"デブでダサいと捨てられた妻" 第4話
「つい最まで緒にいた元妻が、まさにそうでした。結婚した頃はまだ見られたのに、々太って、にも構わなくなった。で鏡くらい見ろと言っても変わらない。ああいう女性には、危を持たせないと駄目なんです」
胸の奥が鋭く痛んだ。しかし真由美はを塞がなかった。ペンを置き、浩の声を最まで聞いた。
しばらく沈黙したあと、黒田が企画を閉じる音がした。
「お引き取りください。この提案は、私たちのを売るものではありません。女性の羞恥を商品にしているだけです」
「きれい事では商売になりませんよ」
「なくとも、を傷つけなければ売れないを作るつもりはありません」
浩たちの音がざかり、入のドアが閉まった。ほどなくしてサンプルの扉がき、黒田が入ってきた。
真由美のデザイン画に目を落とすと、腰を隠す着を1枚持ちげる。
「全部、聞いたわね」
「はい」
「このは、あなたを守ってくれるかもしれない。でも、着るをへませない。元夫の言葉からを隠すための鎧になっている」
黒田はデザイン画を机へ戻した。
「あのが違っていると証したいなら、言い返すだけではりない。で証しなさい」
になった真由美は、描きかけの線をしばらく見つめていた。
やがて消しゴムを取り、腰を覆っていたい輪郭を、端からゆっくり消し始めた。
広告
第5話 鎧を脱ぐ40
浩たちが帰ったあと、真由美は描き直したデザイン画を黒田へ提した。
しかし、返ってきた言葉は厳しかった。
「襟をさくしただけで、考え方は何も変わっていないわ」
黒田はトルソーに着せた試作品の裾をつまんだ。腰まわりを覆うい布は、っているときには体の線を隠してくれる。だが子に座ると腹部に布が集まり、肩をかすたび背が引っ張られた。
「あなたはまだ、太って見えないことばかり考えている。このを着て、どこへきたいの?」
答えられなかった。
自宅代わりに借りたさなマンションへ戻っても、真由美は夜まで机に向かった。線を引いては消し、細く見せる切り替えや、線をそらす飾りを加える。そのたび、鏡ので浩に言われた言葉が蘇った。
翌の夕方、美紀がきな袋を抱えて訪ねてきた。
「これ、覚えてる?」
からてきたのは、柔らかな青い布のワンピースだった。卒業、美紀が急に体を増やし、を避けていた期に、真由美が初めて自分で型を引いて作っただ。
首元はきすぎず、首の細い部分が見えるよう袖丈が調されている。腰を締めつけないのに、歩けば布が縦に流れた。
「あの頃のあんたは、私を細く見せようとはしなかった。これを着て、どこへきたいかって聞いたの」
広告
美紀はを撫でながら笑った。
「私が『同窓会へきたい』って答えたら、座っても苦しくなくて、ったときに裾がきれいに戻るを作ってくれた。あの、私は半ぶりにで写真を撮ったのよ」
真由美はワンピースの裏側を確かめた。20の自分が縫った揃いな糸が残っている。ではない。それでも、着るが笑ってちがる面まで像して作られていた。
翌朝、真由美は黒田に提案した。
「先にを描くのをやめます。実際に着るに会わせてください」
黒田の協力で、42歳から67歳までの40が試着調査に参加することになった。会社員、介護職、主婦、経営者。体形も活も異なる女性たちに、真由美は同じ質問をした。
初の試着だけでも、った姿を眺めるだけでは分からない問題が次々にた。63歳で料理を営む女性が棚の器を取ろうとすると、着の裾まで持ちがった。事務職の女性は、30分座っただけでウエスト部分を何度も引っ張った。介護職の女性からは、しゃがんだとき背が見えないことと、洗濯で毎洗えることが絶対条件だと言われた。
真由美は鏡のだけでなく、子や棚を置いた試着をき来し、メジャーを当て直した。自分が描いていたのは止まった女性の姿だった。しかし、を着るは働き、べ、誰かを抱きげ、ので何度もったり座ったりする。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
四十九日の絶縁
夫を突然亡くした三十七歳の裕子。悲しみに暮れる間もなく迎えた四十九日法要の日、帰宅した彼女を待っていたのは、ゴミ捨て場に放り出された自分の荷物だった。「息子が死んだら嫁は赤の他人よ!」そう言い放つ姑は、さらに幼い二人の子供まで裕子から引き離そうとする。だが、姑が三歳の息子だけを異常に可愛がる裏には、恐ろしい計画が隠されていた。子供たちを守るため、裕子は静かに反撃の準備を始める。そして数か月後、助けを求めて電話してきた姑に、裕子が告げた言葉とは――。人生逆転|裡切られた|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|介護2.3万字5 184 -
完結第20話
「息子が高熱なのに来い!」夫一家に185万円の請求書を押しつけられた私の正体
