"靴磨きの少年と会長の時計" 第3話
君のような若いが、あので働いているとはらなかった」
丁寧な言い方だった。しかし「あの」というい言葉に、隠しきれない軽蔑が混じっていた。
浩がていくと、健は机を指で軽く叩いた。
「どうった」
「僕に聞かないでください。会の息子さんです」
「だから聞いている」
蓮は迷った末、事実だけを答えた。
「驚いた声をしていました。でも、呼吸はずっと定でした」
健は何も言わなかった。
そのの午、健は蓮へ休みだけの仕事を提案した。肩きは会付臨補助員。会議や移に同し、自然な械音をじたら報告する役目だった。
「正式な捜査ではない。おのだけで誰かを犯扱いもしない。ただ、私が見落としている異常を教えてほしい」
学と森本の承を条件に、蓮は引き受けた。
説が終わり、ちがろうとしただった。
蓮のに、昨と似た子音が触れた。
計の送信は証拠袋のにあり、源も切られている。それとは別の音だった。
蓮は会の央でを止めた。を向き、次に井を見げる。
「どうした」
「静かにしてください」
健と真理子が息を止めた。
定の隔で繰り返される細い雑音は、井の点検の奥から聞こえていた。
設備担当者が脚を運び込み、点検をけた。空調ダクトの脇から、磁で固定された型送信が見つかった。
広告
真理子の顔が青ざめた。
「ここへ入るには、専用カードが必です」
「何が持っている」
健が尋ねると、真理子は入退管理画面をいた。
会へ単独で入れる権限を持つ者は、わずか5しかいなかった。
第3話 入れるのは5だけ
会へ単独で入れるのは、健、浩、真理子、警備の岸、施設管理部の5だった。
直1かの入退記録を確認すると、5全員がなくとも1度は内へ入っている。点検付には防犯カメラの角があり、誰が送信を設置したのかまでは分からなかった。
「権限を持つ者のに犯がいるとは限りません」
真理子が慎に言った。
「カードをに借りたり、複製したりした能性もあります」
「その通りだ。5を疑うのではなく、5から調べる」
健は発見した送信も部の鑑定へ渡し、社内では空調設備の具が見つかったことにした。犯に発覚をられないためだった。
蓮のも伏せる予定だったが、噂はすぐに広がった。
会が楽町の靴磨きからを連れてきた。しかも会の隣に机を用し、会議にまで同席させている。
廊を歩くだけで、蓮のには声が届いた。
「会も耄碌したんじゃないか」
「靴磨きに経営の何が分かるんだ」
「あの子、施設育ちらしいよ」
最の言葉を聞いただけ、蓮のがわずかに止まった。
広告
臨補助員の登録には所と保護歴の確認が必だった。事部以には非公のはずの報が、わずか2で漏れている。
蓮は聞こえなかったふりをして歩き続けた。言い返せば、相は声をさくするだけだ。誰がどこまでっているのか分からない今は、黙っている方がくの報を拾えた。
3目、企業の買収に関する秘密会議がかれた。
席者は健と担当役員、法務責任者、取引先の代表を含む8。スマートフォンは入の保管箱へ預け、録音と撮は禁止されていた。
蓮は壁際の補助席に座っていた。会議内容を理解する必はない。子音がしただけ、健へらせるよう言われている。
始から20分ほど経った頃、取引先の若い担当者がペンケースへを入れた。
かちり、とさなスイッチ音がした。
直、い駆音が始まった。腕計の送信とは違うが、蓮は以、施設の職員が使っていた型録音で同じ音を聞いている。
蓮は机のでメモをき、真理子へ渡した。
『取引先の青いペンケース。録音がいています』
真理子からメモを受け取った健は、説の役員を止めた。
「休憩にしよう。そのに、持ち物をもう度確認したい」
取引先の代表が怪訝な顔をした。
「何か問題でも?」
「録音禁止の約束が守られていないようだ」
担当者の肩が張った。法務責任者が許を得てペンケースを確認すると、内ポケットから録音のICレコーダーがてきた。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
山に捨てられた妻は立ち上がる
