"この家は俺のものだ" 第3話
「簡単に言うな」
文はを見つめた。
松乃には、分けられるほどの現などなかった。
建物。
。
裏の畑。
古い蔵。
そうしたものが財産のだった。
もし本当に3で公平に分けるために現化しようとすれば、旅館を売ることになるかもしれない。
父がぬまで守ってきた松乃。
正が20以働いてきた旅館。
文自も、そこを消したいわけではなかった。
「私だって、松乃を売れなんて言ってないよ」
しばらくして文が言った。
正は答えなかった。
「ただ、兄さんが昨、私たちはもう関係ないみたいに言ったから」
「嫁にったんだから別ののだろう」
正は当然のように返した。
その、2階からゆっくりと音が聞こえてきた。
階段をりてきたのは清子だった。
父の葬儀のために数から松乃へ来ていたが、そのもまだ帰る様子はなかった。
清子は帳のまで来ると、兄と姉の顔を交互に見た。
「私、おはいらないよ」
正の眉がいた。
「何だ、急に」
「話、聞こえてたから」
「だったらをすな」
正は苛ったように言った。
清子は俯いた。
文が妹の様子を見た。
清子はしばらく唇を噛んでいたが、やがてさな声で言った。
「でも、ここに置いてほしい」
正の顔からりがし消えた。
代わりに、が分からないという表が浮かんだ。
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「何?」
清子は兄を見た。
その目には、昨まで誰にも見せなかったがあった。
清子は結婚して7になる。
隣県にある噌へ嫁いだ。
夫のはさいながらも昔から商いを続けており、清子は嫁いだからを伝っていた。
朝く起き、族の事を作り、先を掃き、噌を量り、客にをげた。
最初の数は、夫婦仲も悪くなかった。
ただ1つだけ、が経つほどきな問題になっていったことがあった。
子どもだった。
結婚して1。
2。
3。
清子には子どもができなかった。
最初の頃、姑は笑っていた。
「そのうちできるわよ」
だが5を過ぎる頃には、その笑顔は消えた。
「まだなの?」
卓で突然聞かれることもあった。
清子が黙っていると、姑はため息をついた。
「噌だって跡を継ぐがいるんだから」
夫は最初、清子を庇っていた。
「母さん、そんな言い方するなよ」
けれどが経つと、夫も何も言わなくなった。
清子が姑に何を言われても、茶碗を見つめているだけだった。
半から、夫婦のにもほとんど会話がなくなった。
そして父・松吉の葬儀の数。
清子の荷物がまとめられた。
きな荷物ではなかった。
さな柳李が1つ。
着物が数枚。
肌着。
わずかなの回り品。
姑は言った。
「お父さんの葬式があるんでしょう。それならちょうどいいじゃない」
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清子はが分からず、夫を見た。
夫は目をわせなかった。
「し実でをやしてこい」
「いつ戻ればいいの?」
返事はなかった。
「ねえ、いつ戻ればいいの?」
清子がもう度聞くと、夫はようやく言った。
「しばらく帰ってこなくていい」
清子はその瞬に理解した。
父の葬儀へくために送りされるのではない。
夫のから追いされるのだ。
しかし松乃へ着いても、そのことを誰にも言えなかった。
父がくなったばかりだった。
兄も姉も葬儀の準備で忙しく、正の妻・千代も寝る暇がないほど働いていた。
そんなで、自分の夫婦の話など持ちせなかった。
「葬式が終わったら話そうとってた」
帳ので、清子はそう言った。
正は妹の横に置かれていた柳李を見た。
葬儀のための荷物だとっていた。
しかし違った。
それが、今の清子が持っているもののほとんど全てだった。
「夫のへ戻れ」
正が言った。
清子の肩がさく揺れた。
「戻れない」
「夫婦なんだから話しえ」
「話しったよ」
「なら、もう度話せ」
「向こうは、もう私を嫁だとってない」
正はきく息を吐いた。
「だからって、ここで暮らすのか」
「……駄目なの?」
「ここは旅館だぞ」
「分かってる」
「客商売だ。いつまでも内を遊ばせておく余裕なんかない」
「働くよ」
「そういう問題じゃない」
正はしばらく迷ったで言った。
「おのじゃない」
その言葉が帳へ落ちた瞬、文が顔をげた。
清子はかなかった。
ただ、目のの板のを見つめていた。
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