"夜逃げ社長に捨てられた4人" 第11話
「私たち4の分を全部使う必はありません。でも、しだけ最初のおにしませんか?」
奈はすぐに帳簿をいた。
「制度にするなら、会社のおと個のおは分けないと駄目です。寄付という形にするのか、4が度受け取ってから会社へ入れるのか、税理士さんにも確認しましょう」
「そういうところだけ急に現実になるよな」
が笑うと、奈は「経理ですから」と胸を張った。
結局、未払い賃として戻ってきたは度それぞれが受け取り、その部を4ので会社へ拠することにした。制度の名について話しったが、真希が「黒田反省基とかどうです?」と言いし、奈が「絶対嫌です」と即座に却した。
最に凛が提案した。
「『結び支援制度』はどうでしょう」
たちが仕事によってつながったように、若い社員が技術やしい仕事へつながるための制度。会社がきくなっても、自分たちがどんな状態から始まったのかを忘れないための名でもあった。
翌、この制度を初めて利用したのは20歳の社員だった。を卒業して別業種へ就職したもののく続かず、「を使う仕事がしたい」と結へ入ってきた青で、気事に関する資格を取りたいと申した。
「会社におしてもらっていいんですか?」
青は何度も確認した。
広告
は、かつての自分をしいした。
を卒業して黒田芸へ入った頃、技術を教えてもらえるなら理尽なことにも耐えなければならないとっていた。働かせてもらう側なのだから文句を言ってはいけない、社が言うことは正しいのだと、20く自分へ言い聞かせていた。
「勉して、会社で使ってくれればそれでいい」
は青へ答えた。
「ただし、つだけ条件がある」
青が緊張した顔になる。
「輩が入ってきた、おもちゃんと教えてやれ。それで返してくれればいい」
青は何度も頷いた。
そのの夕方、はで古いへ戻った。会社が別の倉庫へ移ってからも、このだけは売らずに残していた。4が最初に共同活をした所であり、がなくなった夜に材を握りしめ、凛から「辞めます」と言われた所でもある。
1階の壁には、最初に作った居酒の板の試作品が今でも掛けてある。
表面には細かな傷があり、今のならもっときれいに仕げられる。凛のデザインも、そのの作品と比べればまだ未熟だった。
それでも捨てる気にはなれなかった。
あの枚から、本当に全てが始まったからだ。
玄関がく音がして振り返ると、真希、奈、凛の3が買い物袋を持って入ってきた。
「勝に入るなよ」
が言うと、真希は呆れた顔をした。
広告
「何緒にんでたとってるんですか。鍵まだ持ってますよ」
「返せ」
「嫌です」
奈は台所へ向かい、凛は昔と同じ所へ鞄を置いた。いつのにか4で夕をべる準備が始まり、も諦めて蔵庫からみ物を取りした。
今では全員が別々の所で暮らしている。
それぞれに自分の収入があり、自分の活がある。
誰かがむ所を失ったから集まっているわけでもなければ、の費がないから鍋を囲んでいるわけでもない。
それでも、ときどき4はこのへ戻ってくる。
「そういえば、最初の夜に沢さんが言ったの覚えてます?」
奈が鍋をかき混ぜながら尋ねた。
「何を?」
「全員がバラバラに潰れるより、か所に集まった方がましだって」
はし考えてから頷いた。
「あのは、本当にそれくらいしか考えてなかったからな」
真希が笑った。
「結果には正解でしたね」
凛も静かに頷いた。
は3の顔を見ながら、もしあの、凛だけを数泊めて終わっていたらどうなっていただろうとった。真希も奈もそれぞれ別のへき、自分もを放して別の会社を探していたかもしれない。
それが悪いだったとはわない。
ただ、今のにはならなかった。
黒田に料を払ってもらえなかったことも、会社を潰されたことも、決して謝できる来事ではない。
