"貧乏人と呼ばれた食卓" 第2話
昔からあるところなの」
「へえ……」
美はもう度ケーキへ線を落とし、しだけで笑った。
「ずいぶん庶民ななんですね」
私は返事ができなかった。それほど酷い言葉ではないはずなのに、彼女の言い方には、ケーキではなく、それを選んだ私自を値踏みするような響きがあった。
その直、匠が戻ってきた。
「美、どう? 母さんの選ぶ、昔から俺好きなんだよ」
「うん、すごく美しい」
美は瞬で先ほどまでの表を消し、らしく笑った。
私は何も言わなかった。
ただ、胸の奥にさな棘が1本だけ残った。
そのの夕方、次男の徹が仕事を終えて遅れて帰ってきた。美は徹を見るとすぐちがり、「初めまして」とるく挨拶をしたが、徹の方は珍しく歯切れが悪かった。普段なら初対面のともすぐ打ち解ける息子なのに、そのはい返事を繰り返すだけで、自分から話題を広げようとしなかった。
「徹君、学までサッカーをしていたんですよね。ポジションは?」
「フォワードです」
「すごい。スポーツができる男性って格好いいですよね」
「どうも」
会話はそこで途切れた。美は気まずさを埋めようと自分の学代の話を始めたが、徹は適当に相槌を打つばかりで、30分もしないうちに「いから」と2階へがってしまった。
「おい、せっかく美が来てるんだぞ」
広告
匠が満そうに呼び止めたが、徹は振り返らなかった。私は兄弟のに妙な空気が流れるのをじたものの、そので注することはしなかった。同士にもうとわないがいる以、無理に仲良くさせても仕方がないとったからだ。
しかし、美が帰る、私は再び奇妙なものを見た。
玄関へ向かう徹の背を、美がたい目で追っていたのである。元には笑みもなく、ほんの瞬だけ眉が歪み、聞き違いかもしれないほどさな舌打ちまで聞こえた。ところが匠が振り向いた瞬、美は何事もなかったように笑顔へ戻った。
その夜、夫に相談してみた。
「あなた、美ちゃんのこと、どうった?」
「じのいいお嬢さんじゃないか」
「そうよね……」
私はケーキのことを話そうか迷ったが、その程度のことで息子の恋を悪く言う姑になりたくなかった。隆志も昔からの悪を嫌うなので、証拠もない違を伝えたところで、私自が偏見を持っているとわれるかもしれなかった。
ただ、そのの夫の様子にも、し気になるところがあった。
美が名乗った「神」という姓を聞いた、隆志はほんの瞬だけ黙ったのである。その、美の父親の仕事について匠が話した際にも、夫は「そうか」とだけ答え、詳しく聞こうとはしなかった。
広告
普段の隆志なら、息子が結婚を考えている女性の族について、もうし自然に話を広げるはずだった。
夜も遅くなった頃、徹がリビングへりてきた。蔵庫からを取りしたあと、しばらく私の横にっていたが、やがて決したようにソファへ腰をろした。
「母さん、今のさ」
「美ちゃん?」
「俺、あの苦だ」
私はわず徹の顔を見た。何か具体な失礼をされたのか尋ねると、徹は首を振り、「説できないんだけど」と置きしてから言葉を続けた。
「俺が部から戻ってきた、兄ちゃんがまだ廊にいて、美さんはだったんだ。その、俺の計を見て、いくらくらいするのか聞かれた。それから親父の会社って、商どれくらいなのかって」
「そんなことを?」
「兄ちゃんが戻ってきた瞬に、仕事の話へ変えたけどな」
徹はの入ったグラスを両で包みながら、し考え込むように俯いた。
「あの、そのものより、持ってる物を見る癖がある気がする。計とかとか仕事とか、そういうのを先に確認するんだよ」
その言葉を聞いた、私は昼の「庶民な」という言をいした。私と徹が別々の面で同じ違を覚えたのなら、単なる気のせいではないのかもしれない。それでも私は、息子が選んだを疑うことに罪悪を覚えていた。
翌朝、その話がわぬ形で匠のに入った。徹が朝の席で「兄ちゃん、本当にあのと結婚するの?」とにしたため、匠が理由を問い詰めたのである。
広告
おすすめ作品
-
完結第24話
十三通の退職届と百七回の着信
「この店もこれで終わりだな」――父の葬儀からわずか数日、84年続く料亭「花の屋」を継いだ私・綾乃に、32年間店を支えた板長・黒田が突きつけたのは、従業員13人分の退職届だった。料理のできない私を「素人」と嘲り、常連客も仲間も自分についてくると豪語して、新しい店を開くという。父を失った直後に板場まで空になり、予約46件を断るしかなくなった私は、町から「娘では無理だった」と囁かれても黒田たちを引き止めなかった。腕の落ちる料理人を急いで入れれば、守るべき店の名まで失うからだ。そんな中、父が30年間、従業員が辞めるたびに記していた一冊の大学ノートが残されていた。そこに並ぶ名前を追い始めた時、私は黒田が信じていた「花の屋を支えるもの」と、父が本当に守ろうとしていたものの違いに気づき始める――。親子関係3.6万字5 22475 -
