"帰る家は、ちゃんとあった" 第3話
何度失敗しても諦めず、問題が起きればのせいにせず、自分で考えてて直す。
私はそんな兄の背を見ながら育った。
自分も音ばかり吐かず、へめるになりたいとった。
私がを卒業した、兄は言った。
「霞、うちで働かないか」
「お兄ちゃんの会社で?」
「ああ。無理にとは言わない。でも伝ってもらえるなら助かる」
兄の力になりたい。
そうった私は、迷わずその申しを受けた。
最初は分からないことばかりだったが、しずつ仕事を覚えた。
類を理し、取引先との連絡を取り、数字を確認する。
その、兄は介護事業へも事業を広げていった。
私は主に事務を担当し、宅でも仕事ができるようになった。
責任のある業務を任されることも増えた。
決して「パソコンを触っていれば終わる仕事」ではない。
複数の案件がなれば朝から夕方まで席をてないこともあるし、納期が迫れば神経を使う。
私はその仕事に誇りを持っていた。
恋については、それまでほとんど縁がなかった。
そんな私がの紹介で会ったのが、順だった。
最初に会ったの順は、今とはずいぶん違っていた。
話しやすく、こちらの話にもを傾けるだった。
何度か事をするうちに自然と交際が始まり、やがて結婚することになった。
結婚して3。
広告
私たちのに子供はいない。
普段は2で暮らし、私は自宅のを仕事部にしていた。
デスクにはパソコンと資料が並び、朝になるとそこへ入り、兄の会社の仕事を始める。
順も私が宅で事務系の仕事をしていることはっていた。
ただし、それが兄の会社だということまではらなかった。
隠していたつもりはない。
順が聞かなかったのだ。
「今どうだった?」
私が順の仕事について尋ねることはあっても、彼が私の仕事内容を詳しく聞くことはなかった。
私は特に気にしていなかった。
夫婦だからといって、仕事の全てを理解しう必はない。
そうっていた。
結婚当初は、緒に夕を取ることもかった。
休には2でかけることもあった。
ところがが経つにつれて、順の仕事が忙しくなった。
朝くて、夜遅く帰る。
疲れきった顔で玄関をけ、そのままソファへ倒れ込むことも増えた。
しずつ、のの空気も変わっていった。
ある夜、私は仕事を終え、夕を温め直していた。
順はネクタイを緩めながら私のパソコンを見た。
「おはいいよな」
「何が?」
「でパソコンいじってれば料がるんだから」
私は最初、冗談だとった。
「そんなに楽じゃないわよ」
笑いながら返した。
だが順は笑わなかった。
そのを境に、似たような言葉が増えていった。
広告
「宅で稼げるなんて楽だよな」
「俺なんか毎会社にってんだぞ」
そして、あるはこう言った。
「お遊びみたいな仕事でがもらえて羨ましいよ」
その言は、っていた以に胸に刺さった。
「お遊びなんて言わないで」
私はとうとう言い返した。
「宅だけど、ちゃんと仕事をしてるの。責任だってあるし、締め切りだってあるんだから」
順はで笑った。
「何がちゃんと仕事してるだよ。どうせ誰でもできることしかしてないだろ」
「あなたは私の仕事を見たこともないでしょう」
「見なくても分かるよ。でやれる程度の仕事だろ」
し反論すると、何倍もの言葉が返ってくる。
私は次第に何も言わなくなった。
で働いているというだけで、自分の仕事そのものまで軽く扱われることが苦しかった。
そんな私には、もう1つを悩ませるがいた。
順の母親だった。
義母は私たちのから徒歩5分ほどの所で1暮らしをしていた。義父は5に病気でくなっていた。
私は順と結婚する、義母と仲良くなりたいとからっていた。
実母を5歳でくした私にとって、「お母さん」と呼べるが再び族になることが嬉しかったからだ。
しかし、その期待は結婚から崩れ始めた。
義母は1息子の順を取られたとっているのか、初対面の頃から私に対して当たりがかった。
「順は優しいから、あなたみたいなでも面倒を見てくれるのね」
笑いながらそんなことを言われたも、私は聞き流した。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
ハワイへ行った夫の離婚届
認知症で要介護認定を受けた義父・利光を、自宅で介護することになった美香。 「父さんを施設には入れたくない」と言った夫・直人を信じ、美香は仕事を辞め、義父の介護に向き合ってきた。けれど直人は次第に手を貸さなくなり、介護はすべて美香一人の負担になっていく。 そんなある日、直人は突然テーブルの上に離婚届を置き、浮気相手と1週間のハワイ旅行へ出かけてしまう。しかも手紙には、離婚後も父親の介護だけは続けてほしいと書かれていた。 絶望する美香の前で、認知症の義父が一瞬だけ意識を取り戻したように、ある封筒を差し出す。 「これを、木村さんに」 翌日、介護士の木村愛菜がその手紙を読んだ瞬間、物語は大きく動き出す。 夫に捨てられたと思っていた美香。しかし義父は、ずっと前から彼女を守るための準備を進めていた――。第二の人生|絶縁|介護|認知症|不倫2.0万字5 0 -
完結第11話
消えた指輪と義父の手帳
結婚2年目の美咲は、義母・富美子から突然、亡き義父が贈った大切な指輪を盗んだと疑われる。 防犯カメラには、夜中に美咲が仏間へ入る姿が映っていた。だが美咲は、ただ窓を閉めただけ。身に覚えのない疑いをかけられたうえ、夫の亮介までもが「バッグを見せれば終わる」と言ったことで、美咲は家を出る決意をする。 しかしその後、義姉から告げられたのは、7年前にも同じような“盗難騒ぎ”があったという事実だった。 さらに、亡き義父の手帳には、富美子が隠し続けてきた家族の秘密が残されていた。 消えた指輪は、誰が持ち出したのか。 そして義母はなぜ、真実を知りながら美咲を疑い続けたのか――。嫁姑|真実|親子関係1.6万字5 187 -
完結第13話
古い工場を渡された嫁
食品会社を一代で守ってきた山代会長は、ある夜、庭で長男夫婦の会話を偶然聞いてしまう。 「お母様、これから先どれだけ生きられるかしら」 信じていた嫁が、自分の命も会社も、すでに財産として数えている――。その一言をきっかけに、会長はある決断をする。 自分は重い病にかかり、会社も危機にある。そう家族に告げ、2人の嫁に後継者を決めるための試練を与えたのだ。 華やかな長男の嫁・彩佳には会社を。 不器用で人の良すぎる次男の嫁・ユナには、地方にある廃業寸前の古い工場を。 誰もが、勝者と敗者は決まったと思っていた。 しかし3か月後、会社を手に入れた嫁と、古い工場へ送られた嫁の運命は、誰も予想しなかった形で逆転していく――。兄弟姉妹|嫁姑|相続|親子関係2.0万字5 449 -
完結第10話
「冷たい嫁」と書かれた分担表
義母の介護を一人で背負うことを断った佐和子に、夫は冷たく言い放った。 「介護をしないなら、遺産は弟夫婦に譲る」 これまで買い物も通院も掃除も、黙って引き受けてきたのは佐和子だった。それなのに、義母の家で現金が消え始めると、疑いの目は真っ先に彼女へ向けられる。 さらに見つかったのは、義母が書いたはずの《佐和子さんがしたこと》というノート。そこには、覚えのない失敗や盗みの記録が並んでいた。 本当に義母の思い込みなのか。 それとも、誰かが佐和子を“悪い嫁”に仕立てようとしているのか。 介護、遺産、家の売却、消えた薬――。 家族のために我慢し続けてきた妻が、ようやく自分の人生を取り戻すまでの物語。兄弟姉妹|嫁姑|相続|介護1.4万字5 1979 -
完結第13話
閉じ込められた臨月の妻
妊娠38週、予定日まであと12日の加奈。夫が海外出張へ出た2日後、突然訪ねてきた義両親は「様子を見に来た」と言いながら、家事や学歴を責め続けた。そして義母に促され、家庭用サウナの中を確認しようと入った瞬間、背後で扉が閉まる。外側には南京錠。スマートフォンまで奪われた。「私たちから息子を奪った罰よ」。そう言い残し、義両親は5泊7日の温泉旅行へ出発した。水もなく、いつ陣痛が始まってもおかしくない密室。しかし加奈には、義両親が知らないことがあった。このサウナは、かつて一級建築士だった加奈自身が安全設計に関わった機種だった――。嫁姑|親子関係|修羅場2.0万字5 1010 -