苦しかったものを「いい経験だった」と美化するつもりもなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
一枚のタダ券から始まった家族
夫を亡くし、家賃も食費も尽きかけていた早苗は、5歳の娘・歩美を連れ、冷たい雨の町をさまよっていた。 道端で拾った「唐揚げ1個サービス」の券を握り、閉店間際の《川村食堂》を訪れた早苗。ところが店主の健一は、券の使い方を間違えている彼女を追い返さず、母娘の前に大盛りの唐揚げ定食を置いた。 さらに健一夫婦は、行く場所のない2人を食堂の2階へ住まわせることにする。しかし案内された部屋には、色鉛筆や子ども服、若い夫婦と少女が写った古い家族写真が、暮らしていた当時のまま残されていた。 写真の裏に書かれていた少女の名前は、早苗の娘と同じ「歩美」。しかもその部屋は、健一夫婦が10年間、誰にも使わせずに守り続けてきた場所だった。 なぜ君子は初対面の少女を見た瞬間、「歩美ちゃん」と呼んだのか。雨に濡れた一枚の券から始まった母娘との出会いが、帰らない家族を待ち続ける老夫婦の止まった時間を動かしていく――。人生逆転|真相2.0万字5 41 -
完結第11話
40組の布団と消えた保険料
妊娠8か月の奈緒は、夫の実家が営む温泉旅館で、義母から40組の布団を敷くよう命じられた。 「嫁に産休はない」と健診へ行くことさえ許されず、母子手帳まで取り上げられた奈緒は、26組目の布団を持ち上げた直後に出血し、病院へ運ばれる。 幸い赤ちゃんは無事だったが、夫は義母をかばい、「家族経営だから産休は取れない」と告げた。不安を覚えた奈緒が翌日、給与明細と自分の加入記録を照合すると、毎月天引きされていたはずの社会保険料が、どこにも納められていないことが分かる。 さらに共同口座には、奈緒の給与の一部が毎月、旅館へ送り返されていた記録まで残されていた。 4年間、家族のためだと信じて働いてきた奈緒の給料は、いったい誰が、何のために動かしていたのか。存在しない保険料をきっかけに、義母だけでなく夫も隠していた旅館の金の流れが明らかになっていく――。嫁姑|裡の顔|修羅場1.6万字5 186 -
完結第14話
帰国したら、夫に双子がいた
1年間の海外赴任を終え、千里が帰国した日。空港で夫・修平の隣に立っていたのは、20年来の親友・春奈だった。 しかも春奈のお腹には、双子の命が宿っていた。 妻が海外で夫の会社を支えるために働いている間、夫と親友はいつの間にか深い関係になっていた。怒鳴ることも泣き崩れることもなく、千里は静かに指輪を外し、離婚の準備を始める。 だが、春奈の妊娠時期、家計口座から流れていた大金、そして義母が密かに残していた録音が、思いがけない真実へとつながっていく。 双子は本当に夫の子なのか。 親友が欲しかったのは愛だったのか、それとも高瀬家という安全な居場所だったのか。 裏切られた妻が、夫も親友も頼らず、自分の人生を取り戻していく静かな逆転劇。夫婦|第二の人生|修羅場|不倫2.2万字5 545 -
完結第13話
金曜日の一冊
離婚をきっかけに、人と物を分け合うことが苦手になった藤原千紘。 新しく越してきたマンションで、彼女は隣の部屋の前に置かれた小さな木箱を見つける。そこには毎週金曜日、一冊だけ本が置かれていた。 本を借り、付箋で感想を残したことから、千紘と隣人の時計職人・桐谷直人の間に、不思議なやり取りが始まる。 顔を合わせればただの隣人。けれど本の中では、少しずつ本音を交わしていく二人。 そんなある日、木箱から本が消える。直人の姿も見えなくなり、不安を覚え始めた千紘の玄関前に、一冊の絶版本が置かれていた。 それは、亡き父が大切にしていた、千紘が長年探し続けていた写真集だった。 なぜ直人は、その本のことを知っていたのか。 そして最後のページに挟まれていた一枚の紙が、千紘の止まっていた時間を静かに動かし始める――。人生逆転|真実2.0万字5 94 -
