"消えた母と2800万円" 第10話
奈緒は母に、に2回をくことを提案した。いきなり緒に暮らしたり、毎のように話したりすれば、互いに失ったを埋めようとして苦しくなるとったからだった。
最初ので、佳代は奈緒がまれたのことをいた。次ので奈緒は、母がらない学の卒業式についていた。
佳代は学の入学式をらず、奈緒は母が見荘で働き始めたのことをらなかった。
2は過をなかったことにせず、らないをつずつ交換し始めた。
事件の再調査から1、松代の旧商はしい広へ建て替えられた。清計のにあった貸庫は撤されたが、12冊の通帳と鉄製の箱は捜査資料として保された。
佳代は見荘へ戻った。い使っていた川奈緒という名ではなく、宮本佳代として雇用契約を結び直した。
奈緒は母が自分の名を仮名に使っていた理由を尋ねたことがある。
「毎、あなたの名を呼びたかったから」
佳代はそう答えたあと、すぐに言い直した。
「でも、それも私の勝ね。あなたの名を借りて、そばにいるつもりになっていただけだから」
母が以より自分のを言い訳しなくなったことを、奈緒はしずつじていた。
俊からは何通かが届いた。最初のには「おを守ろうとして違えた」
広告
とかれていたが、奈緒は返事をしなかった。
3通目ので、俊は初めて「自分の会社と活を失うのが怖くて、佳代を裏切った」と認めた。娘を守るためという言葉はかれていなかった。
奈緒は、そのだけを捨てずに残した。許すかどうかは、まだ決めなかった。
松永は警察と信用庫の調査に協力し、で見聞きしたことをすべて証言した。計の壁へ箱を隠した判断がなければ、正座の全体像は永に失われていた能性がある。
それでも松永は、自分がもっとく奈緒へ伝えるべきだったと繰り返した。
「遅かったけれど、残してくれたから見つかりました」
奈緒はそう答えた。
謝と許しは、同じではない。誰かがつ正しいことをしたからといって、それまでの沈黙が消えるわけでもない。
ただ、遅れて届いた証拠にも、止まっていたをかす力はあった。
20221225、奈緒は潟きの列に乗った。窓のにはい田畑が続き、へづくにつれてがくなった。
見荘へ着くと、佳代は台所でクリームシチューを作っていた。23と同じように、参とじゃがいもをきめに切り、焦げないようべらでゆっくり混ぜていた。
「、変わってない?」
奈緒が鍋をのぞくと、佳代はし笑った。
「23もたってるのよ。変わってない方がおかしいでしょう」
広告
佳代は、あの夜の料理を再現しようとはしなかった。失われたクリスマスを取り戻せるふりもしなかった。
シチューには、見荘の畑で採れた蕪と、澄に教わった噌がし入っていた。奈緒が覚えている母のとは違ったが、それが議と嫌ではなかった。
夕、佳代は蔵庫からさな苺のケーキをした。丸いケーキではなく、町の菓子で買った角いものだった。
「2つに切る?」
「最初から2個買えばよかったのに」
「23は1つを分ける約束だったから」
佳代がし寂しそうに笑うと、奈緒は包丁を受け取った。
「じゃあ、今は私が切る」
ケーキを央から切ると、片方がしきくなった。佳代はきい方を娘の皿へ置こうとしたが、奈緒は母のへ差しした。
「そっち、お母さんがべて」
佳代のが止まった。
奈緒が自然に「お母さん」と呼んだのは、再会してから初めてだった。
佳代は何も言わずに頷いた。涙を見せまいとしているのか、しばらくケーキの苺を見つめていた。
窓のではが静かに積もっていた。23の夜、佳代は帰ったらケーキをべようとき残した。
その約束は、同じでも同じでも果たされなかった。
奈緒はもう12歳ではなく、佳代も38歳ではない。失ったは戻らず、父の裏切りも、母のい沈黙も消えない。
それでも2は、真相をらないまま待ち続けることからは抜けしていた。
「来も来る?」
佳代が尋ねた。
「来のことは、来決める」
奈緒はそう答え、シチューをもうべた。
