みかん小説
本棚

"消えた嫁と浅すぎる墓" 第1話

20004、青森県のあいにあるさなでは、ようやくの気配がじられるようになっていた。

当たりの良い畑では解けが細い筋を作って流れていたが、斜面にはまだく残っている。たいが杉林を抜けるたび、枝と枝が擦れって乾いた音をてていた。

では拡張事に伴い、の斜面に造られた古い共同墓を別の所へ移す作業がめられていた。くの墓では遺族がち会っていたが、れにある武田の墓のだけには、族の姿がなかった。

武田男・正雄はすでにれ、別ので再婚しているという。妹の静京へ戻った、いつしか連絡が取れなくなり、かつてが暮らしていたは雑に埋もれていた。

「仕方ないな。俺がち会うよ」

自治会が、枯れに覆われた墓を見ながらため息をついた。

「これが武田松子さんの墓だ。埋葬されたのは7だな。遺族がいないからって雑に扱わないでくれよ」

作業員たちは頷き、スコップをにした。

古い墓を掘り返す、いきなりを入れることはしない。の状態を確認しながら、慎で棺の位置を探っていく。

ザクッ、ザクッと乾いた音が続いた。

ところが、作業を始めてもなく、のスコップがいものに当たった。

広告

「もう棺か?」

を払う。

した製の棺の蓋が姿を現した。

作業員が眉をひそめる。

「浅すぎないか?」

確かに異様だった。通常よりかなり浅いところに、松子の棺は押し込まれるように埋められていた。

の胸に、7の記憶が突然蘇った。

松子の葬儀の

姿の静が墓穴のし、

『これ以掘らないで!』

と叫んだ。

棺を入れるにはまださがりないと作業員が説しても、静は異常なほど頑なだった。

『母の遺言なんです。浅く埋めてほしいって言っていたんです』

が、

「遺族がそこまで言うなら」

と作業を止めさせた。

は、母親をくした娘が取り乱しているのだとった。

さん?」

声をかけられ、に返った。

松子の棺が慎へ引きげられていた。

「よし、あとは穴をならして――」

穴の底へりた作業員が、残ったえようとスコップを突きてた。

ガツッ。

とは違う。

の根とも違う。

柔らかさのに、妙な芯があった。

「何だ?」

しゃがみ込み、袋をしたを払う。

最初に現れたのは布だった。

「着物……?」

鮮やかな柄。

が経っているにもかかわらず、布そのものはまだ形を保っている。

ポリエステル製だった。

「なんで、棺のからこんな物がるんだ?」

が穴の縁までづく。

作業員がさらにを払った。

広告

次に現れたいものを見た瞬、彼のが止まった。

く湾曲している。

本。

その隣にも本。

「……骨?」

誰かが呟いた。

作業員は息を止めながら、周囲のを慎に取り除いた。

の肋骨が姿を現した。

「うわっ!」

作業員が転がるように穴からがった。

だ! が埋まってる!」

にいた全員が凍りついた。

松子の棺が置かれていた位置から、わずか30センチほど

そこには膝を胸へ抱えるように体を折り曲げた状態で、の骨が埋まっていた。

柄の着物。

蓋骨。

そして側部には、いものでく打ちつけられたような痕跡が残っている。

の喉が鳴った。

7

共同井戸のそば。

だというのにたいで必に何かを洗っていた静

青ざめた顔。

濡れたコートの袖。

そして、その袖に残っていた赤黒い染み。

「……まさか」

の唇が震えた。

「警察を呼べ」

誰もかなかった。

が今度は鳴った。

く警察を呼べ!」

静まり返ったに、その声だけがく響いた。

通報から1もしないうちに、墓には何台もの警察両が集まった。

い規制線が張られ、拡張事は全面断された。鑑識班の捜査員が慎に穴へ入り、骨や類に触れないようさな刷毛でを落としていく。

へ到着した警部・野健太は、規制線をくぐるとすぐに墓穴のへ向かった。

35歳。

しかしこのは、野にとって初めてのではなかった。

7

まだ28歳の巡査だった頃、野はこのを担当する駐所に勤務していた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: