"金曜日の一冊" 第5話
そんな関係が続いた12の夜。
は駅の居酒でんだ。
直はビールを2杯んだだけだったが、普段よりし饒舌になり、学代に度だけ結婚を考えた相がいたことを話した。
「別れた理由、聞いてもいいですか?」
千紘が尋ねると、直は焼き鳥の串を皿へ置いた。
「僕が決めなさすぎたからです」
相は転勤を打診され、直へ緒に来てほしいと言った。
直は計の仕事を辞めたくなかった。
それなら距で続けたいと言えばよかったのに、「し考えたい」と言ったまま何週も答えをさなかった。
「結局、向こうから“もういい”って言われました」
千紘はしだった。
箱の付箋では、逃げることと諦めることについてもっともらしい返事をしただったからだ。
「桐さんも逃げるんですね」
「逃げますよ。かなり」
「本と言ってること違いません?」
直は笑った。
「本のだから偉そうなことけるんです」
千紘も笑った。
自分だけが過の失敗を持っているわけではない。
直も判断を違え、を傷つけたことがある。
それが妙にした。
をると、12のがたかった。
マンションまで歩く途、直が突然言った。
「藤原さん、僕、最ちょっと困ってます」
「何がですか?」
「隣としてご飯に誘ってるのか、それ以なのか、自分でもよく分からなくなってきました」
広告
千紘はを止めた。
直も数歩先で止まる。
「それって私に聞くことですか?」
「聞いた方がいいとって」
し笑っている。
でも冗談ではない。
千紘はすぐに答えられなかった。
好がある。
それは自分でも分かっていた。
しかし「付きう」という言葉を使えば、そこから先に期待や約束や失敗がまれる気がした。
「私は……今のままでも結構好きです」
千紘が答えると、直はし考えた。
「今の関係が?」
「はい」
「じゃあ壊したくない?」
千紘は頷いた。
直はしばらく黙ったあと、「分かりました」と言った。
それだけだった。
押さない。
説得しない。
嫌にもならない。
その態度にほっとしたはずなのに、部へ戻った千紘は妙に寂しかった。
翌曜。
箱には恋説ではなく、料理本が冊入っていた。
付箋には何もかれていなかった。
千紘はそのを見ながら、自分が全な距を守ったはずなのに、なぜこんなに落ち着かないのか分からなくなった。
がけても、直は態度を変えなかった。
事へ誘うこともあるし、本も置く。千紘が仕事の愚痴を言えば聞くし、計で余ったカレンダーをくれることもあったが、あの夜の話を蒸し返すことは度もなかった。
その距が千紘には逆に苦しかった。
自分から「今のままで」と言ったのだから文句を言えるではない。
広告
それなのに直が本当に今まで通りにしていると、しくらい困らせてほしいとう自分がいた。
1の終わり。
千紘は学代の友・麻と久しぶりに会った。
麻は結婚して10、の子どもがいる。千紘の婚も必以に励ましたりせず、「べたいに連絡して」とだけ言ってくれた友だった。
直の話をすると、麻はすぐ笑った。
「好きじゃん」
「簡単に言わないで」
「じゃあ嫌いなの?」
「嫌いじゃない」
「毎週本待って、週いなかったら配して、絶版本もらって、緒にご飯べて、それで“今のままがいい”って?」
千紘はコーヒーをみながら黙った。
麻はし声を落とした。
「慎吾のことと、そのは別だよ」
「分かってる」
「本当に?」
千紘は、その質問にすぐ答えられなかった。
では違うと分かっている。
しかし誰かを信じようとすると、慎吾が勝に通帳からをかしたや、父のカメラが消えたのことをいす。
自分の物だけではない。
自分の気持ちまで相へ預けたら、また勝に扱われる気がする。
「私、別にでも平気なんだよ」
千紘が言うと、麻は頷いた。
「ってる。でもで平気なことと、誰かといたくないことは別でしょう」
帰宅すると、307号ので直が箱を修理していた。
蝶番が緩んだらしく、さなドライバーを使ってネジを締めている。
「直すんですね」
千紘が言うと、直は顔をげた。
「まだ使いたいので」
「直せない物もあるんでしょう?」
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
「一緒に浪人」は嘘だった――俺に届いた特待生通知
高校三年生の高瀬優馬は、恋人・彩佳の受験勉強を支えるため、自分の研究や試験対策を後回しにしてきた。「どちらかが落ちても一緒に浪人しよう」――その約束を信じていた優馬だったが、合格発表の日、受かった彩佳は彼をあっさり突き放す。しかし優馬には、彼女に隠していた特別奨学生の選考通知があった。自分の未来を取り戻す決意をした優馬は、名門工科大学で研究の才能を開花させていく。やがて大学のコンテストで再会した二人を待っていたのは、残酷なほど鮮やかな立場の逆転だった。因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 414 -
完結第13話
三千円の温泉旅行
町内会の会計を務める68歳の森川静子は、秋の日帰り旅行を一人三千円の温泉宿に決めた。ところが、副会長の妻・矢野夫人は「貧乏くさい」と不満を漏らし、勝手に高級旅館へ行き先を変更。会長の了承を得たと嘘をつき、参加者まで誘い出してしまう。 旅行当日、矢野夫人から突然「積立金三十万円を出しなさい」と電話が。拒否した静子は、今度は会費の使い込みを疑われ、町内中に帳簿の写真を広められる。 しかし、その写真と案内状には、矢野夫人が見落とした決定的な事実が残されていた――。人生逆転|第二の人生|ATM扱い|金銭問題1.5万字5 600 -
