"夫の実家は空き家だった" 第9話
「若菜さん。私は別に、今の体型が嫌いじゃないの」
「はい」
「でも今回、初めて健康診断の数字を真面目に見直したわ」
義父がすかさず言う。
「昔から何度も言ってるんだけどね」
「あなたはのこと言えないでしょう」
は顔を見わせた。
裕介がさく笑った。
アルバムので見たのと同じ雰囲気だった。
私は初めて、裕介がどんなで育ったのか分かった気がした。
裕介のトラウマは庭が作ったものではなかった。
むしろ、この族はずっと裕介をしていた。
それなのに本だけが、自分の過を恥じ続けていたのだ。
事の途、義父が裕介へ言った。
「お、若菜さんが帰ってきてくれるかどうかばかり考えるなよ」
裕介が箸を止めた。
「え?」
「まず自分の問題を直せ。結果として婚になっても、それは受け入れろ」
「父さん」
「相を失いたくないから変わるんじゃ駄目なんだ」
私は義父を見た。
「自分がこれ以、嘘をつくになりたくないから変われ。それが先だ」
裕介はい黙っていた。
やがてさく頷いた。
「分かった」
帰り。
私は裕介とで駅まで歩いた。
「お父さん、厳しいね」
「昔からああだよ」
「でも優しい」
「うん」
しが空いた。
「お母さんも素敵」
裕介がを止めた。
「本当に?」
「何が?」
「その……見た目とか」
私は呆れて彼を見た。
「まだそこ気にするの?」
「ごめん」
「ぽっちゃりしてて優しくていお母さんだとった」
広告
裕介は瞬目を伏せ、それからし笑った。
その顔は、アルバムのに似ていた。
私はそのすぐに自宅へ戻ったわけではない。
ので暮らしながら、裕介とは週末にしずつ会った。
事をする。
散歩をする。
には何も話さずコーヒーをむ。
以なら裕介は、自分のいところを見せることを避けていた。けれど今は、カウンセリングへったのことも話すようになった。
「子どもの頃のことを話すだけで、こんな疲れるとはわなかった」
「無理しなくていいんじゃない?」
「でも、初めてに話したらし楽になった」
裕介は、自分が見を気にすることそのものを完全に否定するのをやめた。
鏡を見る。
体を鍛える。
を選ぶ。
それ自体は悪いことではない。
問題は、それを失ったら自分には価値がないとい込んでいたことだった。
ある、裕介がカフェで言った。
「ジム、週3から週2にした」
「それは報告必?」
「俺にとっては事件なんだよ」
私は笑った。
「筋肉落ちるよ」
「そういうこと言うなよ」
裕介も笑った。
その瞬、以より自然に話せている自分に気づいた。
私もしずつ、自分の過を話すようになった。
美だから得だと言われ続けたこと。
女友達から距を置かれたこと。
らない男性につきまとわれたこと。
誰かの好きなが私を好きだったというだけで責められたこと。
広告
「だから私は、裕介が見の話をしないところが好きだった」
「うん」
「を見てくれてるとった」
裕介は申し訳なさそうに目を伏せた。
「それは本当だよ」
「分かってる」
私は続けた。
「でもね。容姿のことを何も言わないのも、もしかしたらあなた自が見た目をすごく怖がってたからなのかなって、今はう」
裕介はしばらく考えた。
「たぶんそうだとう」
を見た目で傷つけたくない。
けれど同に、見た目そのものに囚われていた。
優しさと恐怖が混ざっていたのだ。
かほど経った頃。
私は自宅へ戻った。
は玄関で腕を組み、げさにため息をついた。
「せっかく女暮らしの脚本ネタが増えたのに」
「もう分でしょ」
「また喧嘩したら戻ってきていいよ」
「縁起でもない」
でも、その言葉が嬉しかった。
裕介との暮らしが再しても、以と全く同じには戻らなかった。
むしろ戻さなかった。
私たちは、気になることをなるべくそので聞くようにした。
裕介が急にしいを何着も買えば、「何か?」と聞く。
私が黙り込めば、裕介も「ってる?」と聞く。
違えることもある。
言いすぎることもある。
それでも、黙って相の気持ちを勝に決めつけるよりずっとよかった。
義両親ともしずつ交流するようになった。
驚いたことに、は毎朝ウォーキングを始めた。
「裕介に恥ずかしいいをさせたからじゃないわよ。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
息子が遺した証拠
長野県松本市に暮らす70歳の元宮大工・柏木源一郎は、一人息子の健太を交通事故で亡くした。しかし、慎重だった息子が居眠り運転をしたという警察の説明に、どうしても納得できない。 そんな中、同居を始めた嫁の美咲が、毎週木曜の夜に化粧をして外出し、若い男の車に乗っているという噂を耳にする。さらに息子の勤務先から、500万円の見舞金と引き換えに不可解な合意書への署名を求められる。 嫁を信じたい源一郎は、ある夜、密かに後を追う。そこで目にしたのは、息子の死につながる恐ろしい事実だった――。夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場2.3万字5 94 -
完結第10話
四年分の介護記録
四年間のシンガポール赴任を終え、出世を手に帰国した52歳の高橋健一。胸には、妻・由美に突きつけるための離婚届があった。 しかし帰宅した彼を待っていたのは、真っ白な髪と痩せ細った体に変わり果てた妻、そして半年前に亡くなった母の仏壇だった。 重度の認知症を患った義母を、たった一人で介護し続けた由美。夫が毎月送った30万円では到底足りず、彼女はすべてを犠牲にしていた。 そして由美が差し出した四年分の介護記録と、亡き母が残した最後の遺言が、健一の人生を大きく揺るがしていく。嫁姑|夫婦|親子関係|介護1.7万字5 326 -
完結第20話
葬儀3日後、姑に追放された私に亡き夫からの連絡
物流センターの事故で夫・直人を突然失った41歳の美和。しかし義母の数枝は、妻である美和に夫の顔を見ることすら許さず、葬儀を強引に取り仕切る。さらに葬儀の三日後、香典三百万円以上を独占し、13歳の娘・咲と美和を雨の夜に家から追い出してしまう。 絶望の中、親友に助けを求めた美和のスマートフォンに、午前四時、信じられないメッセージが届く。 「生きてる。母には言うな」 送信者は、火葬されたはずの夫だった。 閉ざされた棺の中にいたのは誰なのか。義母が隠そうとしたものとは――。夫の事故をめぐる疑惑と家族の裏切りを描く、衝撃の逆転サスペンス。因果応報|嫁姑|夫婦|親子関係|金銭問題2.3万字5 250 -
完結第16話
母の初盆を禁じた義父が、土地の名義を知った日
亡き母の初盆へ帰ろうとした由美は、義父から「籍を抜いて出ていけ」と言い渡される。結婚二十五年の夫・浩司も味方にはならず、由美は静かに家を出ることを決意した。 しかし、義父一家が暮らす家の土地は、十五年前に母が購入した由美名義のものだった。さらに夫が、その土地を無断で借金の担保にしようとしていたことが発覚する。 母の残した古い鍵と書類を手に、弁護士を訪ねた由美。やがて明らかになる夫の裏切りと、義父母が隠していた計画。二十五年間耐え続けた妻の、静かな人生逆転の物語。怒り|嫁姑|夫婦|修羅場2.3万字5 580 -
完結第12話
雨宮停留所の黄色い傘
私は六十二歳。幼いころから、ときどき人には見えない姿や声を感じることがある。 山梨の小さな町で叔母の家を片づけていたある雨の日、廃止された停留所の水たまりに、黄色い傘を差した少年が映った。 そこで出会った老女は、四十年近く前に失踪した息子を今も待ち続けているという。 「まだ帰れない」 少年が残した言葉を手がかりに調べ始めると、破り取られたバスの運行日誌、隠された手紙、そして家族が長年伏せてきた秘密が浮かび上がる。 あの少年は、いったい何を伝えようとしているのか。日常ホラー|ミステリー|真相|親子関係2.2万字5 139 -
完結第14話
「一緒に浪人」は嘘だった――俺に届いた特待生通知
高校三年生の高瀬優馬は、恋人・彩佳の受験勉強を支えるため、自分の研究や試験対策を後回しにしてきた。「どちらかが落ちても一緒に浪人しよう」――その約束を信じていた優馬だったが、合格発表の日、受かった彩佳は彼をあっさり突き放す。しかし優馬には、彼女に隠していた特別奨学生の選考通知があった。自分の未来を取り戻す決意をした優馬は、名門工科大学で研究の才能を開花させていく。やがて大学のコンテストで再会した二人を待っていたのは、残酷なほど鮮やかな立場の逆転だった。因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 389 -
完結第13話
返せなかった六百二十円
昭和二年、金融恐慌に揺れる東京・神田。銀行員の徳田美佐は、取り付け騒ぎのさなか、印刷所を営む父が請求した預金六百二十円だけを、自分の判断で留めてしまう。 給金を払えなくなった父の工場では職人が去り、父娘の間にも深い溝が生まれる。さらに銀行は「いつでも全額払える」と記した宣伝紙を配り、美佐が認めていない報告書には「確認済」の印が押されていた。 自分の過ちと、銀行が隠そうとする事実。美佐は職を失う覚悟で真相に向き合うことになる。時代|歴史|昭和|親子関係2.8万字5 129