"娘がいない夜も、足音がした" 第1話
「またらせたな。今度やったら、学にも連絡するぞ」
午1047分、玄関をけると、階の503号にむ森田修造がっていた。67歳の森田は、この分譲マンションの管理組理事を3続けている。片には録音のスマートフォンを持ち、私が何か言うから、廊へ聞こえる声で責め始めた。
「娘はもう寝ています。9半から子ども部にいます」
「嘘をつくな。1043分、のをドンドンった。毎晩同じだ」
私は42歳で、学5の娘・咲と2で603号に暮らしている。3に婚した、財産分与で受け取ったと宅ローンを組みわせ、この築24の古マンションを買った。版社の正業務を宅で請け負い、平のくをで過ごしている。
「確認しますから、今夜は帰ってください」
森田は靴先を玄関の内側へ入れた。「確認じゃない。謝罪だ。子どもだから仕方ないで済ませるな。母子庭なら、なおさら躾くらいきちんとしろ」
背で寝の扉がしいた。咲がパジャマ姿でこちらを見ている。私は扉を閉め、管理会社を通して話してほしいと伝えた。森田は「理事は私だ」と言い残し、エレベーターを使わず階段をりていった。
最初の苦は4かだった。夜10過ぎに子どもの音がすると、管理会社から話が入った。咲は呂がりに廊をることがあったため、私はすぐ謝り、防音マットを敷いた。
広告
そのも連絡は止まらず、リビングと廊へのカーペットを追加し、子の脚にフェルトを貼った。費用は計で8万円くになった。
それでも、森田の言う刻は毎回ほぼ同じだった。午1040分から45分のに、い物を5、6回落とすような音がするという。咲が修学旅でだった夜にも苦が来たが、私は台所で子をかしたかもしれないと考え、また謝った。
婚、元夫は私が何かを訴えるたび、「相がっているなら、まず謝ればい」と言った。言い争いを避ければ庭が平穏になると信じ、私は謝る役を引き受けてきた。その癖が、森田のでもていた。
翌朝、咲は朝をほとんどべなかった。「学へ話されるの?」
「しないよう、お母さんが話すから」
「私、昨は歩いてないよ。トイレもした」
私は箸を置いた。娘は午9半以、へをつけることさえ怖がっている。ベッドの横には空のペットボトルがあり、夜にをみにかなくて済むよう用していた。
「しなくていい。普通に歩いていいんだよ」
そう言いながら、私は普通の範囲が分からなくなっていた。集宅では活音を完全になくせない。方、階で眠れないほど響いているなら、できる配慮は必だ。森田が威圧だからといって、音がしないとは限らない。
広告
午10、管理会社の担当者・藤へ話した。内で音の確認をしてほしいと頼むと、民同士の覚差には介入しにくいと言われた。
「森田理事からは、以より改善がないと聞いています。まずお子さんの活を見直していただけますか」
「娘がいない夜にも苦がありました」
「奥様が宅でしたら、別の活音かもしれません」
婚していることは購入の類に記載している。それでも藤は私を奥様と呼び、誰かに配慮を求められる側として処理した。私はを記録し、第者による音響調査を検討すると伝えた。
話を切った直、ポストへが投げ込まれた。
《603号の騒音について。改善が見られない、使用細則に基づき退を含む措置を求めます》
差は管理組理事会。末尾には、理事・森田修造の印が押されていた。
私はマンションの管理規約と使用細則を読み直した。分譲所者に対し、管理組が度の決議で簡単に退を命じられるわけではない。共同利益に反する為が刻なら法続きの対象になり得るが、投函されたには調査結果も、具体な決議もかれていなかった。
藤へ確認すると、「理事から注文をしたと聞いているが、正式な理事会名義かは議事録を見なければ分からない」
と答えた。管理会社が作成した文ではなかった。
