"出産予定日2日前、家を追い出された" 第1話
第1話 予定2の追放
「その荷物ごとていきなさい」
姑の佳代は、玄関に置いてあった紺の入院バッグをつま先で押しした。ファスナーの隙から、退院のに使うはずの淡い緑の産着がのぞき、たいタイルのへ落ちる。
産予定まで、あと2だった。
「お義母さん、今夜だけでも待ってください。病院から、はしないように言われています」
腹部の張りをのひらで確かめながら頼んだが、佳代は腕を組んだままで笑った。
「妊娠を盾にすれば、何をしても許されるとってるの? このの嫁なら、私の言うことを聞きなさい」
リビングにはがつき、テレビではるい笑い声が流れている。それなのに私は、のカーディガン1枚で玄関の気にさらされていた。健はソファからとうともせず、面倒そうにスマートフォンを見ている。
「健、あなたからも言って。今ここでにたら——」
「母さんに逆らうなよ」
画面から目もげず、夫は言った。
「げさなんだよ。しをやせばいい。母さんに謝る気になったら戻ってこい」
胸の奥で、何かが音もなく切れた。6、佳代の皮肉を笑って受け流し、健の嫌を損ねない言葉を選んできた。子どもがまれれば族になれると信じていたが、このたちが待っていたのは赤ん坊だけで、私ではなかったのだ。
広告
私はポケットのでスマートフォンを操作し、ボイスメモの録音ボタンを押した。
「確認します。私は予定2で、今夜はえ込むと分かっていても、からていけということですね」
佳代の眉がつりがる。
「くどいわね。その荷物ごと、今すぐていきなさい」
「由美、母さんをらせるな。さっさとけよ」
2の声が、ポケットのへはっきり残った。私は産着を拾い、入院バッグに戻すと、靴を履いた。ドアを閉める直まで、健は度もこちらを見なかった。
11のはった以に鋭く、頬だけでなく指先まで痛くした。のにたところで腹部がく張り、私は濡れた塀にをつく。呼吸をえようとするたび、のからテレビの笑い声が聞こえた。
頼れる友の顔をい浮かべても、このに臨の妊婦を迎えられるはいない。病院へ話しようと画面をくと、アンテナ表示が消え、「モバイル通信を利用できません」という文字がていた。ただ、のWi-Fiだけが塀越しにくつながっている。
そのに残っていた古い連絡先を見て、指が止まる。
父——誠。
結婚を反対されてをびして以来、3、度も話をしていなかった。今さら助けを求める資格などない。そうった瞬、腹ので赤ん坊がくいた。
私は震える指でLINEの通話ボタンを押した。
広告
呼びし音が途切れかけたあと、数秒でい声が返ってきた。
「由美か」
懐かしい声を聞いた途端、張りつめていたものがほどけそうになる。それでも泣けば話せなくなるとい、私は入院バッグの持ちを握り直した。
「お父さん……を、追いされたの。予定まで、あと2なのに」
父は理由を聞かなかった。
「今、どこだ」
「の」
「くな。そこにいなさい」
通話が切れてから、きっかり10分だった。宅の角を曲がり、黒塗りのが1台、2台と現れる。最の1台が止まるまでに、全部で5台。静かなに並んだ景を見て、向かいののカーテンがわずかに揺れた。
先のドアがき、黒いコートを着た男がにづいてくる。父の秘だった黒川直は、私の青ざめた顔と入院バッグを目見ると、くをげた。
「お迎えにがりました、由美様」
2階の窓に、健と佳代の顔が並んでいた。5台のを見ろしていた2から、さっきまでの笑みが消えていく。
そのとき、2台目の部ドアがゆっくりいた。
磨かれた革靴が面にり、聞き覚えのある杖の音が、夜の舗を打った。
第2話 10分で来た5台
父は3よりし痩せ、の髪が増えていた。それでも、私を見据える目のさは変わらない。杖をついたまま玄関先まで来ると、叱る代わりに自分のコートを私の肩へ掛けた。
「寒かっただろう」
その言で、こらえていた涙が頬を伝った。父は何も問い詰めず、黒川に目配せする。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
家ごと消した母の反撃
七十一歳の美穂は、夫が入院している間、同居する長男夫婦から召使いのように扱われていた。生活費は一円も入れず、母の形見まで勝手に処分する二人。ある日、微熱で三分だけ横になった美穂に、長男嫁はワインを浴びせ、「帰るまでに掃除しておけ」と言い放つ。長男も笑うばかりだった。だが、黙って「はい」と答えた美穂には、二人の知らない計画があった。三日後、帰省先から戻った長男夫婦は、信じられない光景を目にする。嫁姑|親不孝|親子関係|金銭問題2.0万字5 1048 -
完結第10話
すり替えた味噌汁
検事任官の最終面接を迎えた朝、神田玲奈は義母が自分の味噌汁に何かを混ぜる姿を目撃する。夫にも相談できないまま、玲奈は不審な味噌汁を密かに保管し、何食わぬ顔で食卓に戻った。同じ日、義妹の彩佳も三度目の教員採用試験に挑もうとしていた。玲奈が彩佳と味噌汁の椀を交換した瞬間、義母は血相を変えて叫び出す。嫁姑|第二の人生|金銭問題1.4万字5 240 -
完結第20話
四十九日の絶縁
夫を突然亡くした三十七歳の裕子。悲しみに暮れる間もなく迎えた四十九日法要の日、帰宅した彼女を待っていたのは、ゴミ捨て場に放り出された自分の荷物だった。「息子が死んだら嫁は赤の他人よ!」そう言い放つ姑は、さらに幼い二人の子供まで裕子から引き離そうとする。だが、姑が三歳の息子だけを異常に可愛がる裏には、恐ろしい計画が隠されていた。子供たちを守るため、裕子は静かに反撃の準備を始める。そして数か月後、助けを求めて電話してきた姑に、裕子が告げた言葉とは――。人生逆転|裡切られた|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|介護2.3万字5 184 -
完結第20話
「息子が高熱なのに来い!」夫一家に185万円の請求書を押しつけられた私の正体
夫と義家族から「何もできない専業主婦」と見下され、金銭まで搾り取られてきた松岡美央。しかし彼女には、世界的なホテルグループの最高責任者という、誰にも明かしていない秘密があった。ある夜、高熱を出した息子を看病していると、義母から三十件以上の着信が届く。「緊急事態だから今すぐ来なさい!」慌ててホテルへ駆けつけた美央を待っていたのは、豪華な食事を楽しむ夫一家と、185万円もの請求書だった。裡切られた|怒り|嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場2.6万字5 1444 -
完結第10話
元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円
「もう二度と、俺の前に現れるな」離婚の日、夫の大地に冷たく突き放され、ひな子は六歳の息子とともに家を追い出された。渡されたのは、養育費を振り込むという一枚のキャッシュカードだけ。ひな子はそれを封印し、工場で働きながら必死に息子を育ててきた。三年後、口座を解約するため銀行を訪れると、なぜか支店長自らが現れ、特別応接室へ案内される。通帳に記されていた残高は、なんと一億五千万円。さらに差し出されたのは、元夫の筆跡で「ひな子へ」と書かれた一通の封筒だった。あの日の冷酷な離婚には、誰も知らない秘密が隠されていた――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題|熟年離婚1.6万字5 834 -
完結第20話
義両親をこき使う伯父に、嫁の私が反撃した日
法事の席で、義父母は親戚から召使いのように扱われ、会食代まで余分に払わされそうになっていた。八年間その光景に耐えてきた奈央は、夫の健太に「私、やり返してもいい?」と尋ね、ついに伯父へ反論する。伯父が振りかざすのは、二十四年前に義父母を救った二百万円の「恩」。しかし、その借金は十八年前にすでに完済されていた。古い家計簿と振込票が明かす義父母の苦労。そして押入れから見つかった業務日誌には、伯父の会社の創業にまつわる、誰も知らなかった過去が記されていた。長年の屈辱に終止符を打つため、家族はついに立ち上がる。裡切られた|怒り|兄弟姉妹|嫁姑|第二の人生|金銭問題2.2万字5 815 -
完結第18話
4億円の私の家を義弟に譲る義母――夫の一言で凍りついた古希祝い
義父母が住む場所を失った十五年前、黒田彩は自分名義の家を無償で貸した。ところが義母・文子の古希祝いで、突然「あの家は次男の公平に譲る」と宣言される。親族が賛同する中、普段は母親に逆らえない夫が立ち上がり、衝撃の事実を告げた。しかし義母は、彩が昔書いた一通の手紙を持ち出して反論。因果応報|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|金銭問題2.0万字5 1271 -
完結第10話
機内で私を叩いた息子の愛人、空港で知った私の正体
新氏グループの会長・玉金は、息子への株式譲渡を決意し、予定を早めて帰国する。ところが機内で、息子の婚約者を名乗る若い女に席を譲れと迫られ、頬を叩かれてしまう。しかも女の腕には、かつて玉金が息子の正妻・寄舟に贈った家宝の翡翠があった。息子に電話をかけても、返ってきたのは母を侮辱する言葉ばかり。怒りを抑えて空港に降り立った玉金を待っていたのは、愛人が用意した警備員たちだった。しかし、そこへ現れた寄舟の一言が事態を一変させる。裡切られた|嫁姑|第二の人生|親子関係|修羅場1.4万字5 586 -
完結第18話
箱詰めされた母の人生
義母のスマートフォンに届いた、夫・大輔からの一通のメッセージ。「歩美の母親のことは俺がうまく処理したよ(笑)」。不安に駆られた歩美が実家へ駆けつけると、母の幸子は一人で荷物を段ボールに詰めていた。しかも母は、娘に迷惑がられていると信じ込み、高齢者向け住宅への入居と自宅の売却を進めていたのだ。そんなことは一度も言っていない。夫はなぜ、母と娘の間に嘘を重ねたのか。書類に残された「1500万円」という数字から、九年間信じてきた夫の恐ろしい計画が明らかになっていく。裡切られた|怒り|嫁姑|絶縁2.2万字5 1074 -
完結第10話
残高ゼロの通帳
経理主任として働く三十九歳のゆきは、同居する義母から突然、給与明細を突きつけられる。「月四十万円も稼いでいるなら、通帳は私が管理するわ」。勝手に給料の使い道を決められ、夫に助けを求めても返ってきたのは「母さんに任せれば楽だろ」という言葉だった。ついに「嫌なら出ていけ」と言い放たれたゆきは、抵抗するどころか、笑顔で通帳を差し出す。しかし、その夜、彼女は誰にも知られず一つの手続きを済ませていた。嫁姑|夫婦|第二の人生|金銭問題1.5万字5 2839