"「ただの用務員でしょ?」卒業式で笑われた72歳――アルバムを開いた生徒たちが泣き、校長は壇上を降りた" 第11話
180通の卒業祝い
3が教へ戻ると、全員が入でを止めた。
180分の机に、い封筒が1通ずつ置かれている。表には印刷ではなく、佐藤の字で徒の名がかれていた。体育館にあった段ボール箱を、担任たちが式のに運んだのだ。
青蓮は自分の席へ駆け寄り、慎に封をけた。
からてきたのは、入学式のに正で撮られた写真だった。品の制は肩になじまず、緊張を隠すように唇を結んでいる。写真部と学の記録係が撮した数百枚のから、佐藤が選んだ1枚だった。
裏にはい文章がある。
『入学式の、おはので3回、制の襟を直していた。3、自分から皆ので話せるようになったな。卒業おめでとう』
蓮は写真を持ったまま机に額をつけた。
岸真帆の写真には、入学式の板の横で母親と笑う姿が写っていた。
『毎朝来るだけでも苦しいに、壇のやりを伝ってくれた。あの、枯らさずに守ってくれたが今も咲いた。3、よく通ったな』
美羽の封筒には、しれた所から撮られた写真が入っていた。15歳の美羽が正をくぐる直、度だけち止まり、舎を見げている。
『入学のも、最初の歩を急がなかった。急がなくても、おは自分でを越えた。卒業おめでとう』
美羽は文字を指でなぞり、写真を胸へ抱いた。
広告
佐藤は180全員のい事をっていたわけではない。ほとんど話したことのない徒もいる。そうしたには、廊ですれ違ったの挨拶、文化祭で最まで片づけをした姿、輩へ傘を貸した面など、佐藤が実際に見たさな来事がかれていた。
誰にも気づかれなかったとっていたが、1つずつ残っていた。
野球部の控え選には、のも用具庫のを落として帰ったこと。文化祭で表台にたなかった徒には、閉会に教の机を最まで戻したこと。入学しばらく挨拶を返せなかった徒には、2のに自分から「おはようございます」と言った朝の付までかれていた。
成績や受賞歴ではない。学の記録には残らないが、その徒が確かに3を過ごした証拠だった。
教のあちこちから泣き声ががった。友同士でを見せう者もいれば、誰にも見せず制の内ポケットへしまう者もいた。
廊にいた佐藤は、へ入ろうとしなかった。を読んだの顔まで見るのは照れくさいらしく、窓の鍵を確認するふりをしている。
美羽が廊へた。
「佐藤さん。これを180通、いついたんですか?」
「からしずつだ。名を違えたのが4枚、字をき損じたのが11枚。そっちの処分のほうが変だった」
美羽が笑うと、佐藤もようやく笑った。
広告
「私たちの入学式の写真を、全部見たんですか?」
「何百枚もあった。3で顔が変わった徒もいるから、名簿と照らしわせるのにがかかったよ」
佐藤はそう言ってから、教のをのぞいた。泣いている徒だけでなく、黙って写真を見つめる徒にも目を留める。び方まで同じである必はないとっている顔だった。
蓮たちはそので、佐藤にも返事をこうと決めた。担任から未使用の卒業アルバムを1冊受け取り、最初のページに「今度は私たちが覚えておく番です」と記した。
だが、黒板の隅には、アルバム委員が朝のうちにいた文が残っていた。
『佐藤さんの次は、誰がにつのか』
笑っていた徒たちが、その言葉を見て静かになった。
佐藤は今で退職する。の朝から、720分のに彼はいない。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
山に捨てられた妻は立ち上がる
建築会社の社長・鈴木佳奈は、工事現場から転落し、体を動かせないまま入院生活を送っていた。献身的に支える夫・健二は、周囲から理想の夫と称賛されている。だが夜になると、彼は佳奈の実印を持ち出し、署名を偽造し、愛人と会社や不動産を奪う計画を進めていた。さらに佳奈は、真夏の山中へ自分を置き去りにする相談まで耳にする。誰にも意思を伝えられないと思われていた彼女は、密かに回復しながら証拠を集め始める。夫婦22年の信頼を利用した計画の奥には、最初の転落事故へつながる秘密も隠されていた。因果応報|人生逆転|夫婦3.4万字5 397 -