私はそれまでの苦を覧にした。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
40組の布団と消えた保険料
妊娠8か月の奈緒は、夫の実家が営む温泉旅館で、義母から40組の布団を敷くよう命じられた。 「嫁に産休はない」と健診へ行くことさえ許されず、母子手帳まで取り上げられた奈緒は、26組目の布団を持ち上げた直後に出血し、病院へ運ばれる。 幸い赤ちゃんは無事だったが、夫は義母をかばい、「家族経営だから産休は取れない」と告げた。不安を覚えた奈緒が翌日、給与明細と自分の加入記録を照合すると、毎月天引きされていたはずの社会保険料が、どこにも納められていないことが分かる。 さらに共同口座には、奈緒の給与の一部が毎月、旅館へ送り返されていた記録まで残されていた。 4年間、家族のためだと信じて働いてきた奈緒の給料は、いったい誰が、何のために動かしていたのか。存在しない保険料をきっかけに、義母だけでなく夫も隠していた旅館の金の流れが明らかになっていく――。嫁姑|裡の顔|修羅場1.6万字5 194 -
完結第14話
帰国したら、夫に双子がいた
1年間の海外赴任を終え、千里が帰国した日。空港で夫・修平の隣に立っていたのは、20年来の親友・春奈だった。 しかも春奈のお腹には、双子の命が宿っていた。 妻が海外で夫の会社を支えるために働いている間、夫と親友はいつの間にか深い関係になっていた。怒鳴ることも泣き崩れることもなく、千里は静かに指輪を外し、離婚の準備を始める。 だが、春奈の妊娠時期、家計口座から流れていた大金、そして義母が密かに残していた録音が、思いがけない真実へとつながっていく。 双子は本当に夫の子なのか。 親友が欲しかったのは愛だったのか、それとも高瀬家という安全な居場所だったのか。 裏切られた妻が、夫も親友も頼らず、自分の人生を取り戻していく静かな逆転劇。夫婦|第二の人生|修羅場|不倫2.2万字5 551 -
完結第11話
姑が剥がした私の名前
小さな菓子工房《灯菓》を営む私は、町内会の敬老会に出す96個のプリンを正式な注文として受けた。 しかし当日の朝、冷蔵庫の中からプリンがすべて消えていた。持ち出したのは義母・富美子。しかも彼女は私の店名と表示ラベルを剥がし、自分の名前を貼って「会長手作り」として配ろうとしていた。 保管温度も、消費期限も、誰が責任を持つのかも曖昧なまま、プリンは高齢者たちの前に並べられる。私は必死に止めようとするが、夫は「母さんを悪者にするな」と私の腕をつかんだ。 その夜、敬老会の参加者が体調不良で搬送される。 原因は本当に私のプリンだったのか。義母は何を隠し、夫はどこまで関わっていたのか。 一枚の貼り替えられたラベルをきっかけに、嫁の仕事を“暇つぶし”と笑ってきた家族の本音が、静かに暴かれていく――。嫁姑|親子関係|修羅場1.6万字5 779 -
完結第11話
夫の実家は空き家だった
結婚して半年。32歳の若菜は、穏やかで誠実な夫・裕介と、静かな新婚生活を送っていた。 裕介の両親は長く海外で暮らしており、日本へ戻ったばかりだと聞かされていた。正月、仕事になった夫の代わりにお年賀を届けようと、若菜は以前教えられた義実家を一人で訪ねる。 しかし、家は人が暮らしているとは思えないほど荒れていた。隣人へ尋ねると、返ってきたのは信じられない言葉だった。 「そこは5年前から空き家ですよ」 混乱した若菜が住所を尋ねても、裕介は決して教えようとせず、贈り物の蟹も自分で届けると言い張った。ところが数日後、見知らぬ男女が突然マンションを訪れ、若菜へ笑顔で告げる。 「この前は高級な蟹、ありがとうね」 5年前から誰も住んでいない「夫の実家」と、若菜の名前を知る謎の男女。裕介はなぜ家族の存在を隠し、他人の家を自分の実家だと偽ったのか――。嫁姑|親子関係|修羅場1.6万字5 57 -
完結第12話
夜逃げ社長に捨てられた4人
社長が突然姿を消し、3か月分の給料を受け取れないまま職場を失った38歳の看板職人・沢村光一。 一緒に取り残されたのは、営業担当の真希、経理担当の春奈、そして住む部屋まで失いかけていた23歳のデザイナー・凛だった。「どこか泊めてください」と頭を下げる凛を前に、光一はほかの2人も見渡し、「うちに来い。全員だ」と告げる。 築古の一軒家で始まった、1日500円の食費による4人の共同生活。再就職先さえ見つからない中、彼らはそれぞれの技術を持ち寄り、自宅の1階で小さな看板屋を始めることを決意する。 ところが開業準備中、春奈がインターネット上で奇妙な会社を発見した。そこには4人が以前制作した看板が実績として掲載され、代表者には消えた社長・黒田剛の名前が記されていた。 しかも、その会社が設立されたのは、黒田が夜逃げしたわずか4日後だった。給料も社員も捨てた男は、最初から自分だけ再出発する準備をしていたのか。すべてを失った4人の小さな挑戦が、黒田の隠していた計画と再び交差していく――。人生逆転|怒り|第二の人生|修羅場1.7万字5 28 -
完結第12話
愛人とタイへ行った夫の10日後
夫の浩司は「タイ出張」と言い残し、10日間家を空けた。 その間、寝たきりの義母の介護を任された由美は、いつものように暴言と呼び鈴に追われる日々を送るはずだった。だが、夫のスマートフォンに残された一通のメッセージから、出張が嘘だったことを知ってしまう。 浩司は若い愛人と海外旅行へ行き、しかも由美の父が残した遺産まで使い込んでいた。 さらに書斎の奥から見つかったのは、すでに署名された離婚届と、愛人からのピンク色の便箋。そこには、由美を介護要員として使い捨てる計画が書かれていた。 28年間、妻として嫁として耐え続けてきた由美は、その日初めて家を出る。 そして10日後。 何も知らずに帰国した浩司を待っていたのは、由美が静かに整えた反撃の場だった――。因果応報|夫婦|不倫|熟年離婚1.8万字5 1089 -
完結第10話
ヤクザが凍りついた夜
東京下町の路地裏にある小さな居酒屋「はっちゃん食堂」。 その夜、店の一番奥には、いつものように静かに酒を飲む78歳の老人・高原誠一が座っていた。妻を亡くして以来、季節の変わり目にだけ現れる、物腰の柔らかな常連客。誰もが彼を、ただの寡黙な年金生活者だと思っていた。 しかし午後11時半、三人の強面の男たちが店へ押し入り、店主や常連客を威圧し始める。やがて標的にされたのは、何も言い返さない誠一だった。 酒をこぼされ、肩をつかまれ、拳を振り上げられても、誠一は怒鳴らなかった。 だが次の瞬間、店内の空気が凍りつく。 78歳の老人が見せた、あまりにも静かで正確な動き。誰も知らなかった彼の過去が、赤提灯の下で少しずつ浮かび上がっていく――。人生逆転|怒り|修羅場1.5万字5 643 -
完結第11話
その家、私のです
離婚届を差し出した夜、夫は当然のように言った。 「この家には、俺と母さんが住む」 18年連れ添った妻・絵里に出て行けと言いながら、夫は家だけは手放さないつもりだった。義母もそれを当然のように受け入れ、絵里の荷物を勝手に片づけ始める。 けれど、その家は絵里が結婚前に買い、ローンを完済したものだった。 怒鳴ることも、泣きつくこともせず、絵里は静かに家を出る。そして弁護士に相談しながら、夫と義母に明渡しの準備を進めていく。 だが調停の中で、夫が家にこだわった本当の理由が少しずつ見え始める。 「母さんのため」という言葉の裏に隠されていた、もう一つの計画。 3か月後、絵里が送った一通の通知が、夫と義母の思い込みを崩していく――。因果応報|嫁姑|夫婦|熟年離婚1.6万字5 3620