"40組の布団と消えた保険料" 第2話
佐代子が救急を呼んだ。美佐子は「げさにしないで、で送ればいい」と止めたが、血を見た佐代子は話を切らなかった。私は担架に乗せられる直、母子帳が庫にあると救急隊員へ伝えた。
美佐子は渋々取りし、「本が置き忘れた」と説した。私は反論する余裕がなかった。腹の張りが波のように続き、赤ちゃんの拍を確かめるまで、のでは最悪の像ばかりが膨らんだ。
診察の結果、血は量で胎盤にきな異常はなかったが、切迫産の兆候があり、そのまま入院になった。点滴と静で経過を見て、なくとも数は仕事へ戻れない。医師は以から仕事量を減らすよう説していたのに、なぜ布団を運んだのかと尋ねた。
「断れませんでした」
にすると、自分が子どものように聞こえた。庫へ母子帳を入れられても、へる方法はあった。佐代子へ助けを求める、警察へ連絡する、帳を置いて受診する。できなかったのは、旅館を混乱させた嫁として皆に責められるのが怖かったからだ。
夕方、直哉が病へ来た。彼は赤ちゃんが無事だと聞いて泣き、私のを握った。だが、美佐子が母子帳を取りげたことを話すと、表を曇らせた。
「母さんも、君が健診へったら現が回らないとったんだ。やり方は悪かったけど、赤ちゃんをどうでもいいとったわけじゃない」
広告
「私は血したの」
「分かってる。だから今は休めばいい。母さんを警察汰みたいに言うのはやめよう」
私は、誰も警察という言葉をしていないと気づいた。直哉は、母のがへられれば問題になると分かっていた。
「産休の続きをして。今から仕事には戻らない」
「産休って、会社員が取るものだろ。うちは族経営だし、君は役員扱いになっているから」
初めて聞く話だった。私は役員就任の類に署名した覚えもなく、役員報酬を受け取ったこともない。毎の細には基本、残業、社会保険料とかれている。
直哉は、細かいことは税理士が処理していると繰り返した。「旅館のとのは同じようなものだ。産費用は母さんがすって言っている。制度にこだわらなくても損はしない」
損得の問題だけではなかった。産費用を義母の好として受け取れば、今も働き方を決める権利まで彼女に渡すことになる。
翌朝、美佐子から話が来た。「団体のお客様へ迷惑をかけたこと、退院したらきちんと謝ってね。佐代子さんが勝に救急を呼んだから、玄関が騒ぎになったのよ」
「母子帳を庫へ入れたことを、どう説しますか」
「切な物だから預かっただけでしょう。あなたは具が悪いと、すぐ話をきくする」
美佐子は、産1かで職復帰するよう言った。
広告
赤ちゃんは客横の休憩へ寝かせ、自分が見ているから保育園はだという。
私は話を切った。病の窓から、旅館のあるがく見えた。4、あの建物ので族と従業員の境目を考えないようにしてきた。
午、病院の医療ソーシャルワーカーへ相談した。産の活と収入がだと話すと、勤務先の社会保険加入状況を確認し、傷病当や産当の対象になるか調べるよう勧められた。
私はスマートフォンから記録を確認しようとしたが、ログイン報が分からなかった。自宅の類棚には基礎番号の通がある。直哉へ持ってきてほしいと頼むと、彼は「母さんが経理類と緒に保管している」と答えた。
自分の番号の類まで、義母の庫に入っていた。
病院では、護師が面会者と連絡先を本の希望で決められると説した。美佐子は族だから当然報を聞けるとっていたが、私の同がなければ詳しい病状は伝えられない。私は直哉だけを連絡先へ残し、美佐子からの問いわせには回答しないよう頼んだ。
その夜、直哉は「母さんが仲れにされたと泣いている」と言った。私は、血した本より、報をもらえない母親の気持ちを先に運んでくる夫を見て、何も同じ順番で話をされてきたことに気づいた。
