"預けた通帳が消えた日" 第6話
「これが、あなたたちの言う族なのね」
「盗聴なんて卑怯です!」
美が叫んだ。
「自分のおについて、あなたと交わした会話を記録したのよ。それに、弁護士にも相談してあるわ」
「弁護士?」
健の声が裏返った。
静はの取引細を並べた。
「私の定期預から、美さんの座へ送られた百万円。私のらないカード利用。計百万円」
美の唇が震えた。
「活費です」
「ブランドバッグが活費なの?」
「私だけが使ったわけではありません。健さんだって旅に……」
「美!」
健が妻を止める。
しかし遅かった。
追い詰められたは、互いに責任を押しつけ始めた。
「あなたが、お母さんの通帳を預かれって言ったんでしょう!」
「おが管理すると言ったんだ!」
「融資だって、あなたも賛成したじゃない!」
「おの兄貴に頼まれたからだろう!」
静は、黙ってを見ていた。
これが、自分が守ろうとしてきた族の姿だった。
をにした途端、夫婦は互いを切り捨て始めた。
「もうつ、伝えることがあります」
静がをくと、はきを止めた。
「私は、ここをます」
「母さん、待ってくれ」
「触らないで」
づこうとした健を、静は制した。
「私は結婚式のおをした。活の準備もした。このマンションも、あなたたちと暮らすために買った」
声を荒らげる必はなかった。
広告
「それでも私は邪魔者だった。私がいなくなれば、ももに入る。そうっていたのね」
健は顔をげられなかった。
美は唇を噛み、黙っている。
「通帳は弁護士を通して返してもらいます。正に使ったおについても、返還を求めます」
「警察に言うんですか?」
美が震える声で尋ねた。
「それは、これからのあなたたちの対応次第です」
静はちがった。
「そして、このマンションも売却します」
今度こそ、の顔が凍りついた。
「ここまで奪うのかよ」
健のからた言葉に、静はさく首を振った。
「違うわ、健」
しみが、最に度だけ胸をよぎった。
「これは最初から、私のものなの」
静は翌朝、必な荷物だけを持ってマンションをた。
見送りはなかった。
健夫婦は寝からてこなかった。
玄関の扉を閉める直、静は度だけ内を振り返った。
ここで、穏やかに暮らせると信じていた。向きの部を選び、美の好みにわせて具も揃えた。
だが、そのいにしがみつく理由はもうなかった。
「藤沢駅までお願いします」
タクシーの運転へ告げると、は静かにりした。
マンションがざかっていく。
静はろを見なかった。
その、健夫婦のもとへ弁護士と産会社の担当者が訪れた。
田もち会った。
インターホン越しにらない々の姿を見た健は、審そうな顔で扉をけた。
広告
「どちらさまですか?」
「田静様の代理です」
黒川弁護士が名刺を差しした。
「本は、このマンションに関する通に参りました」
健の顔がこわばる。
マンションは静の単独名義だった。健夫婦とのに賃貸契約はなく、活の配慮として無償でまわせていただけにすぎない。
静は代理を通じ、その使用を終させ、期限を定めて退を求めた。
同に、買主候補との売却契約もめていた。
「そんな、急にていけと言われても困ります」
美が声をげた。
黒川は淡々と答えた。
「正式な通です。退期限や残置物の扱いについては、面をご確認ください」
「私たちがんでいるですよ!」
「所者は田静様です」
美は絶句した。
健は壁にをつき、どうにかっていた。
「母は、どこにいるんですか?」
「ご本の希望により、お伝えできません」
田が健を見た。
「あのがどれだけ苦しんだか、おには分からないだろう」
「田さん、これは族の問題です」
「族なら、なおさらやっていいことと悪いことがある」
田の声には抑えきれないりが滲んでいた。
「静さんは、おを学まですため、でもたいにを入れて働いた。おが京で困らないように、自分は同じを何も着ていた」
健の肩が揺れた。
「それなのに、おは母親のを奪って、飯まで別にして、最は認症に仕てようとした」
「俺は、そこまでは……」
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
四十九日の絶縁
夫を突然亡くした三十七歳の裕子。悲しみに暮れる間もなく迎えた四十九日法要の日、帰宅した彼女を待っていたのは、ゴミ捨て場に放り出された自分の荷物だった。「息子が死んだら嫁は赤の他人よ!」そう言い放つ姑は、さらに幼い二人の子供まで裕子から引き離そうとする。だが、姑が三歳の息子だけを異常に可愛がる裏には、恐ろしい計画が隠されていた。子供たちを守るため、裕子は静かに反撃の準備を始める。そして数か月後、助けを求めて電話してきた姑に、裕子が告げた言葉とは――。人生逆転|裡切られた|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|介護2.3万字5 178 -
