みかん小説
本棚

"「異物が入ってる!」老舗そば屋を潰した“32秒の嘘”" 第2話

につけられた値段

「千百万円って……だけの値段ですよね?」

が契約を持つを震わせた。黒川は子の背にもたれ、答える代わりに卓をゆっくりんだ。

「そこにいてある通り、と建物をわせた額だ。古い舗には解体費もかかる。営業を続けても、いずれ耐震補や設備交換が必になるでしょう。歳のあなたが管理し続けるより、今売ったほうがだ」

私の齢をにすれば、こちらがになるとっているらしい。だが、そばを打ってきたは、枚の数字で震えるほどくはなかった。

「黒川さんの会社は、この所を何に使うおつもりですか」

「うちのしいブランド、その旗艦だ。この通りは再発でが増える。あなたのよりくの客を呼べるし、のためにもなる」

黒川は内を見回した。柱の傷も、古い振り子計も、毎朝私が拭く窓枠も、すべて取り壊す提の目だった。

が契約を卓へ戻した。

「祖母は売るなんて度も言っていません。それに、どうして契約まで用してあるんですか」

続きをくするためだ。こういう話は、決断が遅いほど条件が悪くなる。以内なら千百万円を保証する」

「保証?」

の声が鋭くなったが、私はで制した。黒川の隣では、が膝ので拳を握っている。

広告

契約を持ってきた本なのに、こちらと度も目をわせようとしなかった。

つ、確かめていいですか。こちらを借だとっていらっしゃるのでは?」

黒川の眉がわずかにいた。

「何を言っている」

「このは賃貸ではありません。建物も、そのも、私の名義です」

私はレジのに保管していた登記事項証の写しを取りした。の耐震改修と将来の相続について結と相談し、司法士から受け取っていたものだ。

、この辺りにはまださなく、今のような層マンションはなかった。私はき夫の雄かけて貯めたにし、このを買った。当初は杯売るのがやっとで、閉子を修理した夜もある。柱が古いことと、この所の価値がいことは、決して同じではなかった。

黒川は面へ目を落としたが、驚いたふりさえしなかった。その反応を見て、私は彼が最初から所関係を調べていたのだと悟った。

「所者が誰でも、古いの価値は変わらない。千百万円は分に誠のある額だ」

契約には、建物内の設備や什器も譲渡価格に含み、契約から以内にけ渡すとかれていた。そば釜も、雄が選んだ麺台も、常連客が贈ってくれた振り子計も、黒川にとっては千百万円に含まれる処分品にすぎないらしい。

広告

さらに、契約解除に関する説さな文字で末尾に押し込まれ、境界確認や壌調査については空欄のままだった。齢の主なら額だけ見て押印する、とでも考えたのだろう。結が頁をめくる音だけが、静かな内に乾いて響いた。

「そうですか」

私は奥の棚から、もう通の封筒をした。

改修費を借りるか、部を活用するかを考えるため、結が依頼してくれた産鑑定の簡易報告だった。駅から徒歩分、角く、再発予定区域にも隣接している。古い建物だけを見れば値にはならないが、まで緒なら話は別だ。

「では、この数字をご覧になってください」

黒川ので、評価額が記された頁をいた。余裕を崩さなかった彼の指が、初めて止まる。

・建物の参考評価額――千万円。

提示額は、その分のにも届いていなかった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: