"1800円の御膳が1万8000円になった日――覆面社長が見つけたホテルの嘘" 第10話
36枚の空
「美佐子、余計なことを言うな!」
藤堂が受話器へを伸ばしたが、監査担当者が話とのにった。野は録音であることを相へ告げ、落ち着いた声で名を確認する。
「青葉クリーンサービス代表の藤堂美佐子さんですね。瀬ホスピタリティ顧問の野です」
話の向こうで息をのむ音がした。
「帳簿を処分したというのは、どういうでしょうか」
「古いを捨てただけです。仕事はきちんとしました。主から頼まれて、夜に清掃へ入ったんです」
「では、作業員名簿、業務報告、使用資材の購入記録を提してください」
返事はなかった。代わりに通話が切れ、乾いた子音だけが残る。
藤堂は「妻は突然の話で混乱しただけだ」と弁解した。だが、帳簿を処分したという言葉が、偶然てくるはずはない。私が尋ねると、彼はテーブルを指で叩きながら、青葉クリーンサービスとの契約は任者から引き継いだものだと言いした。
榊原が契約の作成を示す。契約は藤堂が支配へ就任した2かに始まり、申請者も承認者も藤堂自だった。任者の署名は、どこにもなかった。
榊原は36件の請求をきなテーブルへ代順に並べた。絨毯洗浄、厨の換気設備清掃、客の消臭作業。項目だけを読めば、どれもホテルに必な業務に見える。
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しかし、現責任者の検収欄には毎回同じ藤堂の印があり、作業者の署名欄は空だった。
請求額はすべて30万~40万円台で、本社の追加承認が必になる50万円を度も超えていない。3、毎ほぼ1件ずつ。額をきく見せず、定期費用のへ紛れ込ませるように作られていた。単独で見れば見過ごしそうな請求も、36枚並べると図がはっきり見えた。
私はそのから、38万円と記された宴会絨毯洗浄の請求をに取った。実施とされるは全館設備点検で休館しており、館内への入退記録は警備会社の2だけ。清掃業者のも、も入っていない。
「裏から入ったんだ。警備員が見落としただけだ」
藤堂は即座に言い返したが、榊原が防犯カメラの保映像を示すとを閉じた。夜の搬入には、資材を運ぶさえ映っていない。
さらに、請求の子ファイルはすべてホテル支配の端末から本社へ送信されていた。作成刻のくは藤堂の勤務で、承認者も藤堂自。取引先登録の申請には、美佐子との関係が記されていなかった。
松井はれた子に座り、初めて見る資料だという顔をしていた。方、井は36枚の列から目をせず、何度も指先を握り直している。客から抜いた現だけでなく、会社の支払いまで同じ支配がかしていたとり、自分が加担した仕組みのきさにようやく気づいたのだろう。
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妻の会社と契約すること自体が、ただちに正の証になるわけではない。しかし、利益相反を隠し、実施記録のない作業へ3で1260万円を支払わせた事実はい。野は、会社側に残る契約、請求、送信履歴、振込記録を1件ずつ対応させていった。
午6を過ぎ、閉したレストランの窓に夕暮れが映っていた。照を落とした客席の向こうで、玄関の自ドアだけがるくく。
きなサングラスをかけた女性が、紺の属ケースを抱えて入ってきた。50代ほどで、藤堂と目がうなり険しい表を浮かべる。
「話では話にならないから来たわ。青葉クリーンサービスの仕事が偽物だなんて、好き勝に言わせません」
女性はテーブルへ属ケースを置き、留めを2つした。
には、廃棄したはずの36件分の作業報告が詰め込まれていた。
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