完結第12話
靴磨きの少年と会長の時計
有楽町の高架下で靴を磨く18歳の佐藤蓮には、他人には聞こえない微かな機械音を聞き分ける力があった。ある日、常連客である東都ホールディングス会長・田中健三の腕時計から、機械式時計には存在しない電子音を聞き取る。留め具から現れたのは、米粒ほどの盗聴器だった。会長に請われて本社へ入った蓮は、次々と情報漏洩を防ぐが、やがて産業スパイに仕立て上げられる。300万円の入金、深夜の入館記録、捏造写真。会社だけでなく帰る場所まで奪われた少年は、古い靴箱に残した証拠を抱え、会長を追い落とそうとする陰謀に立ち向かう。職場逆転|人生逆転1.7万字5 600 -
完結第12話
留守番を命じられた妻
父が遺した築43年の家で、夫・浩司と義母・和子に尽くしてきた52歳の由美子。和子の喜寿を祝う2泊3日の温泉旅行を予約し、32万円を用意したのも彼女だった。ところが出発直前、「車が狭いから留守番ね」と置き去りにされる。後部座席の見知らぬ鞄、妊婦向けプランに変えられた予約、消えた実印。夫と義母は、妊娠した若い愛人を迎え、由美子の父の家まで奪おうとしていた。しかし2人を笑顔で見送った由美子は、すでに登記事項証明書と偽造書類を揃え、静かな反撃を始めていた。人生逆転|嫁姑|不倫1.8万字5 1053 -
完結第12話
「中卒は留守番してろ」と空港に置き去りにされた私――数時間後、高級旅館の女将が上司だけを追い返した
中卒ながら独学で資格を取り、旅行会社に中途入社した22歳の天野澪。現場経験を生かして難航していた企画を救っても、学歴を嘲る竹内部長に成果を奪われ続けていた。やがて澪は、予約困難な老舗旅館・天祥館の視察枠を獲得する。ところが出発前夜、竹内は部下を脅し、澪の航空券だけを密かに取り消した。羽田空港に1人残された澪へ届いたのは、「中卒は留守番してろ」というLINE。事情を知らず天祥館へ着いた同僚たちを待っていたのは、チェックインを認めない女将だった。なぜ女将は、不在の新人を待つのか。そして澪が保存した操作履歴と録音は、竹内の嘘をどこまで暴くのか。人生逆転1.8万字5 1786 -
完結第10話
子どもを救って、僕は処分された
交差点で飛び出しかけた子どもを避けるため、市営バス運転士の北川蓮はとっさに急ブレーキを踏んだ。 子どもとの接触は避けられた。しかし車内では、降車しようとして立ち上がった高齢女性が転倒し、右手首を骨折してしまう。 翌朝、会社が蓮に差し出したのは「前方確認不足による危険運転」を認める謝罪文だった。 信号は見落としていない。子どもは確かに車道へ出かけていた。けれど、乗客を傷つけたこともまた事実だった。 会社は早く責任を運転士ひとりに押しつけようとし、世間は記事の見出しだけで蓮を責める。そんな中、蓮のもとに差出人不明の一通の手紙が届く。 そこには、事故の日に誰も語らなかった“もう一つの真実”が書かれていた。 守った命と、傷つけてしまった人生。 正しさだけでは割り切れない事故の先で、若い運転士が本当の責任と向き合っていく物語。因果応報|人生逆転1.5万字5 217 -
完結第10話
20年後、坊ちゃんは帰ってきた
財閥家の御曹司・優人は、母を亡くした直後、新しく屋敷に入ってきた女によって濡れ衣を着せられ、わずか8歳でアメリカ留学へ追いやられる。 実の父にまで見捨てられた優人のそばに残ったのは、亡き母から「この子を守って」と託された家政婦・白石千鶴子だけだった。 行き先も学校も用意されないまま、異国の地へ捨てられた二人。千鶴子は皿洗いをしながら優人を育て、優人もまた、悔しさを胸に必死で学び続ける。 そして11年後、母が残した一冊の日記から、隠されていた資産と最後の願いが見つかる。 それからさらに時が流れ、20年後。 日本の大和グループが経営危機に陥った時、正体不明の投資家「黒札」に救いを求めることになる。 しかし彼らはまだ知らなかった。 その「黒札」こそ、かつて屋敷から追い出した少年だったことを――。人生逆転|裡切られた|真相|親子関係1.4万字5 439 -
