"帰る家は、ちゃんとあった" 第9話
今は賃のい古いアパートで暮らしているらしい。
元々、順の料は特別いわけではない。
毎の返済に追われ、精神にも余裕を失っているという。
私のスマートフォンには、そのもしばらく順から話がかかってきた。
私は度もなかった。
留守番話には毎回、似たような内容が残されていた。
「仕事もしんどい」
「借の返済がきつい」
「母さんの面会にっても文句ばかり言われる」
「俺ばっかり何でこんな目に遭うんだ」
私は何度か再した、それ以聞くのをやめた。
順がどんな活をしているのかは、もう分分かった。
それ以る必もなかった。
私は順の番号を着信拒否に設定した。
義母の番号は、すでに同じように設定してある。
画面から2の名が消えた、ようやく自分のから本当に切りせた気がした。
順と義母かられてから、私はしずつ自分のためにを使えるようになった。
仕事はこれまで通り続けている。
兄の会社の事務を宅でこなし、必な連絡を取り、類を確認する。
以と同じ仕事なのに、気持ちはまるで違った。
順と暮らしていた頃は、パソコンへ向かっていても「そんなの仕事じゃない」と言われた言葉がのどこかに残っていた。
義母が突然やって来るのではないか。
広告
順が帰ってきて、また嫌みを言うのではないか。
そんな緊張がいつもあった。
今は違う。
自分の仕事に集できる。
区切りつけば、自分のために休むこともできる。
誰にも責められない。
私は空いたに、昔からやってみたかったことを始めた。
料理教に通った。
今までも毎料理はしていたが、それは族に文句を言われないための事といういがかった。
今は自分が作りたいものを学べる。
教から帰ると、覚えた料理をもう度作った。
失敗しても誰も嫌みを言わない。
「次はこうしてみよう」
そう考えることさえ楽しかった。
趣だった裁縫も、本格に学び始めた。
しずつ物を作り、くの町でわれるマーケットへしてみることも考えるようになった。
以の私なら、「そんなことをして何になる」と順に言われるのが嫌で、始めるから諦めていただろう。
今は、自分がやりたいという理由だけで挑戦できる。
それが嬉しかった。
ある休、兄が実へ来た。
庭に子をし、2でコーヒーをんだ。
幼い頃にも、兄とはこの庭でよく遊んだ。
あの頃、私は何かあればすぐ兄のろをついて歩いていた。
兄は面倒そうな顔をせず、いつも私を連れていってくれた。
「最、顔が変わったな」
兄が突然言った。
「え?」
「よりるくなった」
広告
「そう?」
「ああ」
兄はコーヒーカップを置いた。
「旦とその母親かられて、自由にきてくれて本当に良かったとってる」
私は瞬、言葉を失った。
胸の奥がくなった。
「配かけたね」
「昔からそういうところあるよな」
「何が?」
「しすぎる」
兄は苦笑した。
「父さんと母さんがくくなったせいで、族を失うことを倍怖がるようになったんだろうな」
私は黙った。
確かにそうだった。
義母からどれだけたくされても、私は「せっかくできた母親だから」とっていた。
順にどれだけ見されても、「夫婦だから」と耐えようとした。
両親を5歳で失った経験が、族というものへ必以に執着させていたのかもしれない。
でも、族だから何をされてもしなければならないわけではない。
兄や祖父母が教えてくれた族は、そんなものではなかった。
つらいには支えう。
相を見さない。
困っているへ方に責任を押しつけない。
兄は幼い頃からずっと、私を守ってくれた。
両親がくなった病院でも。
祖父母ので暮らし始めた夜も。
学するも。
働き始めたも。
そして婚した今も。
「ありがとう、お兄ちゃん」
私が言うと、兄はし照れたように笑った。
「何だよ、急に」
「昔からずっと守ってくれてたなってって」
兄はしばらく黙った。
そして昔と同じように言った。
「妹だから当たりだろ」
わず笑ってしまった。
5歳だった私にとって、兄は本当に父親のようなだった。
けれど今の私は、もう兄に守られているだけの子供ではない。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
家ごと消した母の反撃
七十一歳の美穂は、夫が入院している間、同居する長男夫婦から召使いのように扱われていた。生活費は一円も入れず、母の形見まで勝手に処分する二人。ある日、微熱で三分だけ横になった美穂に、長男嫁はワインを浴びせ、「帰るまでに掃除しておけ」と言い放つ。長男も笑うばかりだった。だが、黙って「はい」と答えた美穂には、二人の知らない計画があった。三日後、帰省先から戻った長男夫婦は、信じられない光景を目にする。嫁姑|親不孝|親子関係|金銭問題2.0万字5 983 -
完結第10話
すり替えた味噌汁
検事任官の最終面接を迎えた朝、神田玲奈は義母が自分の味噌汁に何かを混ぜる姿を目撃する。夫にも相談できないまま、玲奈は不審な味噌汁を密かに保管し、何食わぬ顔で食卓に戻った。同じ日、義妹の彩佳も三度目の教員採用試験に挑もうとしていた。玲奈が彩佳と味噌汁の椀を交換した瞬間、義母は血相を変えて叫び出す。嫁姑|第二の人生|金銭問題1.4万字5 60 -