結婚した最初のも、末始に12連続で働き、実へ帰れなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
帰国したら、夫に双子がいた
1年間の海外赴任を終え、千里が帰国した日。空港で夫・修平の隣に立っていたのは、20年来の親友・春奈だった。 しかも春奈のお腹には、双子の命が宿っていた。 妻が海外で夫の会社を支えるために働いている間、夫と親友はいつの間にか深い関係になっていた。怒鳴ることも泣き崩れることもなく、千里は静かに指輪を外し、離婚の準備を始める。 だが、春奈の妊娠時期、家計口座から流れていた大金、そして義母が密かに残していた録音が、思いがけない真実へとつながっていく。 双子は本当に夫の子なのか。 親友が欲しかったのは愛だったのか、それとも高瀬家という安全な居場所だったのか。 裏切られた妻が、夫も親友も頼らず、自分の人生を取り戻していく静かな逆転劇。夫婦|第二の人生|修羅場|不倫2.2万字5 554 -
完結第11話
姑が剥がした私の名前
小さな菓子工房《灯菓》を営む私は、町内会の敬老会に出す96個のプリンを正式な注文として受けた。 しかし当日の朝、冷蔵庫の中からプリンがすべて消えていた。持ち出したのは義母・富美子。しかも彼女は私の店名と表示ラベルを剥がし、自分の名前を貼って「会長手作り」として配ろうとしていた。 保管温度も、消費期限も、誰が責任を持つのかも曖昧なまま、プリンは高齢者たちの前に並べられる。私は必死に止めようとするが、夫は「母さんを悪者にするな」と私の腕をつかんだ。 その夜、敬老会の参加者が体調不良で搬送される。 原因は本当に私のプリンだったのか。義母は何を隠し、夫はどこまで関わっていたのか。 一枚の貼り替えられたラベルをきっかけに、嫁の仕事を“暇つぶし”と笑ってきた家族の本音が、静かに暴かれていく――。嫁姑|親子関係|修羅場1.6万字5 779 -
完結第11話
夫の実家は空き家だった
結婚して半年。32歳の若菜は、穏やかで誠実な夫・裕介と、静かな新婚生活を送っていた。 裕介の両親は長く海外で暮らしており、日本へ戻ったばかりだと聞かされていた。正月、仕事になった夫の代わりにお年賀を届けようと、若菜は以前教えられた義実家を一人で訪ねる。 しかし、家は人が暮らしているとは思えないほど荒れていた。隣人へ尋ねると、返ってきたのは信じられない言葉だった。 「そこは5年前から空き家ですよ」 混乱した若菜が住所を尋ねても、裕介は決して教えようとせず、贈り物の蟹も自分で届けると言い張った。ところが数日後、見知らぬ男女が突然マンションを訪れ、若菜へ笑顔で告げる。 「この前は高級な蟹、ありがとうね」 5年前から誰も住んでいない「夫の実家」と、若菜の名前を知る謎の男女。裕介はなぜ家族の存在を隠し、他人の家を自分の実家だと偽ったのか――。嫁姑|親子関係|修羅場1.6万字5 61 -
完結第12話
夜逃げ社長に捨てられた4人
社長が突然姿を消し、3か月分の給料を受け取れないまま職場を失った38歳の看板職人・沢村光一。 一緒に取り残されたのは、営業担当の真希、経理担当の春奈、そして住む部屋まで失いかけていた23歳のデザイナー・凛だった。「どこか泊めてください」と頭を下げる凛を前に、光一はほかの2人も見渡し、「うちに来い。全員だ」と告げる。 築古の一軒家で始まった、1日500円の食費による4人の共同生活。再就職先さえ見つからない中、彼らはそれぞれの技術を持ち寄り、自宅の1階で小さな看板屋を始めることを決意する。 ところが開業準備中、春奈がインターネット上で奇妙な会社を発見した。そこには4人が以前制作した看板が実績として掲載され、代表者には消えた社長・黒田剛の名前が記されていた。 しかも、その会社が設立されたのは、黒田が夜逃げしたわずか4日後だった。給料も社員も捨てた男は、最初から自分だけ再出発する準備をしていたのか。すべてを失った4人の小さな挑戦が、黒田の隠していた計画と再び交差していく――。人生逆転|怒り|第二の人生|修羅場1.7万字5 31 -