完結第12話
ゆで卵ひとつで嫁をやめた朝
夜勤明けの朝9時、16時間働いて帰宅した千明の前に置かれたのは、冷たいゆで卵が1つだけだった。 食卓には夫と義母のための朝食が並んでいる。炊きたてのご飯、味噌汁、焼き魚、小鉢。けれど、千明の分だけはなかった。 「食べられるだけ感謝しろ」 義母のその一言で、千明の中で8年間張りつめていたものが静かに切れる。 同居する義母の生活費、光熱費、食費、固定資産税まで支え続けてきたのは誰だったのか。夫は本当に何も知らなかったのか。そして、毎月の明細に隠れていた“もう一つの家族”とは――。 家を出て3日後、義母からの着信は100件に達した。 たった1つのゆで卵から始まった決別が、8年間隠されてきた家族の金と嘘を暴いていく。嫁姑|絶縁1.9万字5 1756 -
完結第10話
米寿の席で外された嫁
米寿祝いの席で、義母は親族の前で突然言った。 「秋子さんには、明日から店へ来てもらわなくて結構です」 33年間、朝早くから和菓子店《松月堂》を支えてきた秋子。餡を練り、注文を管理し、繁忙期には夜まで働いてきた日々は、義母の一言で“家族の手伝い”として片づけられた。 しかも店から外された秋子に、今度は義母の通院や世話を任せるつもりだった。 何も言わず席を立ったその夜、秋子は古い段ボール箱の中から、亡き義父が残した一通の封筒を見つける。 そこに入っていたのは、秋子を守るための遺言ではなかった。 店の帳簿に隠されていた不自然な金の流れ、説明されていない借金、そして義父が最後まで言えなかった家族の秘密。 「家族だから」という言葉の下で、誰が何を背負わされていたのか。 33年間奪われてきた時間と仕事の価値を、秋子が静かに取り戻していく物語。人生逆転|嫁姑|親子関係1.5万字5 265 -
完結第11話
荷造りの日に消えた夫の行き先
7年間、脳梗塞で倒れた夫・修一を支え続けてきた香織。 仕事を辞め、食事も薬も通院もすべて管理し、夫が再び歩けるようになるまで寄り添ってきた。ところが回復した修一が最初に告げたのは、感謝ではなく「離婚してほしい」という言葉だった。 理由は、妹のいる新潟で暮らしたいから。 香織は、自分の7年間がすべて否定されたように感じる。だが荷物を整理する中で、夫が密かにつけていた一冊のノートを見つける。そこには、香織への感謝と罪悪感、そして誰にも言えなかった本音が記されていた。 さらに引っ越し当日、迎えに来たはずの義妹が突然言い放つ。 「兄は引き取りません」 夫は本当に妻から逃げたかったのか。義妹はなぜ直前で拒んだのか。そして香織が7年間守り続けていたものは、夫だったのか、それとも自分自身の恐怖だったのか。 介護、夫婦、家族の責任、そして人生の後半をどう生きるかを描く、静かな再出発の物語。夫婦|介護1.6万字5 211 -
完結第6話
帰宅した夜、夫の嘘を知った
里帰り出産を終え、生後2ヶ月の息子を抱いてようやく自宅へ戻った美咲。夫・直人との3人暮らしが始まると思っていたその夜、隣人が突然玄関を叩いた。「毎晩毎晩、夜中までいい加減にしてください」。さらに「ご主人には前にも2回注意しました」と告げられ、美咲は耳を疑う。この2ヶ月、美咲は一度も家に帰っていない。では、隣人が何度も見かけた“妻らしき女性”は誰だったのか。問い詰められた直人は「会社の後輩が1度泊まっただけ」と説明するが、翌朝、隣人の証言によってその嘘も崩れ始める。出産のため家を離れていた2ヶ月間、自分の家庭で何が起きていたのか――美咲は静かに真実を確かめ始める。嫁姑|夫婦|不倫8.8千字5 2070