完結第20話
貧乏と俺を捨てた元カノ、次期社長との婚約に隠された誤算
「月収四十万円で、私と結婚できると思ってたの?」七年間付き合った恋人・美香に、収入を理由に婚約を破棄された中島涼。失意の帰り道、公園で出会った風変わりな兄弟との交流が、彼の人生を大きく変えていく。物流の経験を生かして建設会社の経営改革に携わり、少しずつ信頼を築いていく涼。二年後、居酒屋で偶然再会した美香は「次期社長と結婚する」と勝ち誇っていた。しかし、彼女も婚約者も、会社で進んでいた重大な決定を知らなかった。金と肩書きで人を見下した二人を待つ、思いがけない逆転劇。人生逆転|裡切られた|真実|第二の人生|金銭問題2.9万字5 522 -
完結第10話
「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた
結婚五年目の立花はる子と夫の琢磨は、念願の新居を手に入れた。しかし、何の相談もなく押しかけてきた義父母が居座り、生活費も払わず、家事をすべてはる子に押しつけるようになる。 ある日、買い物から帰った二人は、義父母が自分たちを嘲笑し、子どものことまで侮辱しているのを聞いてしまう。 長年、親の暴言に耐えてきた琢磨が、初めて口にした「もう限界だ」という言葉。 正面から逆らえない夫を守るため、はる子は義父母に三泊四日の温泉旅行を贈り、その留守中に密かな計画を実行する。何も知らず帰宅する義父母を待つ、予想外の光景とは――。人生逆転|嫁姑|親子関係1.7万字5 826 -
完結第20話
生け垣を伐った4日後、隣人が青ざめた理由
72歳の佐野ふみ子は、亡き夫が40年かけて育てた生け垣に囲まれた家で、一人静かに暮らしていた。ところが隣人の美津江は、落ち葉や枝の張り出しに執拗に文句をつけ、ついには「違法な生け垣だ」と市役所へ通報する。 夫の思い出を守りたい気持ちを抑え、ふみ子は生け垣をすべて伐採することを決意。すると、長年隠れていた地中から古い境界杭が発見される。 そして伐採から4日後、あれほど生け垣を嫌っていた隣人が、真っ青な顔で玄関に現れた。 「お願い! 生け垣を元に戻して!」 突然の懇願の裏に、何があったのか――。因果応報|人生逆転|怒り|裡の顔|修羅場2.0万字5 766 -
完結第20話
離婚1時間でカード5枚停止、義母の豪邸宴会が一変
九年間の結婚生活を終えた神堂美緒は、離婚成立から一時間も経たないうちに、元夫・達也らに渡していたブラックカード五枚を利用停止にした。 一方、達也と義母の和江は、十億円の豪邸まで自分たちのものになったと信じ、親戚五十人を招いて豪華な宴会を開催する。 しかし、彼らは家の本当の所有者も、カードの契約者も知らなかった。さらに、美緒の署名を使った不審な不動産取引まで発覚する。 高額な料理とワインが次々と運ばれる中、祝宴の会計で明らかになる衝撃の事実とは――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.8万字5 946 -
完結第10話
銀座の384万円
巨大企業グループの総帥という身分を隠し、平凡な専業主婦として暮らす美央。夫と義母に見下されながらも、温かい家族を夢見て五年間耐え続けてきた。 義母の誕生日、55万円の高級バッグを用意して銀座のレストランへ向かうと、義家族はすでに食事を終えていた。美央の席も料理もなく、代わりに突きつけられたのは384万円もの請求書。 「会計はあなたが払って」 その言葉に、美央は静かに微笑んで店を去る。しかし義家族はまだ知らなかった。自分たちが誰を敵に回したのかを――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場1.6万字5 2046 -
完結第20話
山奥の身代わり花嫁
29歳の水野美緒は、幼い頃から姉ばかりを優遇する両親のもとで、家事と仕事に追われる日々を送っていた。 ある日、姉が見合いの直前に逃げ出し、美緒はその身代わりとして山奥の男に嫁ぐよう命じられる。逆らえば家にも戻れない。古い鞄一つで送り出された美緒だったが、たどり着いた先は想像もしなかった大きな屋敷だった。 しかも門が開いた瞬間、使用人たちが深々と頭を下げ、「お帰りなさいませ、奥様」と迎えた。 まだ結婚の返事すらしていない美緒を、なぜ彼らは待っていたのか。そこには、家族が隠していた縁談の秘密があった。人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生|親子関係2.8万字5 1199 -
完結第14話
同窓会でビールを浴びた私に、51人の男が最敬礼
中学卒業から十五年。貧しい母子家庭で育ち、いじめに耐えてきた梅本瑞江は、故郷の同窓会に姿を現した。上品な大島紬をまとった彼女を見て、かつてのいじめの主犯・熊切勢子は激怒。友人の借金を盾に保証人になるよう迫り、ついには瑞江の頭からビールを浴びせてしまう。 さらに勢子は、暴力団組長である夫の力を使い、瑞江を脅そうとする。しかし、連れ込まれた奥の宴会場で、誰も予想しなかった光景が待っていた。 十五年前に見下されていた少女が隠していた、驚くべき現在の姿とは――。人生逆転|真相|第二の人生|修羅場2.0万字5 1418