完結第11話
娘がいない夜も、足音がした
午後10時43分になると、必ず天井から足音がする。 そう訴えてくるのは、階下に住む理事長の森田だった。小学5年の娘・咲と2人で暮らす私は、何度も謝り、防音マットを敷き、娘にも夜は歩かないよう気をつけさせていた。 しかし、苦情は止まらない。 咲が寝ている夜も、家にいない夜も、森田は「また走らせた」と責め続ける。娘はついに、夜中にトイレへ行くことさえ怖がるようになってしまった。 本当に音を出しているのは、私たちなのか。 確かめるため、私は咲を連れて家を空け、603号室を完全に無人にした。 そしてその夜も、午後10時43分。 誰もいない部屋で、あの音が鳴った――。因果応報|怒り|修羅場1.6万字5 54 -
完結第10話
ソファの下のピンクのスマホ
息子の家へ掃除を手伝いに行った58歳の幸子は、ソファの下から見覚えのないピンク色のスマートフォンを見つける。 画面に映っていたのは、息子の妻・優奈と、知らない男が寄り添う写真だった。 最初はただの不倫だと思った。けれど端末の中には、「愛しい人」という名前の相手とのやり取り、500万円の振込記録、そして息子夫婦の家を売る計画まで残されていた。 さらに、金の行き先には優奈の弟・翔太の名前があった。 息子の雄大は何も知らないはずだった。だが幸子が問いかけた時、彼は明らかに嘘をつく。 嫁の裏切り、弟への巨額送金、謎の男、そして息子が隠していた本当の理由。 ソファの下に隠されていた一台のスマホが、家族の平穏を少しずつ崩していく――。裡切られた|嫁姑|真実1.5万字5 732 -
完結第10話
ヤクザが凍りついた夜
東京下町の路地裏にある小さな居酒屋「はっちゃん食堂」。 その夜、店の一番奥には、いつものように静かに酒を飲む78歳の老人・高原誠一が座っていた。妻を亡くして以来、季節の変わり目にだけ現れる、物腰の柔らかな常連客。誰もが彼を、ただの寡黙な年金生活者だと思っていた。 しかし午後11時半、三人の強面の男たちが店へ押し入り、店主や常連客を威圧し始める。やがて標的にされたのは、何も言い返さない誠一だった。 酒をこぼされ、肩をつかまれ、拳を振り上げられても、誠一は怒鳴らなかった。 だが次の瞬間、店内の空気が凍りつく。 78歳の老人が見せた、あまりにも静かで正確な動き。誰も知らなかった彼の過去が、赤提灯の下で少しずつ浮かび上がっていく――。人生逆転|怒り|修羅場1.5万字5 643 -
完結第11話
裏口に回された仕立て屋
孫の発表会の日、68歳の佐和子は嫁から「業者は裏口から入ってください」と告げられる。 舞台に立つ47人の子どもたちが着る衣装は、すべて佐和子が三か月かけて縫い上げたものだった。材料費も立て替え、客席にも座れず、舞台裏で補修を続けた佐和子。 しかし終演後、保護者たちの会話から、嫁が衣装代として大金を集めていたことを知る。 さらに衣装箱には見知らぬ店名のシールが貼られ、ネットには佐和子の作業場が“嫁の実績”として掲載されていた。 家族のため、孫のため。そう思って飲み込んできた佐和子だったが、ある書類に自分の名前が勝手に使われていることを知った瞬間、静かに立ち上がる。 奪われたのは、お金だけではなかった。 名前も、時間も、技術も――。 佐和子は、自分の仕事を取り戻すため、初めて家族に「無償ではない」と告げる。嫁姑|親不孝|真相1.6万字5 765