"退職祝いは「孫の勤務表」" 第5話
僕は子どもたちへ説しながら、自分自にもそのことを教えていた。
ある夕方、直が資料館へ来た。結菜を迎えた帰りで、展示の端から僕の説を聞いていた。
「お義父さん、楽しそうでしたね」
閉館、彼が言った。
「楽しいよ。料はないけど」
直は苦笑した。
「僕は、料がないことをする余裕がないです」
「今はそうだろうな」
彼は転職活がうまくいっていなかった。職と同じ収を希望すると類で落ち、条件をげれば族を養えないとった。麻より収入がくなることにも抵抗があると、初めて認めた。
「父親なのに、妻にべさせてもらうのは」
「僕は現役の頃、事も育児も久美子にしてもらった。それを、妻に活させてもらっていたとはわなかった」
「お義父さんは稼いでいたからです」
「だけで族がくなら、僕は麻に昔のことを責められていない」
直は黙った。
僕は就職先を紹介しなかった。鉄会社の取引先へ頼めば、面接の会くらい作れたかもしれない。だが、本から求められていないのにを決めれば、僕が久美子たちへしてきたことを繰り返す。
代わりに、希望条件をへき、譲れないものと、世体のために残しているものを分けるよう勧めた。
直は、勤務、休、最収入を理し、役職と職以の収をした。
広告
週、域の設備会社から次面接の連絡が来た。
方、麻は仕事を続けながら、夫へのりを抑えられずにいた。帰宅が遅い、直が夕を作っても、か嘘をつかれたことをいし、細かいことで責めた。
「別れた方がいいのかな」
ある夜、麻が僕へ尋ねた。
以なら、子どものためにしろ、あるいは信頼できない男とは別れろと答えただろう。
「僕には決められない。直が失業したことと、隠したことと、これからどうするかを分けて考えたらどうだ」
「お父さん、昔なら絶対、婚するなって言ったよね」
「言っただろうな」
「変わったね」
「退職したから、指示をす相がいなくなった」
僕が笑うと、麻もし笑った。
ただし、僕は娘の逃げ所になり続ける約束もしなかった。同居の期限は変えず、夫婦で居と計を決めるよう求めた。
かの最終週、直は設備会社から採用通を受けた。職より収はがり、試用期もある。彼はぶより先に、僕へ言った。
「これなら、同居しなくても部を借りられます」
その言葉を聞き、僕は初めて、彼がをる準備を本気で始めたとじた。
採用が決まる、直は社から内定を得ていた。職と同じ営業職で、提示収もかったが、固定残業代に分が含まれ、休勤について曖昧な説しかなかった。
広告
彼は計のために受けると言い、麻はまた帰宅しない活へ戻ると反対した。
は僕へ判断を求めた。会社名を聞けば評判を調べ、数字を並べて答えをしたくなったが、まず直へ、何を番恐れているか尋ねた。
「無職の期がくなることです。選んでいる余裕なんてないとわれるのも嫌です」
「では、入社に族と過ごせなくなることは?」
「それも怖いです」
僕は答えを決めず、労働条件通を持って就労相談窓へくよう勧めた。直は相談、その内定を断った。設備会社から連絡が来たのは、そのだった。
結果が良かったから正しい選択だったのではない。もし次の内定が来なければ、断ったことを悔しただろう。それでも、自分の恐れを隠したまま族へ結果だけ渡すのではなく、迷っている途を話せたことは、以と違っていた。
「お義父さんなら、最初の会社を断れと言うとっていました」
「言いたかったよ。でも、僕が責任を取れるのは助言までだ」
直はし笑い、「それでも分怖い助言でした」と答えた。僕も笑ったが、署名を勝に使われたのりが消えたわけではない。関係がへむことと、過を忘れることは別だった。
娘夫婦は、以より部ない賃貸宅を見つけた。保育園から自転で分、直のしい会社にも通える。
初期費用の部がりず、麻は僕たちへ借を申し込んだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日
妹を事故で亡くし、遺された六歳の双子を男手一つで育てる伊吹公平。仕事と育児に追われる毎日の中、彼が最も苦手としていたのは、職場で「氷の女」と恐れられる経理主任・桐谷エリカだった。ところがある日、保育園へ迎えに行った公平は、娘たちに囲まれて優しく微笑むエリカの姿を目撃する。しかも、誰にも甘えようとしなかった内気な妹・りこが、彼女の服を握って離さない。冷たい視線の裏に隠されていた意外な素顔。そして、少しずつ変わり始める三人の暮らし。孤独を抱えた大人たちと、小さな双子が紡ぐ、温かな家族の物語。人生逆転|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|金銭問題1.9万字5 104 -
完結第18話
離婚翌日に6億円当選、実家で弟に「居場所はない」と拒絶された私
十五年間の結婚生活を終え、四十二歳で一人になった沙耶。途方に暮れていた彼女に、突然、六億円を超える宝くじの当選という奇跡が訪れる。両親を助け、人生をやり直そうと実家へ帰った沙耶だったが、弟の健太は「この家に姉ちゃんの居場所はない」と冷たく言い放った。理由も分からず傷つく沙耶。しかし、弟夫婦が十二年間背負ってきた現実を知り、彼女の考えは大きく揺らぎ始める。さらに当選を打ち明けた夜、健太が突きつけた一言が、家族の隠してきた本音を浮かび上がらせる。六億円があっても取り戻せないものとは――。人生逆転|兄弟姉妹|親子関係|金銭問題1.8万字5 198 -
