"尋ね人が呼んだ母の旧姓" 第5話
それでも恵子を連れていた。
幼い恵子は、本へ着いたからといって急に文子かられられるようにはならなかった。
むしろい移の、文子だけを頼りにしてきたため、姿が見えなくなるとそうに探した。
「お母さん」
そう呼ばれるたび、文子は複雑な気持ちになった。
本当の母親は子だ。
自分は違う。
それは分かっていた。
だが、今ここで恵子の世話をしているのは自分だった。
ところが、帰国してもなく文子自が体調を崩した。
無理をねていた疲れが気にたのかもしれない。
「このままでは、この子の面倒を見られない」
文子は苦しい決断をした。
恵子を、に施設へ預けることにしたのだ。
あくまで体が戻るまでの。
元気になったら必ず迎えにく。
そう決めていた。
「すぐ迎えに来るからね」
恵子へ何度もそう言った。
幼い恵子がどこまで理解していたのか、文子には分からなかった。
ただ、別れるにをそうとしなかった触だけは、そのもく忘れることができなかった。
数か。
文子はようやくけるようになり、恵子を迎えにった。
だが、そこでいもしないことを告げられた。
「恵子さんなら、もうこちらにはいません」
文子はが分からなかった。
「いないって、どこへったんですか」
い親戚を名乗るが現れ、引き取っていったという。
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文子は慌てた。
「私は母親として連れて帰ってきたんです」
だが、文子自にも正式な親子関係を証するものはなかった。
記録には母とかれていたものの、もともとは混乱ので作られたものだった。
実際に産んだ母親ではない。
養子縁組をしたわけでもない。
文子は教えられた所を追った。
もした。
だが、相のはすでに転居していた。
しい所を探してまた連絡した。
そこでもき違った。
戦の混乱が続く、がどこへ移ったのか正確に追うことは簡単ではなかった。
「探さなかったわけじゃないの」
文子は清に向かって言った。
「でも見つからなかった」
何度か掛かりを失ううちに、文子自の暮らしも変化していった。
毎をきるため働かなければならなかった。
む所も定していなかった。
「いつか、ちゃんと探そうとってた」
文子は苦しそうに続けた。
「でも、その『いつか』がどんどんくなった」
やがて清と会った。
結婚することになった。
その、文子は恵子のことを話そうとしたこともあったという。
だが言葉にできなかった。
「どう説したらいいか分からなかったの」
清は黙って聞いていた。
「私の娘じゃない。でも、娘だと言って本へ連れて帰った。しばらくは本当に母親みたいに暮らしていた。それなのに途でればなれになって、それから見つけられなかった」
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それを夫になるへどう話せばいいのか分からなかった。
隠し子と誤解されるかもしれない。
嘘をついた女だとわれるかもしれない。
何より、自分自が恵子にとって何だったのか、文子にも説できなかった。
清と結婚し、夫がまれた。
そのも子どもがまれ、岡田としての暮らしができていった。
朝起きて事を作る。
夫を送りす。
子どもを育てる。
洗濯をする。
買い物へく。
そうした常が積みなるほど、満州で過ごした々はくなっていった。
同に、恵子について話すことも難しくなった。
1話せなければ、翌はもっと話しにくくなる。
5が過ぎ、10が過ぎた。
「どうして俺に言わなかった」
清が聞いた。
責めるというより、理解しようとしている声だった。
文子は涙をこらえながら答えた。
「怖かったの」
「何が怖かった」
「私自が、あの子にとって何だったのか分からなかったから」
本当の母ではない。
正式な養母でもない。
けれど、あの混乱のでは確かに母親としてきた。
「もし話したら、私はあの子を捨てたことになるような気がした」
文子の声が震えた。
「探しきれなかったことを、自分で認めるのが怖かったの」
夫はその言葉を聞きながら、母を初めて「母親以の1の」として見た気がした。
文子が話し終えると、茶のにはい沈黙が落ちた。
清は腕を組み、古い記録を見つめていた。
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