"1800円の御膳が1万8000円になった日――覆面社長が見つけたホテルの嘘" 第6話
500万円の止め料
藤堂のが着の内側で止まった。
「なんだ、まだ帰っていなかったのか」
彼はすぐに平静を装ったが、茶封筒の角が胸元から覗いている。松井はレジの引きしを閉め、私を追い払うようにを振った。
「営業は終わりました。返を求めても無駄ですよ」
「返の話ではありません。青葉クリーンサービスについて伺いに来ました」
会社名をにした瞬、藤堂の顔からが消えた。松井が怪訝そうに支配を見る。
「当ホテルから3で36件、計1260万円の修繕費が支払われています。しかし、契約先名簿にも作業報告にも、その会社はしない。代表取締役は藤堂美佐子さん。あなたの奥様ですね」
「なぜ、おがそれをっている」
先ほどまで私を貧しい客と決めつけていた男の声が、かすかに震えていた。
私は1万8000円のき領収と1800円のPOS控えをレジ台に並べた。さらに、田澄が3万円を支払い、止め面へ署名させられたことも伝える。
藤堂は2枚のを見ろし、唇をく結んだ。やがて私を本社から派遣された監査員だとったらしく、周囲を確認してから事務所の鍵をけた。
「話しいましょう。現には、現なりの事があるんです」
奥の事務で、彼は庫から別の茶封筒を取りした。レジのものとは比べものにならないほどく、テーブルへ置かれた衝撃で鈍い音がした。
広告
封をくと、帯のついた1万円札が5束並んでいた。
空調の音しかない事務で、幣のしいインクと古い類の匂いが混ざった。昼に澄が差しした3枚の1万円札も、こうして誰かを黙らせるための札束へ変えられてきたのかもしれない。私はその景を忘れないよう、藤堂のと封筒の位置を目に焼きつけた。
「500万円あります」
「これは何のおですか」
「細かいことを聞く必はないでしょう。今見聞きしたことを報告からしてくれれば、全部あなたのものです」
藤堂は封筒を私の側へ押した。札束のみでテーブルクロスにい皺が寄る。彼の指は震えていたが、目にはまだ、額をきくすれば相は必ず折れるという確信が残っていた。
藤堂はい声で続けた。
「その、その靴。本社勤めといっても、たいした料ではないのでしょう。500万円あれば活が変わりますよ」
客を装で選別した男は、監査員も額で買えると信じていた。私は封筒に触れず、スマートフォンが会話を記録していることだけを確かめた。
「お断りします」
く答えると、藤堂の表が歪んだ。
「りないなら、あと500万円用する。それでも正義の方を気取るつもりか」
「あなたが差しした500万円は、503件の声を消すには軽すぎます」
隠された苦の数までられていると分かり、藤堂は子を蹴ってちがった。
広告
だが、追い詰められた目に再び傲なが戻る。
「いいだろう。本社の社に直接話す。現もらず数字だけでを裁く若造だが、私の実績を説すれば、末端の監査員より私を選ぶはずだ」
藤堂は支配だけにらされている緊急連絡先をき、発信ボタンを押した。
数秒、私の胸ポケットで着信音が鳴った。
静かな事務に、規則な子音が響く。藤堂は自分の話をに当てたまま眉をひそめ、松井は彼の元と私の胸元を交互に見た。発信を切ると着信音も止まり、もう度かけ直すと、私のスマートフォンが再び鳴った。
松井が目を見き、藤堂の指が固まる。私は鳴り続けるスマートフォンを取りし、画面を彼らへ向けた。表示されているのは、このホテルの支配の番号だった。
そのまま応答ボタンを押し、目のの藤堂を見据える。
「はい、瀬です。私に何のご用でしょうか」
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
同窓会で頭取の娘に脅された俺、300億を全額解約
卒業から24年、150人が集まる同窓会に出席した堀口弘樹。質素なスーツ姿を見た銀行頭取の娘・久我エリは、高校時代と同じように彼を見下し、「パパに頼んで取引を打ち切ってもらう」と脅してきた。 しかし、弘樹の正体は年商2100億円の物流グループを率いる創業社長。東王銀行には300億円を超える預金があった。 「じゃあ、全部解約で」 翌日、銀行から100件もの電話が殺到する。だが、弘樹と頭取の間には、20年前の知られざる恩義があった。彼が最後に下す決断とは――。職場逆転|因果応報|第二の人生2.7万字5 3017 -
完結第10話
拾った財布で泥棒扱い――5万円の濡れ衣と反撃
九歳の娘を育てながら、商社の経理部で働く森田咲。ある朝、会社のロビーで財布を拾い、管理員立ち会いのもと持ち主の女性主任へ返却した。 ところが直後、主任が突然押しかけてきた。 「財布に入っていた五万円がない! あなたが盗んだんでしょう!」 同僚の前で泥棒扱いされ、母子家庭であることまで侮辱された咲。しかし彼女は取り乱さず、一枚の受領書を取り出す。 証拠によって反撃を始めた咲だったが、会社はなぜか彼女を重要業務から外してしまう。やがて、財布の紛失騒動の裏に隠された別の疑惑が浮かび上がり――。職場逆転|裡切られた|裡の顔|金銭問題1.8万字5 1080 -
完結第23話
昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇
昭和53年7月30日。沖縄の交通が右側通行から左側通行へ切り替わった朝、55歳のバス運転手・新垣清徳は、32人の乗客を前に始発の発車を拒んだ。用意された旧型バスは、乗降口が車道側に開く危険な車両だったのだ。しかし欠便を恐れる主任は、若い運転手にその車を出すよう命じてしまう。やがて坂下から届いたのは、一人の少年が負傷したという知らせ。なぜ危険だと分かっていたバスが走ったのか。清徳は息子や同僚たちとともに、事故の責任と、誰も気づかなかった道路の危険に向き合っていく。職場逆転|時代|歴史|昭和|裡の顔3.0万字5 491 -
完結第10話
亡霊の専属運転手
かつて海外の特殊部隊で「ファントム」と恐れられた神代美央は、戦場を離れ、平穏な人生を求めて大企業の会長専属運転手に応募した。しかし最終面接で待っていたのは、「女に会長を守れるわけがない」と嘲笑する副社長と、十一人の屈強な男たち。美央だけが、彼らのスーツの下に隠された拳銃に気づいていた。やがて現れた鷹司会長は、美央の履歴書を見た途端、激しく震え始める。職場逆転|真実|真相|第二の人生1.5万字5 877 -
完結第16話
四万円を断った朝
同僚に裏切られ、二千万円近い借金を背負った大橋拓人。再就職の面接へ向かう朝、雨の道路でパンクした車を見つけ、遅刻を覚悟でタイヤを交換する。女性から差し出された四万円を断り、代わりに面接先まで乗せてもらった拓人。しかし会社に到着すると、受付の社員たちが彼女に深々と頭を下げた。職場逆転|人生逆転|真相|修羅場2.5万字5 1389 -
完結第14話
十八年勤めた売り場を追われた日、恩返しが始まった
十八年間デパ地下を支えた契約社員・千鶴は、新店長から「高齢者の代わりはいくらでもいる」と突然解雇される。 だが、毎週安い弁当を買う老人の正体は、大手食品会社の会長。かつて倒産寸前だった彼の弁当を世に広めた恩人こそ、千鶴だった。職場逆転|退職金|金銭問題|修羅場1.9万字5 2566 -
完結第20話
路線バスで来た父を笑った婚約者一家の誤算
娘の顔合わせに路線バスで訪れた庄三は、相手の両親から「車も持てない乞食」と嘲笑される。婚約者まで黙って見ていたため、庄三はわずか五分で破談を告げた。 しかし庄三の正体は、県下一の交通グループを一台の中古バスから築いた創業者。翌日、社運を懸けた大型工事のコンペ会場で、相手親子は上座に座る庄三と再会する。職場逆転|人生逆転|第二の人生|金銭問題2.6万字5 4197 -
完結第21話
賞与0円を告げられたので、会社を辞めてイタリアへ
十七年間、海外調達を支えてきた玲奈に言い渡された年末賞与は、まさかの零円。評価は最高ランクのまま、翌年も重要なイタリア案件を任されていた。会社は住宅ローンを抱える彼女なら、どんな扱いをしても辞めないと考えていたのだ。 玲奈は怒鳴らず、記録を残して退職届を提出。家と車を手放し、亡き母の言葉に背中を押されてイタリアへ渡る。 ところが彼女の退職後、強引な一律値下げ交渉によって工房との信頼関係は崩れ、大型案件まで危機に陥る。三か月後、玲奈の携帯には人事、部長、社長から合計三百十二件もの着信が残されていた。職場逆転|第二の人生|金銭問題2.8万字5 3977 -
完結第11話
赤提灯から始まる逆転
濡れ衣を着せられ、会社を追われた天才技術者・鈴鹿行。半年かけて開発したセキュリティシステムを上司に奪われ、4500万円の損害賠償まで突きつけられた彼は、すべてを失った雨の夜、居酒屋で無銭飲食を疑われた老人の代金を肩代わりする。 翌日、上司が反社会的勢力と結び、システムを横流ししようとしていた事実が発覚。後輩まで人質に取られ、鈴鹿が追い詰められた瞬間、一本の電話が入る。 「十秒後に車が来る。迷わず乗れ」 現れた黒塗りの高級車に乗っていたのは、昨夜の老人だった。その正体は、鈴鹿の会社を傘下に持つ巨大企業グループの創業者。上司が盗んだシステムを自分の成果として披露する役員会で、二人はすべてを覆す反撃を仕掛ける。職場逆転|裡切られた|怒り|第二の人生1.6万字5 1030 -
完結第18話
ただの経理パート
「君の仕事は誰にでもできる。今日で辞めてもらう」 結婚二十八年。夫は社員全員の前で、私を“週三日の経理パート”として解雇した。 代わりに経理責任者となったのは、夫が連れてきた三十四歳の女性顧問。 私は退職届に署名せず、会社の鍵だけを置いて帰った。 ところが翌朝、売上の六割を占める主力取引先三社が、一斉に新規発注を停止した。 夫は私の報復だと騒いだが、通知に書かれていた理由は―― 《安全監査資料の重大な欠落》 新しい顧問が、都合の悪い事故記録を削除していたのだ。 さらに調べると、私は会社案内だけでなく創業者名簿からも消され、二千万円を出資した記録まで書き換えられていた。 役員を外す書類に残された私の署名。 その作成日、私は手術を受け、病院から一歩も出ていなかった。職場逆転|夫婦1.8万字5 487