吉は、自ら建てた家の柱に異変を感じ、祝いの客の前で斧を振り下ろす。内部から現れたのは、黒く傷んだ木だった。 仕事も信用も失いかける中、娘が見つけた不自然な印と、材木置場の青年の証言から、粗悪材の印を改ざんして売る仕組みが明らかになる。しかし源吉自身も、十分に検品せず判を押していた。時代|歴史|昭和2.7万字5 167 -
完結第20話
桑の音が消えた村
昭和三十五年、信州の養蚕村で、蚕が一夜にして全滅する。唯一無事だったのは、昔ながらの方法にこだわり、村人から笑われていた七十八歳のトヨの蚕室だった。 疑いを向けられた祖母だったが、原因は共同散布された新しい薬剤にあった。しかも農事組合を率いる息子・慎造は、事前に危険性を知らされていた。時代|歴史|昭和2.5万字5 145 -
完結第20話
金色の髪を隠して嫁いだ私と、無口な写真師の約束
昭和四十二年。英国人の父から受け継いだ金色の髪を「家の恥」とされ、黒く染め続けてきた月子は、写真師・湊のもとへ嫁がされる。 雨で黒い煤が流れ、秘密が露わになっても、湊は彼女を拒まなかった。月子は写真館で働きながら、母の手紙や父の存在、叔母が隠してきた過去と向き合っていく。 見世物のように利用しようとする町の男にも屈せず、「何を見せるかは自分で決める」と声を上げる月子。隠された少女が、自分の姿と人生を取り戻す物語。時代|歴史|昭和2.9万字5 154 -
完結第12話
母に贈った家を狙う親戚夫婦
母への恩返しに建てた家へ帰ると、親戚夫婦が勝手に住み着き、食卓を囲んでいた。しかも二人は近所に「自分たちの新居だ」と触れ回り、家まで奪おうとしていた。 裕子は怒鳴らず、警備会社への一本の電話をきっかけに、入退室記録、録音、登記、映像を着実に集めていく。 これは家を取り戻すだけでなく、断れずに生きてきた母が初めて「ここは私の家です」と声を上げる物語。静かな反撃と、母娘が本当の安心を取り戻す再生の一篇。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場1.8万字5 2716 -
完結第16話
赤いガーベラと私の家
母の形見の絵を嫁に勝手に売られ、家事を当然のように押しつけられてきた50歳の愛子。限界を迎えた彼女は、母の保険金で購入した小さな家へ一人で移り住む。 ところが長男夫婦は、新居まで「実家」と決めつけ、家事をしてもらうつもりで強引に引っ越そうとする。愛子は荷物の受け取りを拒み、専門家の助言を得て、同居を認めない意思を書面ではっきり示す。 やがて母の絵は親切な購入者の手によって戻り、愛子は長男夫婦に「この家にあなたたちの部屋はない」と告げる。彼女が去った古い家では、夫も息子夫婦も、これまで愛子が背負っていた家事の重さを初めて知ることになる。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|金銭問題1.6万字5 865 -
完結第18話
昭和38年、つなぐなと言われた救急電話
昭和38年、山間の電話交換所で働く澄子は、診療所から県立病院への緊急電話を受ける。重傷の17歳を救うための連絡だったが、主任は「その電話だけは絶対につなぐな」と命じた。 少年が亡くなった後、澄子の判断ミスとして処理されようとする。しかし記録を調べると、救急回線が止められていた時間にも、工事会社と本社、町役場の間では電話がつながっていた。時代|歴史|昭和|ミステリー2.3万字5 263 -
完結第20話
昭和34年、上野駅で名前を奪われた少女
昭和34年、青森から集団就職列車で上京した15歳の澄子。しかし迎えの男は、「佐藤澄子は昨日から働いている」と告げ、十二人のうち彼女だけを駅に置き去りにする。 工場では、石川鈴という少女が澄子の名前と勤務番号を与えられていた。さらに偽造された退職届、説明のない給与控除、未発送の手紙など、少女たちを名前と番号で管理する不正が次々と明らかになる。時代|歴史|昭和2.8万字5 1185 -
完結第16話
昭和53年、棟梁が俺を毎晩残した理由
十五歳で大工に弟子入りした直人は、一年間、掃除と雑用ばかりの日々を送っていた。ところが昭和五十三年の春、厳格な棟梁・源造から突然、「今日から毎晩残れ」と命じられる。 鉋、墨付け、仕口、図面。三年かけて覚えるはずの技を急いで教え込まれる一方、棟梁の体は日に日に弱っていく。やがて直人は、夜の稽古が自分を酷使するためではなく、残された時間で技術を託すためだったと知る。 師のいない現場で家を完成させた直人に遺されたのは、「半人前」と書かれた道具箱。しかし、その紙の下には、棟梁が生涯口にしなかった本当の言葉が隠されていた。時代|歴史|昭和2.6万字5 285