"預けた通帳が消えた日" 第8話
美名義の座に残っていたは、解続きを経て静へ戻った。
静の元には、約千万円の資産が残った。
「これを、今度こそ正しく預けたいんです」
静が言うと、黒川は頷いた。
「どのように使いたいとお考えですか?」
静は事にいてきたをいた。
千万円を、齢者の活支援と、親を頼れない子どもたちのために寄付する。
残りは信託座で管理し、自分の治療費と活費に使う。
そしてに財産が残ったは、域の福祉団体へ渡す。
健には、今のところ相続させない。
「本当に、それでよろしいですか?」
「はい」
静の返事に迷いはなかった。
「息子を憎んでいるからではありません。あの子には、自分の力できることを覚えてほしいんです」
財産を残すことだけが、親のではない。
には、渡さないことが、そのに残せる最の教えになる。
続きが終わると、静は沿いのカフェへ向かった。
田たちが待っている。
「お、主役が来たぞ」
「何の主役よ」
静が笑うと、皆も笑った。
窓のでは、のが陽を反射していた。
事をしながら、昔の話にが咲いた。
信が仕入れを違え、が鰯だらけになった。
健が魚箱のへ隠れ、皆で探し回った。
いのの健は、母を裏切る男ではなかった。
さなで静のエプロンを握り、「母ちゃん」
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と笑っている。
その記憶まで憎しみで塗りつぶしたくはなかった。
帰り、静は田と岸へ寄った。
「これでよかったのかしら」
静がつぶやくと、田はしばらくを見つめた。
「正しかったかどうかなんて、今すぐ分かるものじゃないさ」
「そうね」
「でもなくとも、静さんはきている。自分で飯をって、自分で歩いて、自分で笑ってる。それで分じゃないか」
波が元くまで寄せ、静かに引いていった。
静は頷いた。
「私ね、預ける相を違えたとっていたの」
「の話か?」
「それもあるけれど、もっと切なもの」
静は胸にを当てた。
「自分のを、息子に預けてしまったのよ。あの子のためにきることが、私の幸せだとい込んでいた」
「今は違うのか?」
「ええ。これからは、自分で持って歩くわ」
田は満そうに笑った。
「かったら、しくらい仲に預ければいい」
静も笑った。
奪うに渡すのではない。
支ええると分かちう。
同じ「預ける」でも、そのはまるで違う。
の初め、静のもとへ通の封が届いた。
差は健だった。
封筒のには、美との婚が成したこと、転職してさな運送会社で働き始めたことがかれていた。
そして最に、こう記されていた。
《母さんに許してほしいとは、もうきません。許してもらう資格がないと分かったからです。
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ただ、いつか母さんが俺の顔を見ても苦しくならないになりたいです》
静は、窓辺でくを読んだ。
涙はなかった。
の奥に、さな痛みが残っただけだった。
数考えた末、静は初めて返事をいた。
《健へ。謝罪は言葉より、そののき方に表れます。私は今、元気に暮らしています。あなたも自分のを、自分の力でて直してください》
会いたいとも、許すともかなかった。
ただ最に、文だけ加えた。
《魚をべるには、命をいただいていることを忘れないでください》
幼い健に、信が何度も教えた言葉だった。
を投函した帰り、静はへ寄った。
かつてがあった所には、しい建物が建ち始めていた。古い「しず商」の板は、解体に田がして保管してくれていた。
「持って帰るか?」
「ううん。の休憩所に飾ってちょうだい」
「いいのか?」
「ここにあった方が、あのもぶから」
田は板を抱え、照れくさそうに頷いた。
になると、静はの角を借り、週に度だけさな惣菜販売を始めた。
鯵の蛮漬け。
鰯の姜煮。
信が好きだった、甘めの卵焼き。
のためではなかった。
朝、先にち、と話し、自分ので作ったものを渡す。そのをもう度持ちたかったのだ。
「静さん、またを始めたのかい」
昔の常連客が声をかけた。
「週にだけね。もう無理はしないの」
「より顔がいいじゃないか」
「自分の分まで、ちゃんとべるようになったから」
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