建築会社の社長・鈴木佳奈は、工事現場から転落し、体を動かせないまま入院生活を送っていた。献身的に支える夫・健二は、周囲から理想の夫と称賛されている。だが夜になると、彼は佳奈の実印を持ち出し、署名を偽造し、愛人と会社や不動産を奪う計画を進めていた。さらに佳奈は、真夏の山中へ自分を置き去りにする相談まで耳にする。誰にも意思を伝えられないと思われていた彼女は、密かに回復しながら証拠を集め始める。夫婦22年の信頼を利用した計画の奥には、最初の転落事故へつながる秘密も隠されていた。因果応報|人生逆転|夫婦3.4万字5 230 -
完結第12話
留守番を命じられた妻
父が遺した築43年の家で、夫・浩司と義母・和子に尽くしてきた52歳の由美子。和子の喜寿を祝う2泊3日の温泉旅行を予約し、32万円を用意したのも彼女だった。ところが出発直前、「車が狭いから留守番ね」と置き去りにされる。後部座席の見知らぬ鞄、妊婦向けプランに変えられた予約、消えた実印。夫と義母は、妊娠した若い愛人を迎え、由美子の父の家まで奪おうとしていた。しかし2人を笑顔で見送った由美子は、すでに登記事項証明書と偽造書類を揃え、静かな反撃を始めていた。人生逆転|嫁姑|不倫1.8万字5 716 -
完結第12話
「中卒は留守番してろ」と空港に置き去りにされた私――数時間後、高級旅館の女将が上司だけを追い返した
中卒ながら独学で資格を取り、旅行会社に中途入社した22歳の天野澪。現場経験を生かして難航していた企画を救っても、学歴を嘲る竹内部長に成果を奪われ続けていた。やがて澪は、予約困難な老舗旅館・天祥館の視察枠を獲得する。ところが出発前夜、竹内は部下を脅し、澪の航空券だけを密かに取り消した。羽田空港に1人残された澪へ届いたのは、「中卒は留守番してろ」というLINE。事情を知らず天祥館へ着いた同僚たちを待っていたのは、チェックインを認めない女将だった。なぜ女将は、不在の新人を待つのか。そして澪が保存した操作履歴と録音は、竹内の嘘をどこまで暴くのか。人生逆転1.8万字5 929 -
完結第10話
子どもを救って、僕は処分された
交差点で飛び出しかけた子どもを避けるため、市営バス運転士の北川蓮はとっさに急ブレーキを踏んだ。 子どもとの接触は避けられた。しかし車内では、降車しようとして立ち上がった高齢女性が転倒し、右手首を骨折してしまう。 翌朝、会社が蓮に差し出したのは「前方確認不足による危険運転」を認める謝罪文だった。 信号は見落としていない。子どもは確かに車道へ出かけていた。けれど、乗客を傷つけたこともまた事実だった。 会社は早く責任を運転士ひとりに押しつけようとし、世間は記事の見出しだけで蓮を責める。そんな中、蓮のもとに差出人不明の一通の手紙が届く。 そこには、事故の日に誰も語らなかった“もう一つの真実”が書かれていた。 守った命と、傷つけてしまった人生。 正しさだけでは割り切れない事故の先で、若い運転士が本当の責任と向き合っていく物語。因果応報|人生逆転1.5万字5 173 -
完結第12話
娘の結婚式で夫は愛人を新しい妻と紹介した
52歳の由美は、27年間連れ添った夫・剣一との夫婦関係がすでに壊れていることを知りながら、一人娘・美穂の結婚式までは何も起こさないと決めていた。ところが披露宴の最中、剣一は180人の招待客を前に、34歳の愛人・理香を「これからの妻になる人です」と紹介する。会場が凍りつき、娘が青ざめる中、由美は怒鳴りも泣きもせず、静かに立ち上がって拍手した。「あなたの本性を、私が説明する手間が省けました」。すると突然、新郎の父・誠が由美の前まで歩み寄り、深く頭を下げる。「これまで、本当によく耐えてこられました」。そして彼が口にした「準備はできています」という一言に、夫の表情が変わった――。人生逆転|不倫|熟年離婚1.8万字5 1649 -
完結第10話
ブラックカードを止めた10分後