完結第7話
山奥に捨てられた下半身不随の妻妻は立ち上がる
建築会社の社長・鈴木佳奈は、工事現場から転落し、体を動かせないまま入院生活を送っていた。献身的に支える夫・健二は、周囲から理想の夫と称賛されている。だが夜になると、彼は佳奈の実印を持ち出し、署名を偽造し、愛人と会社や不動産を奪う計画を進めていた。さらに佳奈は、真夏の山中へ自分を置き去りにする相談まで耳にする。誰にも意思を伝えられないと思われていた彼女は、密かに回復しながら証拠を集め始める。夫婦22年の信頼を利用した計画の奥には、最初の転落事故へつながる秘密も隠されていた。人生逆転|夫婦1.1万字5 225 -
完結第12話
花嫁が僕を犯人にした朝
結婚式まで、あと1時間20分。 ホテルの支度室で、花嫁・白石奈緒は切り裂かれたウェディングドレスを前に、衣装修復担当の朝倉湊を指さした。 「ドレスを切ったのは、この人です」 しかし湊には分かっていた。昨夜、保管室で彼が見た時、ドレスはすでに切られていた。そして奈緒は、震える声で「明日の式を止めてほしい」と頼んでいたのだ。 なぜ花嫁は、自分を助けようとした男を犯人に仕立てたのか。 やがて、ドレスの内側に縫い込まれていたはずの封筒、消えた書類、三浦家の融資計画、そして花嫁本人の不可解な沈黙が、結婚式の裏に隠された別の真実を浮かび上がらせていく。 切られたのは、ドレスだけではなかった。 守るべき秘密と、押しつけられた罪。その境目に立たされた一人の修復師が、自分の人生を取り戻していく物語。人生逆転|真実|修羅場1.7万字5 133 -
完結第10話
「無職の父」と呼ばれた6年間
「無職のあなたに、病気のある子どもを育てられると思う?」 妻・美咲からそう言われた佐伯公平は、言葉を失った。10歳の息子・悠人は、4歳の頃から1型糖尿病と向き合っている。血糖値の確認、食事管理、通院、学校との連絡――そのすべてを6年間支えてきたのは、公平だった。 しかし妻は、安定した収入を理由に息子を連れて出ていこうとしていた。さらに、悠人にはすでに新しい部屋や転校の話まで伝えられていた。 父親として過ごしてきた時間は、「無職」という一言で消されてしまうのか。 公平は、6年間の連絡帳と医療記録を手に取る。そこには、誰にも見えなかった父と息子の日々が残されていた。 親権をめぐる争いの中で明らかになる、夫婦のすれ違い、息子の本当の気持ち、そして“家族”の形。 これは、父親として生きてきた時間を取り戻すための、静かな戦いの物語。人生逆転|夫婦|親子関係1.5万字5 354 -
完結第10話
米寿の席で外された嫁
米寿祝いの席で、義母は親族の前で突然言った。 「秋子さんには、明日から店へ来てもらわなくて結構です」 33年間、朝早くから和菓子店《松月堂》を支えてきた秋子。餡を練り、注文を管理し、繁忙期には夜まで働いてきた日々は、義母の一言で“家族の手伝い”として片づけられた。 しかも店から外された秋子に、今度は義母の通院や世話を任せるつもりだった。 何も言わず席を立ったその夜、秋子は古い段ボール箱の中から、亡き義父が残した一通の封筒を見つける。 そこに入っていたのは、秋子を守るための遺言ではなかった。 店の帳簿に隠されていた不自然な金の流れ、説明されていない借金、そして義父が最後まで言えなかった家族の秘密。 「家族だから」という言葉の下で、誰が何を背負わされていたのか。 33年間奪われてきた時間と仕事の価値を、秋子が静かに取り戻していく物語。人生逆転|嫁姑|親子関係1.5万字5 2128