完結第20話
「息子が高熱なのに来い!」夫一家に185万円の請求書を押しつけられた私の正体
夫と義家族から「何もできない専業主婦」と見下され、金銭まで搾り取られてきた松岡美央。しかし彼女には、世界的なホテルグループの最高責任者という、誰にも明かしていない秘密があった。ある夜、高熱を出した息子を看病していると、義母から三十件以上の着信が届く。「緊急事態だから今すぐ来なさい!」慌ててホテルへ駆けつけた美央を待っていたのは、豪華な食事を楽しむ夫一家と、185万円もの請求書だった。裡切られた|怒り|嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場2.6万字5 1132 -
完結第10話
元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円
「もう二度と、俺の前に現れるな」離婚の日、夫の大地に冷たく突き放され、ひな子は六歳の息子とともに家を追い出された。渡されたのは、養育費を振り込むという一枚のキャッシュカードだけ。ひな子はそれを封印し、工場で働きながら必死に息子を育ててきた。三年後、口座を解約するため銀行を訪れると、なぜか支店長自らが現れ、特別応接室へ案内される。通帳に記されていた残高は、なんと一億五千万円。さらに差し出されたのは、元夫の筆跡で「ひな子へ」と書かれた一通の封筒だった。あの日の冷酷な離婚には、誰も知らない秘密が隠されていた――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題|熟年離婚1.6万字5 720 -
完結第18話
「片親の貧乏人」と息子を叩いた社長、母の正体を知って絶句
結婚の挨拶から帰宅した息子・祥太の頬には、くっきりと平手打ちの跡が残っていた。婚約者の父親から「片親の貧乏人」と罵られ、結婚まで白紙にされたという。二十五年間、女手一つで息子を育ててきた桃江は、静かに電話をかけた。実は彼女は、父の急逝を受けて大企業の社長に就任したばかり。しかも相手の食品会社は、長年その企業との取引に支えられていた。桃江の正体を知り、突然態度を変える婚約者一家。しかし、亡き父が残した調査記録には、結婚騒動をはるかに超える重大な秘密が隠されていた。因果応報|親子関係|修羅場2.6万字5 1876 -
完結第20話
高熱の娘を置き去りにした姉は、私の夫と不倫旅行中だった
結婚五年目の美和は、実の姉・麻里奈から生後十一か月の姪を十日間預けられる。ところが、姉が海外旅行へ出発した直後、幼い心ちゃんの容態が急変。必死に救急搬送する美和だったが、姉にも出張中の夫にも連絡がつかない。不審に思って姉のSNSを調べると、南国の写真に写り込んでいたのは、見覚えのある夫の腕時計だった。怒り|夫婦|親子関係|不倫1.8万字5 1214 -
完結第10話
泥の作業着と誇り
高校卒業から十七年ぶりの同窓会。咲は、夫が農家だと話した途端、華やかな暮らしを自慢する同級生のレナから大勢の前で笑いものにされてしまう。「泥だらけの旦那なんて恥ずかしくないの?」心ない言葉に傷つきながらも、咲は「世界一自慢の夫よ」と言い返した。やがて、仕事帰りの夫・大地が泥のついた作業着で迎えに現れると、再び嘲笑が巻き起こる。しかし次の瞬間、幹事の西村が顔色を変え、夫に向かって深々と頭を下げた。誰も知らなかった大地の本当の姿が、少しずつ明らかになっていく。人生逆転|夫婦|真相|第二の人生|修羅場1.7万字5 531 -
完結第12話
大家だった姑の逆転
夫を亡くしてから、息子を育てながら八世帯のアパートを守ってきた私。四十歳の息子が迎えた若い嫁は、「お母さんを支えたい」と同居を望んだ。ところが結婚後、私は台所にも立てず、夕食は寝室で一人。ついには「年金暮らしの無職は邪魔。出て行って」と言い放たれる。嫁が信じていたのは、息子がアパートの大家だという嘘だった。本当の所有者が私だと知っても、息子夫婦は名義を譲るよう要求してくる。私は静かに承諾した。しかし、二人が欲しがったアパートには、まだ知らない重大な問題が隠されていた。親不孝|裡の顔|絶縁|親子関係|退職金|金銭問題1.6万字5 495 -
完結第14話
夫のいない四日間
人気ミステリー作家の安田里美は、無職の夫・博之と七歳の娘を養いながら、仕事も家事も一人でこなしていた。ある深夜、夫のスマートフォンに届いたメッセージから、博之が高校時代からの親友・裕子と不倫していることを知る。しかも二人の豪遊費は、里美の書斎から盗まれたクレジットカードで支払われていた。娘を思って離婚をためらう里美だったが、七歳の美香が口にした言葉で決意を固める。そして夫が裕子と沖縄へ旅立った朝、里美はカード会社と引っ越し業者に電話をかけた。さらに、夫の荷物には思いがけない届け先が指定されていた――。夫婦|親子関係|不倫2.0万字5 2099