結婚5年目、38歳の小百合は夫・拓也から離婚を突きつけられた。拓也が選んだのは、35歳の女医・玲子。「5年間も専業主婦で楽できたんだから十分だ」「これからは自分で稼げ」と笑う夫と義家族は、小百合を“1円も稼げない女”だと思い込んでいた。離婚届に判を押したその日、拓也は玲子を連れて両親との祝いの席へ向かう。小百合は何も言い返さず、玄関が閉まってから10分後、カード会社へ1本の電話をかけた。「家族カード3枚、すべて利用停止にしてください」。その夜、高級レストランで45万8000円の会計を前に、拓也一家が初めて知ることになる。自分たちが当然のように使っていた“豊かな生活”は、いったい誰のお金で成り立っていたのか――。人生逆転|夫婦|不倫1.5万字5 2283 -
完結第10話
清掃員が書いた設計図
倒産寸前の小さな町工場に、1人の若い清掃員がいた。 佐藤ゆい、21歳。学歴は中卒。従業員たちからは名前で呼ばれることもなく、ただ雑用係として扱われていた。 そんなある日、大企業から依頼された精密部品がすべて不良品となり、工場は2000万円の違約金を突きつけられる。誰もが技術不足だと責められ、工場長の竹夫も廃業を覚悟しかけていた。 その時、ずっと黙っていたゆいが静かに口を開く。 「設計が間違っています」 中卒の清掃員が、大企業の研究所の図面に誤りがあると言い出した――。 誰も信じなかったその言葉が、やがて町工場の運命を大きく変えていく。履歴書には書けなかった彼女の本当の力とは。人生逆転|真相1.4万字5 357 -
完結第12話
花嫁が僕を犯人にした朝
結婚式まで、あと1時間20分。 ホテルの支度室で、花嫁・白石奈緒は切り裂かれたウェディングドレスを前に、衣装修復担当の朝倉湊を指さした。 「ドレスを切ったのは、この人です」 しかし湊には分かっていた。昨夜、保管室で彼が見た時、ドレスはすでに切られていた。そして奈緒は、震える声で「明日の式を止めてほしい」と頼んでいたのだ。 なぜ花嫁は、自分を助けようとした男を犯人に仕立てたのか。 やがて、ドレスの内側に縫い込まれていたはずの封筒、消えた書類、三浦家の融資計画、そして花嫁本人の不可解な沈黙が、結婚式の裏に隠された別の真実を浮かび上がらせていく。 切られたのは、ドレスだけではなかった。 守るべき秘密と、押しつけられた罪。その境目に立たされた一人の修復師が、自分の人生を取り戻していく物語。人生逆転|真実|修羅場1.7万字5 2 -
完結第10話
「無職の父」と呼ばれた6年間
「無職のあなたに、病気のある子どもを育てられると思う?」 妻・美咲からそう言われた佐伯公平は、言葉を失った。10歳の息子・悠人は、4歳の頃から1型糖尿病と向き合っている。血糖値の確認、食事管理、通院、学校との連絡――そのすべてを6年間支えてきたのは、公平だった。 しかし妻は、安定した収入を理由に息子を連れて出ていこうとしていた。さらに、悠人にはすでに新しい部屋や転校の話まで伝えられていた。 父親として過ごしてきた時間は、「無職」という一言で消されてしまうのか。 公平は、6年間の連絡帳と医療記録を手に取る。そこには、誰にも見えなかった父と息子の日々が残されていた。 親権をめぐる争いの中で明らかになる、夫婦のすれ違い、息子の本当の気持ち、そして“家族”の形。 これは、父親として生きてきた時間を取り戻すための、静かな戦いの物語。人生逆転|夫婦|親子関係1.5万字5 313 -
完結第10話
米寿の席で外された嫁
米寿祝いの席で、義母は親族の前で突然言った。 「秋子さんには、明日から店へ来てもらわなくて結構です」 33年間、朝早くから和菓子店《松月堂》を支えてきた秋子。餡を練り、注文を管理し、繁忙期には夜まで働いてきた日々は、義母の一言で“家族の手伝い”として片づけられた。 しかも店から外された秋子に、今度は義母の通院や世話を任せるつもりだった。 何も言わず席を立ったその夜、秋子は古い段ボール箱の中から、亡き義父が残した一通の封筒を見つける。 そこに入っていたのは、秋子を守るための遺言ではなかった。 店の帳簿に隠されていた不自然な金の流れ、説明されていない借金、そして義父が最後まで言えなかった家族の秘密。 「家族だから」という言葉の下で、誰が何を背負わされていたのか。 33年間奪われてきた時間と仕事の価値を、秋子が静かに取り戻していく物語。人生逆転|嫁姑|親子関係1.5万字5 1869