昔と同じではなかった。
だが、昔と同じである必はなかった。
23、佳代が用したケーキは、誰にもべられないまま捨てられた。今、2のにあるケーキはし揃いに切られていたが、どちらの皿からもなくなっていった。
今回は、誰も真相を言い終えるに席をたなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第22話
「慰謝料500万円」ママ友が出した弁護士の名刺に驚愕
夫を亡くし、九歳の娘すももを一人で育てる弁護士・水瀬ひまり。ある日、投資で多額の借金を抱えたママ友の香織から、突然「夫との浮気の慰謝料500万円を払え」と迫られる。 証拠として突きつけられたのは、身に覚えのないLINEと、弁護士を名乗る男の名刺。ところが、その名刺には、ひまり自身の名前が記されていた。 偽りの請求、広がる不倫の噂、そして娘の学校生活にまで及ぶ嫌がらせ。ひまりが証拠を集め始めると、思いもよらない金銭トラブルが浮かび上がる。母として、弁護士として、彼女が下す決断とは――。怒り|裡の顔|真相|第二の人生|金銭問題2.8万字5 412 -
完結第21話
妹の手術前に「家族やめれば?」――私はドナーを辞退した
幼い頃から父と継母に冷遇され、妹・直美の引き立て役として育った広美。家を出て新体操の夢を追っていた彼女は、重い肺の病気を患う妹を救うため、生体肺移植のドナー候補になることを決意する。 ところが手術前の食事会で、広美の席だけが用意されていなかった。 「なんで来たの? 家族やめれば?」 妹の冷酷な一言をきっかけに、広美は臓器提供を辞退する。さらに病院で見つかったのは、身に覚えのない署名がされた同意書だった。 家族の裏切りと隠された不正に向き合い、広美は自分の人生と夢を取り戻せるのか。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係2.9万字5 605 -
完結第12話
母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密
幼いころから、人には見えないものが見える紀子。62歳になった彼女は、87歳の母を亡くした葬儀の日、誰も立っていなかったはずの場所に、黒い服の女が写っていることに気づく。女の胸には、銀色の花のブローチ。さらに母の遺品から、見知らぬ女性との古い写真と、秘密の子どもについて書かれた手紙が見つかった。生前、母が繰り返し呼んでいた「千恵子さん」とは誰なのか。そして、棺のそばで聞こえた「あの子はまだ生きてる」という声の意味とは。葬儀写真に残された不可解な影が、半世紀以上封じられてきた家族の秘密を呼び覚ます。日常ホラー|真相|親子関係2.2万字5 300 -
完結第14話
同窓会でビールを浴びた私に、51人の男が最敬礼
中学卒業から十五年。貧しい母子家庭で育ち、いじめに耐えてきた梅本瑞江は、故郷の同窓会に姿を現した。上品な大島紬をまとった彼女を見て、かつてのいじめの主犯・熊切勢子は激怒。友人の借金を盾に保証人になるよう迫り、ついには瑞江の頭からビールを浴びせてしまう。 さらに勢子は、暴力団組長である夫の力を使い、瑞江を脅そうとする。しかし、連れ込まれた奥の宴会場で、誰も予想しなかった光景が待っていた。 十五年前に見下されていた少女が隠していた、驚くべき現在の姿とは――。人生逆転|真相|第二の人生|修羅場2.0万字5 1205 -
完結第13話
疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由
