"ヤクザが凍りついた夜" 第9話
美代子をくして以来、との距を取ることが増えていた。
切なを失うことが怖かったのかもしれない。
しく親しくなれば、また別れが来る。
だから最初からく関わらない。
それが番全だとっていた。
けれど、あの夜を境にしずつとのに線がつながり始めた。
田が言う。
「俺、あの警察呼んでよかったんですよね」
「もちろんです」
誠は即答した。
「でも誠さんで——」
「それとこれとは別です」
誠はし真剣な顔になった。
「危険なを見たら警察を呼ぶ。それが正しい。自分で何とかしようとする必はありません」
田が苦笑する。
「誠さんに言われると説得力あるような、ないような」
内がまた笑いに包まれた。
初はその景を見ながら、5の夜をいした。
妻をくした翌。
言も話さず本酒をんでいた老。
あのの誠には、周囲と自分のに見えない壁があった。
今夜は違う。
「誠さん」
初が尋ねた。
「このって、誠さんにとって何なんです?」
誠はすぐには答えなかった。
おでん鍋の湯気を見る。
赤提灯から入るいを見る。
田。
佐藤夫妻。
田。
初。
そして、いないの顔をいす。
「妻をくしてから、が休める所を探していたのかもしれません」
ゆっくり言った。
「ここでは、私が何をしていたでも関係ない。
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ただの誠として座っていられる。それがありがたかったんです」
初は何も言わなかった。
し目元を拭き、それから普段通りの声に戻る。
「じゃあきしてくださいよ。私がやってるは」
「初さんの方が先に倒れないでください」
「失礼ね。まだまだやりますよ」
誠が笑った。
美代子を失って5。
初めて。
自分にもまだ、しい居所を作ることができるのかもしれないとった。
午0を過ぎた頃、誠は勘定を済ませた。
「ごちそうさまでした」
いつものように代をきちんとカウンターへ置く。
ちがった、田がをげた。
それにつられるように佐藤夫妻も、田もをげる。
「やめてください」
誠は困った顔をした。
「そんなことされたら、次から来づらくなる」
初が笑った。
「みんな聞いた? 今度から普通にしてあげて」
「はい」
田が返事をする。
それでも皆の表には、以にはなかった敬が残っていた。
誠は簾をくぐった。
夜が頬へ触れる。
畳には灯のが細く伸びていた。
数の騒ぎなど、最初からなかったように町は静かだった。
歩きながら、誠はコートのポケットへを入れる。
指先に布の触がある。
美代子のハンカチだった。
さなの刺繍。
何も、美代子がまだ若かった頃に縫ったものだ。
「いつまで使ってるの。
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それ」
きていた頃はよく笑われた。
捨てられなかった。
あの夜も。
相馬の拳がんでくる直まで、誠はそのハンカチを膝へ置いていた。
若い頃の記憶が瞬で戻った。
厳しい訓練。
命令を待つ。
極度の緊張ので呼吸を定に保つこと。
仲たち。
失敗の許されない現。
その記憶は今も体のどこかに残っている。
だが誠は、それを誇りにしてきているわけではない。
否定しているわけでもない。
過は過だ。
今の自分を作った部ではある。
それだけだった。
「まだいたな」
誰もいない夜で、さく呟いた。
し笑う。
した部分もあった。
78歳になった。
力は衰えた。
も々震える。
階段をれば息も切れる。
それでも、本当に必なに誰かを守ることができた。
そのことだけは嬉しかった。
ただ、度と使わずに済むなら、その方がいい。
暴力に勝つことがさではない。
美代子が教えてくれた。
争わずに済む所を作ること。
を怖がらせなくても尊敬されるでいること。
必なだけちがり、終われば拳をろせること。
それが誠の考えるさだった。
を抜けると、24営業のコンビニが見えた。
若いアルバイト員が、のに段ボールをしている。
誠に気づき、軽くをげた。
「お疲れさまです」
「お疲れさま」
それだけのやり取りだった。
青は誠が数に何をした物なのからない。
元自官だったこともらない。
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