完結第11話
姑が剥がした私の名前
小さな菓子工房《灯菓》を営む私は、町内会の敬老会に出す96個のプリンを正式な注文として受けた。 しかし当日の朝、冷蔵庫の中からプリンがすべて消えていた。持ち出したのは義母・富美子。しかも彼女は私の店名と表示ラベルを剥がし、自分の名前を貼って「会長手作り」として配ろうとしていた。 保管温度も、消費期限も、誰が責任を持つのかも曖昧なまま、プリンは高齢者たちの前に並べられる。私は必死に止めようとするが、夫は「母さんを悪者にするな」と私の腕をつかんだ。 その夜、敬老会の参加者が体調不良で搬送される。 原因は本当に私のプリンだったのか。義母は何を隠し、夫はどこまで関わっていたのか。 一枚の貼り替えられたラベルをきっかけに、嫁の仕事を“暇つぶし”と笑ってきた家族の本音が、静かに暴かれていく――。嫁姑|親子関係|修羅場1.6万字5 778 -
完結第12話
私の名前を消した夫
東京国際リハビリテーション医療センターの着工記念式典当日、神崎しおりは会場入口で足を止められた。 招待者名簿から、彼女の名前だけが消されていたのだ。 3年間かけて基幹設計を作り、祖父から受け継いだ絵画を売って5億円まで投じたプロジェクト。その晴れ舞台に立っていたのは、夫・尚弥と、しおりのVIPバッジを胸につけた若い女性だった。 「肩書きを貸すだけだ」 そう言い放つ夫を前に、しおりは静かに会場を去る。 しかしその直後、彼女が一本の電話をかけた瞬間、巨大プロジェクトは音を立てて崩れ始める。 奪われた名前、盗まれた設計、消えた5億円。 すべてを踏みにじられた女が、自分の名で立ち上がる逆転劇――。人生逆転|夫婦|不倫1.7万字5 684 -
完結第11話
夫の実家は空き家だった
結婚して半年。32歳の若菜は、穏やかで誠実な夫・裕介と、静かな新婚生活を送っていた。 裕介の両親は長く海外で暮らしており、日本へ戻ったばかりだと聞かされていた。正月、仕事になった夫の代わりにお年賀を届けようと、若菜は以前教えられた義実家を一人で訪ねる。 しかし、家は人が暮らしているとは思えないほど荒れていた。隣人へ尋ねると、返ってきたのは信じられない言葉だった。 「そこは5年前から空き家ですよ」 混乱した若菜が住所を尋ねても、裕介は決して教えようとせず、贈り物の蟹も自分で届けると言い張った。ところが数日後、見知らぬ男女が突然マンションを訪れ、若菜へ笑顔で告げる。 「この前は高級な蟹、ありがとうね」 5年前から誰も住んでいない「夫の実家」と、若菜の名前を知る謎の男女。裕介はなぜ家族の存在を隠し、他人の家を自分の実家だと偽ったのか――。嫁姑|親子関係|修羅場1.6万字5 55 -
完結第11話
娘がいない夜も、足音がした
午後10時43分になると、必ず天井から足音がする。 そう訴えてくるのは、階下に住む理事長の森田だった。小学5年の娘・咲と2人で暮らす私は、何度も謝り、防音マットを敷き、娘にも夜は歩かないよう気をつけさせていた。 しかし、苦情は止まらない。 咲が寝ている夜も、家にいない夜も、森田は「また走らせた」と責め続ける。娘はついに、夜中にトイレへ行くことさえ怖がるようになってしまった。 本当に音を出しているのは、私たちなのか。 確かめるため、私は咲を連れて家を空け、603号室を完全に無人にした。 そしてその夜も、午後10時43分。 誰もいない部屋で、あの音が鳴った――。因果応報|怒り|修羅場1.6万字5 51