昭和二十年の秋。戦争で夫と家を失った文江は、集団疎開から戻った十二歳の娘・幸子と、焼け跡の東京でようやく再会した。 ところが三日後、娘は突然「あの村へ帰りたい」と言い出す。母との暮らしを喜んでくれると思っていた文江は、深く傷ついた。 やがて娘の行李から見つかった一通の手紙。そこには、長野の農家で暮らす九歳の少女・千代との、切実な約束が隠されていた。 自分たちの生活さえ苦しい母娘は、その約束にどう向き合うのか。戦後の厳しい暮らしの中で、家族の絆と本当の居場所を見つめ直す、心温まる物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|親子関係2.8万字5 153 -
完結第13話
昭和21年、米を没収された母が引き返した理由
昭和21年秋、食糧難の大阪。三人の子どもを育てる森川澄子は、大切な着物と引き換えに手に入れた二升の米を、買い出し列車で警察に取り上げられてしまう。途方に暮れる母へ、十歳の息子が告げたのは、米袋の中に隠された小さな鉄の箱の存在だった。次の駅で引き返し、警察に事情を話した澄子。しかし、その箱に刻まれた三本の稲穂の印は、母子寮から消えた救援物資と、夫が隠していた仕事の秘密へとつながっていく。家族の生活さえ脅かされる中、一人の母親がたどり着く真実とは――。時代|歴史|昭和|真相2.7万字5 187 -
完結第20話
7年伸ばした髪を妹に切られた日、婚約者まで笑った
七年間大切に伸ばしてきた髪を、妹の美緒に突然切り落とされた凛。ところが両親も婚約者の修も、泣きそうな彼女を見て笑うばかり。それどころか、凛が泣き出すまでの時間を賭けていた。 長年、家族のために自分の希望を諦めてきた凛は、ついに婚約を破棄し、遠く福岡への転勤を決意する。 だが、彼女が去ったあと、家族が遊び半分で撮影していた動画から、思いがけない事実が明らかになっていく。 失った七年間を取り戻すように、新しい人生を歩み始めた凛。彼女を笑い続けた人々を待ち受ける結末とは――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|真相|第二の人生2.9万字5 2574 -
完結第10話
泥の作業着と誇り
高校卒業から十七年ぶりの同窓会。咲は、夫が農家だと話した途端、華やかな暮らしを自慢する同級生のレナから大勢の前で笑いものにされてしまう。「泥だらけの旦那なんて恥ずかしくないの?」心ない言葉に傷つきながらも、咲は「世界一自慢の夫よ」と言い返した。やがて、仕事帰りの夫・大地が泥のついた作業着で迎えに現れると、再び嘲笑が巻き起こる。しかし次の瞬間、幹事の西村が顔色を変え、夫に向かって深々と頭を下げた。誰も知らなかった大地の本当の姿が、少しずつ明らかになっていく。人生逆転|夫婦|真相|第二の人生|修羅場1.7万字5 976 -
完結第20話
昭和19年、三十二人が夕飯を拒んだ理由
昭和十九年、信州の寺に集団疎開した子どもたちが、ある晩、いっせいに箸を置いた。「一人だけ、まだ食べていません」。病に伏せる少女・妙子の食事を案じた十二歳の正雄は、食卓に並ぶ膳の数に奇妙な違和感を覚える。やがて納屋の柱に刻まれた米俵の数、届かない食糧、教師の印が押された受領書が浮かび上がる。さらに役場の名簿には、寺で暮らす八人の子どもが翌月から消されることになっていた。誰が、何のために食糧と子どもたちの名前を動かしているのか。時代|歴史|昭和|真実|真相2.8万字5 184 -
完結第10話
亡霊の専属運転手
かつて海外の特殊部隊で「ファントム」と恐れられた神代美央は、戦場を離れ、平穏な人生を求めて大企業の会長専属運転手に応募した。しかし最終面接で待っていたのは、「女に会長を守れるわけがない」と嘲笑する副社長と、十一人の屈強な男たち。美央だけが、彼らのスーツの下に隠された拳銃に気づいていた。やがて現れた鷹司会長は、美央の履歴書を見た途端、激しく震え始める。職場逆転|真実|真相|第二の人生1.5万字5 853