完結第10話
七〇二号室の秘密
入籍12日目、初めて義実家を訪れた遥香は、豪華なすき焼きの陰で、義姉・真帆が水をかけた冷や飯だけを食べさせられている姿を目撃する。 真帆から託された住所を訪ねると、そこには夫・直樹がいた。彼は義姉の避難部屋を用意しながら、兄と母を恐れて救出を先延ばしにしていたのだ。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|真実|裡の顔|修羅場2.0万字5 364 -
完結第13話
三年前に署名させた離婚届
「息子は金髪美女と再婚するのよ」――玄関先で勝ち誇る義母が突きつけてきたのは、一方的な離婚届だった。大手商社勤務の夫に裏切られ、三ヶ月の海外出張中にも不貞の影に苦しめられていた妻のナナ。だが、見下され続けた妻は取り乱すどころか、冷ややかに微笑んだ。義母も夫も知らなかったのだ。三年前に署名させた一枚の用紙と、水面下で集められた決定的な証拠の存在を。鳴り止まない何十件もの着信を前に、彼女は静かに告げる。「離婚届なら、とっくに提出済みですよ」嫁姑|夫婦2.0万字5 198 -
完結第20話
「施設へ行け」と家を追われた七十五歳、亡き妻の山で見つけた宝
妻を亡くした七十五歳の佐伯源次郎は、一人息子の「一緒に暮らそう」という言葉を信じ、長年守ってきた自宅の名義を譲った。しかし、待っていたのは冷たい仕打ちと老人ホームへの入居命令だった。すべてを失った源次郎が向かったのは、亡き妻が幼い頃から愛した信州の山奥。荒れ果てた古民家を直し、畑を耕し、村人たちと心を通わせる日々の中で、妻が遺した「甘い水」に思いがけない価値が見つかる。相続|親不孝|親子関係|介護|金銭問題2.9万字5 0 -
完結第18話
箱詰めされた母の人生
義母のスマートフォンに届いた、夫・大輔からの一通のメッセージ。「歩美の母親のことは俺がうまく処理したよ(笑)」。不安に駆られた歩美が実家へ駆けつけると、母の幸子は一人で荷物を段ボールに詰めていた。しかも母は、娘に迷惑がられていると信じ込み、高齢者向け住宅への入居と自宅の売却を進めていたのだ。そんなことは一度も言っていない。夫はなぜ、母と娘の間に嘘を重ねたのか。書類に残された「1500万円」という数字から、九年間信じてきた夫の恐ろしい計画が明らかになっていく。裡切られた|怒り|嫁姑|絶縁2.2万字5 2 -
完結第10話
残高ゼロの通帳
経理主任として働く三十九歳のゆきは、同居する義母から突然、給与明細を突きつけられる。「月四十万円も稼いでいるなら、通帳は私が管理するわ」。勝手に給料の使い道を決められ、夫に助けを求めても返ってきたのは「母さんに任せれば楽だろ」という言葉だった。ついに「嫌なら出ていけ」と言い放たれたゆきは、抵抗するどころか、笑顔で通帳を差し出す。しかし、その夜、彼女は誰にも知られず一つの手続きを済ませていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|金銭問題1.5万字5 1291 -
完結第20話
正月に八人で来る嫁へ、家は売りました
68歳の頼子は、毎年正月になると、息子の嫁から大人数の宿泊や豪華な料理、お年玉まで当然のように押しつけられていた。 さらに嫁は、留守中に合鍵で侵入して宴会を開き、頼子の家を将来の相続財産として勝手に査定していた。息子も「家族だから」と妻をかばうだけだった。嫁姑|親不孝|第二の人生|ATM扱い|親子関係|金銭問題2.6万字5 6635 -
完結第20話
昼寝ばかりの嫁が、潰れかけの餅屋を救うまで
借金四千三百万円を抱え、閉店寸前の老舗餅店。家族が寝る間も惜しんで働く中、嫁の美穂だけは店の隅で昼寝を続けていた。 ところが大口注文で二百万円を売り上げても、残ったのは六十万円の赤字。美穂は帳簿を分析し、赤字商品や無料配達、掛け売りを次々と整理していく。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係|修羅場2.6万字5 377 -
完結第20話
愛人と帰国した夫、30分の猶予
「この後彼女が来るから早く出て行けよ」 南の島から愛人と帰国した夫と義母は、日焼けした顔で私に吐き捨てた。十六年間、生活費を一銭も入れず寄生してきた挙句、亡き両親が遺した百坪の豪邸を乗っ取り、私を追い出す算段だ。届いた内容証明郵便を「慰謝料の小切手」と勘違いし、ハイタッチで完全勝利を確信する二人。 だが、愚かな親子はまだ知らない。十六歳の息子が密かに仕掛けたボイスレコーダーと、十五年前のベビーモニターが捉えた戦慄の記録を。そして、迎えに来た黒塗りの高級車の正体を。 「あと三十分後に消えます、ご安心を」 私が冷たく微笑んだその時、玄関のインターホンが鳴り響いた――。嫁姑|夫婦3.0万字5 418