完結第20話
婿との温泉旅行で、仲居から渡された「逃げて」のメモ
七十歳の元大工・桐山正三は、婿の達也に誘われ、信州の温泉旅館を訪れる。亡き妻との思い出に浸るはずだった夜、仲居から渡された一枚のメモには、「その酒を飲まず、裏階段から逃げてください」と書かれていた。達也が狙っていたのは、正三が妻と築き上げた家と土地だった。必死に逃げ帰った正三を待っていたのは、娘の貯金六百八十万円の行方と、身に覚えのない不動産売買契約書。なぜ仲居は危険を冒してまで彼を助けたのか。家族の財産と娘の人生を守るため、老大工の静かな反撃が始まる。怒り|親不孝|真実|親子関係|修羅場2.8万字5 840 -
完結第18話
父の一周忌、兄が追い出そうとした母子の契約書
父の一周忌を終えた翌朝、45歳の西村綾子は、空き家のはずの実家で見知らぬ母娘に出会う。兄の正人は「不法占拠だ」と警察を呼ぶが、12歳の少女が差し出したのは、亡き父の署名が入った三年間の賃貸借契約書だった。さらに兄は、綾子に無断で実家の売却を進めていたことが判明する。父はなぜ、家族にも知らせず母娘を住まわせたのか。そして、兄がそこまでして家を売ろうとする本当の理由とは。父の遺した一枚の契約書から、家族が隠してきた秘密が次々と明らかになっていく――。怒り|真実|絶縁|親子関係|修羅場2.2万字5 178 -
完結第10話
出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜
札幌へ出張中の宮崎亮平に、深夜十一時、八歳の娘・美和から一本の電話がかかってきた。 「パパ、ママと物置で寝かされてるの。寒いよ……」 半年前から同居を始めた母の貴子は、妻の早苗と娘を冷遇していた。しかし亮平は、妻の訴えを「母さんに悪気はない」と聞き流し続けていた。 翌朝、急いで帰宅した亮平が見つけたのは、外から扉を固定された物置で震える妻と娘。そして早苗が隠し持っていた一枚の契約書だった。 そこには、妻の不動産持分を妹へ無償譲渡するという信じがたい内容が記されていた。 家族を守るはずの家で、母と妹はいったい何を企んでいたのか――。祖父母と孫|真実|裡の顔|真相|親子関係1.5万字5 423 -
完結第18話
出産の日に捨てられた私の逆転
身分を隠し、愛する夫との平凡な幸せを選んだスー・ジーイェン。 しかし出産を目前にした日、夫のティンフォンは別の妊婦に付き添い、破水した妻を病院で見捨てた。 「俺が戻るまで勝手に産むな」 助けを求めても冷たく突き放され、絶望の中で彼女が押したのは、七年前に父から渡された銀色のペンダントだった。 その五分後、病院の空気が一変する。 身寄りのない女だと見下されていた彼女には、誰も知らない秘密があった。 夫の裏切りから始まった悲劇は、やがて病院全体を揺るがす巨大な不正へとつながっていく――。夫婦|第二の人生|親子関係|修羅場|不倫2.1万字5 1106 -
完結第20話
正月に八人で来る嫁へ、家は売りました
68歳の頼子は、毎年正月になると、息子の嫁から大人数の宿泊や豪華な料理、お年玉まで当然のように押しつけられていた。 さらに嫁は、留守中に合鍵で侵入して宴会を開き、頼子の家を将来の相続財産として勝手に査定していた。息子も「家族だから」と妻をかばうだけだった。嫁姑|親不孝|第二の人生|ATM扱い|親子関係|金銭問題2.6万字5 4271 -
完結第20話
昼寝ばかりの嫁が、潰れかけの餅屋を救うまで
借金四千三百万円を抱え、閉店寸前の老舗餅店。家族が寝る間も惜しんで働く中、嫁の美穂だけは店の隅で昼寝を続けていた。 ところが大口注文で二百万円を売り上げても、残ったのは六十万円の赤字。美穂は帳簿を分析し、赤字商品や無料配達、掛け売りを次々と整理していく。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係|修羅場2.6万字5 294 -
完結第13話
母の遺品と千万円の組紐
「これをどこで手に入れたんですか?」――家賃三ヶ月を滞納し、退去通告を突きつけられた三十九歳のシングルファーザー・大輔。六歳の娘を抱えて困窮する彼は、七十歳で逝った母の遺品である反物と組紐を売ろうとするが、店員に数百円のゴミ扱いされる。だが路地裏の老舗呉服店へ持ち込んだ瞬間、女主人は青ざめ指を震わせた。生前「古臭い」と見下していた母の手仕事。仏壇の奥から見つかった桐箱と、三十年分の手帳に記された数千万円に及ぶ謎の記録。母は何者だったのか? 箱の底に残された「困った時の支えにしなさい」というメモの真意とは――。親子関係|金銭問題1.9万字5 241 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 1458