完結第13話
俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日
妹を事故で亡くし、遺された六歳の双子を男手一つで育てる伊吹公平。仕事と育児に追われる毎日の中、彼が最も苦手としていたのは、職場で「氷の女」と恐れられる経理主任・桐谷エリカだった。ところがある日、保育園へ迎えに行った公平は、娘たちに囲まれて優しく微笑むエリカの姿を目撃する。しかも、誰にも甘えようとしなかった内気な妹・りこが、彼女の服を握って離さない。冷たい視線の裏に隠されていた意外な素顔。そして、少しずつ変わり始める三人の暮らし。孤独を抱えた大人たちと、小さな双子が紡ぐ、温かな家族の物語。人生逆転|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|金銭問題1.9万字5 109 -
完結第18話
離婚翌日に6億円当選、実家で弟に「居場所はない」と拒絶された私
十五年間の結婚生活を終え、四十二歳で一人になった沙耶。途方に暮れていた彼女に、突然、六億円を超える宝くじの当選という奇跡が訪れる。両親を助け、人生をやり直そうと実家へ帰った沙耶だったが、弟の健太は「この家に姉ちゃんの居場所はない」と冷たく言い放った。理由も分からず傷つく沙耶。しかし、弟夫婦が十二年間背負ってきた現実を知り、彼女の考えは大きく揺らぎ始める。さらに当選を打ち明けた夜、健太が突きつけた一言が、家族の隠してきた本音を浮かび上がらせる。六億円があっても取り戻せないものとは――。人生逆転|兄弟姉妹|親子関係|金銭問題1.8万字5 200 -
完結第20話
「息子が高熱なのに来い!」夫一家に185万円の請求書を押しつけられた私の正体
夫と義家族から「何もできない専業主婦」と見下され、金銭まで搾り取られてきた松岡美央。しかし彼女には、世界的なホテルグループの最高責任者という、誰にも明かしていない秘密があった。ある夜、高熱を出した息子を看病していると、義母から三十件以上の着信が届く。「緊急事態だから今すぐ来なさい!」慌ててホテルへ駆けつけた美央を待っていたのは、豪華な食事を楽しむ夫一家と、185万円もの請求書だった。裡切られた|怒り|嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場2.6万字5 1299 -
完結第10話
元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円
「もう二度と、俺の前に現れるな」離婚の日、夫の大地に冷たく突き放され、ひな子は六歳の息子とともに家を追い出された。渡されたのは、養育費を振り込むという一枚のキャッシュカードだけ。ひな子はそれを封印し、工場で働きながら必死に息子を育ててきた。三年後、口座を解約するため銀行を訪れると、なぜか支店長自らが現れ、特別応接室へ案内される。通帳に記されていた残高は、なんと一億五千万円。さらに差し出されたのは、元夫の筆跡で「ひな子へ」と書かれた一通の封筒だった。あの日の冷酷な離婚には、誰も知らない秘密が隠されていた――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題|熟年離婚1.6万字5 781 -
完結第18話
「片親の貧乏人」と息子を叩いた社長、母の正体を知って絶句
結婚の挨拶から帰宅した息子・祥太の頬には、くっきりと平手打ちの跡が残っていた。婚約者の父親から「片親の貧乏人」と罵られ、結婚まで白紙にされたという。二十五年間、女手一つで息子を育ててきた桃江は、静かに電話をかけた。実は彼女は、父の急逝を受けて大企業の社長に就任したばかり。しかも相手の食品会社は、長年その企業との取引に支えられていた。桃江の正体を知り、突然態度を変える婚約者一家。しかし、亡き父が残した調査記録には、結婚騒動をはるかに超える重大な秘密が隠されていた。因果応報|親子関係|修羅場2.6万字5 2231 -
完結第20話
高熱の娘を置き去りにした姉は、私の夫と不倫旅行中だった
結婚五年目の美和は、実の姉・麻里奈から生後十一か月の姪を十日間預けられる。ところが、姉が海外旅行へ出発した直後、幼い心ちゃんの容態が急変。必死に救急搬送する美和だったが、姉にも出張中の夫にも連絡がつかない。不審に思って姉のSNSを調べると、南国の写真に写り込んでいたのは、見覚えのある夫の腕時計だった。怒り|夫婦|親子関係|不倫1.8万字5 1341