"消えた嫁と浅すぎる墓" 第2話
「遺体は成女性とわれます」
鑑識の捜査員が報告する。
「は1990代初のものと見ていいでしょう。蓋骨の側部に陥没骨折があります。事故でできたものとは考えにくい」
野の表が張った。
「に埋められたのか?」
「詳しくは司法解剖を待たないと分かりませんが、状況だけ見ればその能性がいですね」
さらに解なのは埋葬位置だった。
遺体は松子の棺の真にあった。
つまり、松子がくなるより先に埋められていたことになる。
野が顔をげる。
「松子さんがくなったのは?」
が答えた。
「1993のです」
「この墓に入ったのもその?」
「ああ」
「じゃあ、そののはなくともそれ以に……」
野の脳裏に、嫌な記憶が浮かんだ。
19931。
駐所を訪ねてきたの男。
武田正雄。
酒と煙の匂いを漂わせながら、面倒そうな顔で言った。
『女がていったんです』
正の墓参りへった、妻の姿が見えなくなった。
荷物も部なくなっている。
夫婦喧嘩が続いていた。
嫁姑関係もうまくいっていなかった。
正雄はそう説した。
当の野は、く疑わなかった。
方では珍しくもない夫婦のもつれ。
。
実へ戻ったか、都会へたのだろう。
分な聞き込みもしないまま、簡単な失踪届として処理した。
「……武田すみ子」
野が呟いた。
が振り返る。
広告
「覚えてるのか?」
「忘れるはずがない」
とは言ったものの、本当はずっと忘れていた。
それが野には耐え難かった。
数。
警察病院から元確認の結果が届いた。
歯科治療記録。
骨格。
齢。
そして当の失踪記録。
すべてが致した。
武田すみ子。
失踪当38歳。
野は鑑定を握ったまま、いけなかった。
机のには、7に自分が処理した届のコピーも置かれている。
『199311、正の墓参りに所』
当は、それだけだった。
「俺は……」
拳を握る。
もっと話を聞いていれば。
を探していれば。
嫁姑関係の詳細を調べていれば。
何かつでも違を拾っていれば。
「野さん」
部に呼ばれ、顔をげる。
「現のさんから、し気になる話があります」
野はすぐにへ戻った。
は自治会館の古いストーブのに座っていた。
「松子さんの葬儀ののことなんだ」
は湯呑みを握ったまま言った。
「娘の静さんが、異常なほど墓をく掘るなって騒いだ」
「なぜ?」
「母親の遺言だって」
「には?」
は黙り込んだ。
「何でもいいんです」
野がを乗りす。
「7に気になったことを全部話してください」
はしばらく考えた末、ゆっくりをいた。
「元の昼過ぎだ」
「はい」
「共同井戸で静さんを見た」
野の目が細くなる。
「何をしていました?」
「でとコートの袖を洗ってた」
広告
「真に?」
「そうだ。俺も変だとった」
は唇を湿らせた。
「で汚れたって言ってたけど……」
そこで言葉を止めた。
「けど?」
「袖に赤黒い染みがあったんだよ」
野の背筋をたいものがった。
捜査本部が置かれると、7の記憶を掘り起こす作業が始まった。
失踪当の候。
武田の族関係。
墓参りへ向かった刻。
正雄の。
松子がくなるまでの経緯。
当をるたちから、ずつ話を聞いていく。
最もな証言をしたのは、佐藤よし子という女性だった。
「覚えてますよ」
70代になった佐藤は、古いアルバムを膝に置きながら頷いた。
「だって、あんな吹のに墓参りへくなんて珍しかったもの」
「誰を見ました?」
野が尋ねる。
「松子さん。それから嫁のすみ子さん」
佐藤はし考えた。
「あと、娘の静ちゃん」
野のペンが止まった。
「静さんも?」
「ええ。京から帰ってきていたわよ」
「違いありませんか?」
「の挨拶までしたんだから違えないよ」
佐藤は当の景を細かく覚えていた。
松子が先。
そのしろに静。
い呂敷包みを抱えたすみ子が最を歩いていた。
『娘さんもお嫁さんも親孝でいいわね』
佐藤がそう言うと、静はにこやかにをげたという。
ところが、すみ子の表だけが違った。
「ひどく疲れた顔だったね」
佐藤は声を落とした。
「荷物も全部あのに持たせてたし」
捜査員たちはさらに武田の過を調べた。
すみ子は16に正雄と結婚。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
車いすの恋人に請求された三万三千円の「迷惑料」
交通事故で車いす生活となった恋人・明菜と、もう一度穏やかな日常を取り戻そうとしていた聡。明菜の誕生日、二人は思い出のフレンチレストランを訪れる。しかし待っていたのは、食事時間の一方的な短縮と、三万三千円もの「迷惑料」だった。因果応報|人生逆転|真相|修羅場2.8万字5 757 -
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 104 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 533 -
完結第10話
亡霊の専属運転手
かつて海外の特殊部隊で「ファントム」と恐れられた神代美央は、戦場を離れ、平穏な人生を求めて大企業の会長専属運転手に応募した。しかし最終面接で待っていたのは、「女に会長を守れるわけがない」と嘲笑する副社長と、十一人の屈強な男たち。美央だけが、彼らのスーツの下に隠された拳銃に気づいていた。やがて現れた鷹司会長は、美央の履歴書を見た途端、激しく震え始める。職場逆転|真実|真相|第二の人生1.5万字5 18 -
完結第13話
濁流の中のSOS
夫と十三歳の娘・凛と買い物へ出かけた私。ところが夫は突然、増水した川へ車を走らせ、帰ろうとした私たちを激流へ突き落とした。必死にもがく私の手をつかみ、「お母さん、もがかないで!」と叫んだ凛。その言葉に従い、二人は奇跡的に生き延びる。だが、夫は救助もせず姿を消していた。裡切られた|夫婦|裡の顔|真相|親子関係1.9万字5 101 -
完結第16話
四万円を断った朝
同僚に裏切られ、二千万円近い借金を背負った大橋拓人。再就職の面接へ向かう朝、雨の道路でパンクした車を見つけ、遅刻を覚悟でタイヤを交換する。女性から差し出された四万円を断り、代わりに面接先まで乗せてもらった拓人。しかし会社に到着すると、受付の社員たちが彼女に深々と頭を下げた。職場逆転|人生逆転|真相|修羅場2.5万字5 939 -
完結第10話
出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜
札幌へ出張中の宮崎亮平に、深夜十一時、八歳の娘・美和から一本の電話がかかってきた。 「パパ、ママと物置で寝かされてるの。寒いよ……」 半年前から同居を始めた母の貴子は、妻の早苗と娘を冷遇していた。しかし亮平は、妻の訴えを「母さんに悪気はない」と聞き流し続けていた。 翌朝、急いで帰宅した亮平が見つけたのは、外から扉を固定された物置で震える妻と娘。そして早苗が隠し持っていた一枚の契約書だった。 そこには、妻の不動産持分を妹へ無償譲渡するという信じがたい内容が記されていた。 家族を守るはずの家で、母と妹はいったい何を企んでいたのか――。祖父母と孫|真実|裡の顔|真相|親子関係1.5万字5 1464 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 1819 -
完結第10話
13年前に消えた娘が、元隣人のSNSにいた
2009年、自宅から忽然と消えた四歳の娘・くるみ。母のえみは、娘の部屋を十三年間そのまま残し、帰りを待ち続けていた。 失踪から十三年後、元隣人のSNSに十七歳の少女が写る。成長した娘に似た顔、同じ三日月形のあざ、そして少女の名前も「くるみ」だった。ミステリー|夫婦|真実|真相|親子関係1.6万字5 188