"「異物が入ってる!」老舗そば屋を潰した“32秒の嘘”" 第12話
3種類だけの再発
騒から8目の朝、私は柚庵の簾を掛け直した。
午5にへ入り、しく届いたそばの封を切った。袋の番号を仕入れ帳へき、結と緒に棚を撮する。あの夜から、材庫の扉をけるたび、暗い画面に映った森の背が浮かぶ。それでもを量り、をこね始めると、掌へ返ってくる弾力がしずつ呼吸をえてくれた。
汁のりが内へ広がり、磨いたそば釜からい湯気ががる。事件のと同じ朝ではない。だからこそ、同じ順を1つずつ確かめて戻す必があった。
午10半、までまだ30分あるのに、格子戸の向こうにはの列ができていた。毎週来ていた製本所の3、画を見て配していた常連客、そしてくから来たという若い夫婦。内の18席は、から10分で埋まった。
最初に簾をくぐったのは、に謝罪の話をくれた女性だった。彼女はレジのでち止まり、予約を取り消したことをもう度詫びようとした。
「べ物のことですから、になるのは当然です。今来てくださった。それで分ですよ」
私が答えると、女性は目元を押さえ、いつものかけそばを注文した。器を両で包み、最初のをすすったの表を見て、私はようやく簾を掛けてよかったとえた。
「メニュー、本当に3種類だけなんですね」
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若い客が笑うと、結は胸を張った。
「はい。もりそば、かけそば、ざるそばだけです」
黒川に馬鹿にされた品きは、文字も変えなかった。しい料理で話題をきするより、30してきた同じそばを、同じ順で作ることが私たちの答えだった。
画を見て初めて来た客のには、柚子の種を見せてほしいと言うもいた。結は「必ず入るものではありませんし、入れないよう確認しています」と説した。縁起話を宣伝に利用すれば、あの32秒と同じように、本来のがまた切り取られる。偶然会ったへ、驚かせたお詫びと緒に伝えるからこそ、30続いたの話なのだ。
厨には湯気が戻り、そばをすする音と注文の声がなった。私は釜ので何度も客席を見た。数まで空だった窓際の卓で、製本所の職たちが黙々とざるそばをべている。その見慣れた背を見た、張りつめていたものがようやくほどけた。
結は会計のに、の公式ページをえた。予約状況、定休、材管理の説を掲載し、問いわせには1件ずつ自分の言葉で答える。1か、2.1まで落ちた評価は4.5まで戻った。数字だけなら以の4.7には届かない。それでも、事をったうえで来てくれた客の言葉は、以よりくじられた。
のにできたい列を見ても、結は席数を増やそうとは言わなかった。
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代わりに、18席が埋まった点で待ちを表示し、売り切れる分だけ予約を受ける仕組みを作った。1にせる数を超えて客を入れれば、今度は私たち自が30守ったを壊してしまう。
昼の営業が終わる頃、が1でへ来た。
彼は会社を退職し、警察と社内調査の両方へ自分のることを話したという。入でくをげ、画を撮ったことを改めて謝罪した。
「僕が最初に断っていれば、こんなことにはなりませんでした」
「あなたのしたことが消えるわけではありません」
私がそう言うと、は唇を結んだ。
「でも、途で止まって戻るまで拒んだら、誰も違いを認められなくなる。次の職では、最初の命令におかしいと言えるになってください」
私はもりそばを1枚、彼のへ置いた。はしばらく器を見つめた、静かに箸を取った。
会計の、は5分を払おうとした。最初に黒川たちとべた数と同じだった。
「これは謝罪の代わりにはなりません。でも、あのの分まで、きちんと払わせてください」
私は代を受け取り、5枚分の領収を渡した。過を消すことはできないが、未払いのまま背を向けず、自分の責任を数え直すことはできる。
閉、結と翌の仕込みを始めた。は柚庵の創業30周に当たる。派な催しはせず、先着30へさな柚子菓子を渡すことにした。
結が自製薬の瓶をかりにかざした、底にさなが見えた。
取り除こうとする結を、私は笑って止めた。
透な瓶の底には、茶の柚子の種が1粒だけ沈んでいた。
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