夫と義家族から「何もできない専業主婦」と見下され、金銭まで搾り取られてきた松岡美央。しかし彼女には、世界的なホテルグループの最高責任者という、誰にも明かしていない秘密があった。ある夜、高熱を出した息子を看病していると、義母から三十件以上の着信が届く。「緊急事態だから今すぐ来なさい!」慌ててホテルへ駆けつけた美央を待っていたのは、豪華な食事を楽しむ夫一家と、185万円もの請求書だった。裡切られた|怒り|嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場2.6万字5 1482 -
完結第10話
元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円
「もう二度と、俺の前に現れるな」離婚の日、夫の大地に冷たく突き放され、ひな子は六歳の息子とともに家を追い出された。渡されたのは、養育費を振り込むという一枚のキャッシュカードだけ。ひな子はそれを封印し、工場で働きながら必死に息子を育ててきた。三年後、口座を解約するため銀行を訪れると、なぜか支店長自らが現れ、特別応接室へ案内される。通帳に記されていた残高は、なんと一億五千万円。さらに差し出されたのは、元夫の筆跡で「ひな子へ」と書かれた一通の封筒だった。あの日の冷酷な離婚には、誰も知らない秘密が隠されていた――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題|熟年離婚1.6万字5 846 -
完結第20話
高熱の娘を置き去りにした姉は、私の夫と不倫旅行中だった
結婚五年目の美和は、実の姉・麻里奈から生後十一か月の姪を十日間預けられる。ところが、姉が海外旅行へ出発した直後、幼い心ちゃんの容態が急変。必死に救急搬送する美和だったが、姉にも出張中の夫にも連絡がつかない。不審に思って姉のSNSを調べると、南国の写真に写り込んでいたのは、見覚えのある夫の腕時計だった。怒り|夫婦|親子関係|不倫1.8万字5 1542 -
完結第10話
泥の作業着と誇り
高校卒業から十七年ぶりの同窓会。咲は、夫が農家だと話した途端、華やかな暮らしを自慢する同級生のレナから大勢の前で笑いものにされてしまう。「泥だらけの旦那なんて恥ずかしくないの?」心ない言葉に傷つきながらも、咲は「世界一自慢の夫よ」と言い返した。やがて、仕事帰りの夫・大地が泥のついた作業着で迎えに現れると、再び嘲笑が巻き起こる。しかし次の瞬間、幹事の西村が顔色を変え、夫に向かって深々と頭を下げた。誰も知らなかった大地の本当の姿が、少しずつ明らかになっていく。人生逆転|夫婦|真相|第二の人生|修羅場1.7万字5 553 -
完結第18話
離婚翌日、父と食事中の私を「また金持ちに寄生か」と笑った元夫の末路
結婚生活のすべてを一円単位で折半しながら、家事だけは妻に押しつけていた夫・亮介。「お前は寄生虫だ」と離婚を突きつけられた綾乃は、静かに別れを受け入れた。 その翌日、実父と高級ホテルで食事をしていると、偶然現れた亮介と不倫相手が「もう次の金持ちを捕まえたのか」と嘲笑する。因果応報|夫婦|真実|金銭問題|修羅場|不倫1.9万字5 439 -
完結第21話
赤ペンで消した夫
四十一歳の黒沢洋子は、出版社で腕を認められるベテラン校正者。編集長として出世した夫・和也を支え、七年間、穏やかな結婚生活を送ってきた。ところがある夜、夫から頼まれた若い女性作家の原稿に、見覚えのある文章を発見する。それは、かつて夫が洋子だけに囁いた愛の言葉だった。疑念を抱いた洋子が調べ始めると、原稿の裏には夫の不倫だけでは済まない重大な秘密が隠されていた。やがて和也は、女性作家との十日間の執筆合宿へ出発する。何も知らず帰宅を楽しみにする夫に、洋子は静かに最後の準備を進めていた。夫婦|真実|修羅場|不倫2.3万字5 612 -
完結第10話
産後七日目の決別
帝王切開からわずか七日。傷の痛みと貧血に苦しむ真帆に、夫の直人は「産んだ人が自分で育てればいい」と冷たく言い放った。生まれたばかりの娘を守るため、真帆は実家へ避難する。ところが直人と義母は、彼女を「産後うつで勝手に家出した妻」に仕立て上げ、親族に嘘を広め始めた。追い詰められた真帆は弁護士に相談し、あの日の暴言が記された助産師の記録を手に入れる。そして、夫の勤務先から届いた一通の回答書が、直人の主張を根底から覆そうとしていた――。夫婦|裡の顔|修羅場|不倫1.9万字5 494 -
完結第14話
夫のいない四日間
人気ミステリー作家の安田里美は、無職の夫・博之と七歳の娘を養いながら、仕事も家事も一人でこなしていた。ある深夜、夫のスマートフォンに届いたメッセージから、博之が高校時代からの親友・裕子と不倫していることを知る。しかも二人の豪遊費は、里美の書斎から盗まれたクレジットカードで支払われていた。娘を思って離婚をためらう里美だったが、七歳の美香が口にした言葉で決意を固める。そして夫が裕子と沖縄へ旅立った朝、里美はカード会社と引っ越し業者に電話をかけた。さらに、夫の荷物には思いがけない届け先が指定されていた――。夫婦|親子関係|不倫2.0万字5 2246