"1800円の御膳が1万8000円になった日――覆面社長が見つけたホテルの嘘" 第18話
最初の客
再初の午1130分、レストランの入に澄と翔太が現れた。
澄はいのカーディガンを着て、あのと同じ布製バッグを持っている。5歳の翔太は祖母のを握りながら、磨かれたとしい照を落ち着かない様子で見回していた。
私は入で迎え、くをげた。
「お待ちしていました」
以、装で客を分けていた柱のには、もうテーブルがない。壁を部抜いてが届くようにし、全ての席から庭が見える配置へ変えた。あの所には子ども用の子と、さな荷物台が置かれている。
磨き直されたのには庭の緑が反射し、け放した厨から、だしと炊きたての米のりが流れていた。華美な装飾を増やしたわけではない。それでも、客の装を値踏みする線が消えただけで、同じとはえないほど空気が柔らかくなっていた。
「るくなりましたね」
澄がそう言って、ゆっくり内へを踏み入れた。私はその歩を見た瞬、3か抱えていた緊張がしだけほどけるのをじた。
案内を担当した若い従業員は、2を窓際の席へ通し、腰をかがめて翔太へ子ども用のメニューを渡した。別の席には作業着姿の男性と、学らしい客がいる。誰に対してもを置く順も、料理を説する声も変わらなかった。
広告
澄が注文したのは、季節の炊き込みご飯御膳。価格は以と同じ1800円である。
厨から運ばれてきた膳には、鶏肉とごぼうの炊き込みご飯、噌汁、鉢、の物が然と並んでいた。料理はを派に変えず、3か、毎朝だしを取り続けたという。
澄は湯気のつ茶碗を両で包み、だけゆっくりわった。やがて目尻をげ、翔太へ「おじいちゃんも、これが好きだったのよ」と話す。
翔太は用の箸を持とうとして何度もご飯を落としたが、澄は急かさず、さな匙へ持ち替えさせた。回の事では、会計のがかられず、をほとんど覚えていないという。今は品ずつ翔太へ説しながら、最まで温かい噌汁をんだ。
私はしれた席から2を見守った。客が料理をわい、族といを話す。その何でもないこそ、藤堂がと恐怖で壊したものだった。
その言葉を聞き、私はこのホテルが奪いかけたものを初めて正確に理解した。客が戻りたかったのは建物でも格式でもない。くなったと過ごしたを、嫌な記憶だけで終わらせたくなかったのだ。
、翔太は鉛で描いたを私へ差しした。きなホテルので、祖母と自分が青い自転を挟んで笑っている。空の部分には、子どもの字で〈おばあちゃんをなかせないでください〉とかれていた。
広告
胸が詰まり、すぐには返事ができなかった。私は膝をつき、翔太と同じさで約束した。
「もう度と、誰もあんなふうに泣かせません」
翔太はしばらく私の顔を見つめた、「じゃあ、また来る」と答えた。子どものい言葉に、厨から様子を見ていた料理がい子のつばを押さえ、くをげた。
会計で従業員が「本は代を頂きません」と伝えると、澄は財布をき、1800円を取りした。
「無料だから来たのではありません。今は、客としてべに来ました」
レジに1800円が置かれ、正規の領収が発される。澄は額を確かめ、今度はそれを隠さず、翔太にも見えるように持った。
「ほら、ちゃんと1800円よ」
翔太が嬉しそうに頷く。そのにいた従業員たちも、声をげずにをげた。
澄は領収を布製バッグへ切にしまい、私へ言った。
「この1枚なら、主の写真のそばに置いておけます」
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
同じ部署の社員が月30万〜50万円もらう中、私の月給だけは18万円だった
44歳の水野は、同じ開発部の正社員が月30万〜50万円を受け取る中、4年間ずっと月給18万円の契約社員として働いてきた。肩書は「技術補助員」だが、最大顧客のシステム保守や障害対応、大型更新まで実務の中心を任されている。それでも契約満了の日、人事から差し出された更新書類には、また同じ18万円の数字が並んでいた。「代わりはいくらでもいる。ほかに行く当てがないなら署名したほうがいい」。水野はペンを取らず、待遇差の説明を求める書面だけを提出する。そして午後4時、会社が用意した18万円の契約書ではなく、鞄に隠していた“もう1通の書類”を机の上へ置く――。職場逆転2.6万字5 3648 -
完結第12話
靴磨きの少年と会長の時計
有楽町の高架下で靴を磨く18歳の佐藤蓮には、他人には聞こえない微かな機械音を聞き分ける力があった。ある日、常連客である東都ホールディングス会長・田中健三の腕時計から、機械式時計には存在しない電子音を聞き取る。留め具から現れたのは、米粒ほどの盗聴器だった。会長に請われて本社へ入った蓮は、次々と情報漏洩を防ぐが、やがて産業スパイに仕立て上げられる。300万円の入金、深夜の入館記録、捏造写真。会社だけでなく帰る場所まで奪われた少年は、古い靴箱に残した証拠を抱え、会長を追い落とそうとする陰謀に立ち向かう。職場逆転|人生逆転1.7万字5 632 -
完結第13話
「異物が入ってる!」老舗そば屋を潰した“32秒の嘘”
東京・深川で「柚香庵」を30年間守ってきた72歳の高瀬澄子。ある日、5人組の客から「そばに異物が入っている」と怒鳴られるが、正体は自家製の柚子薬味に残った種だった。ところが、男たちの目的は食事ではない。1億2000万円相当の土地を1800万円で奪うため、1分41秒の映像を32秒に切り、店主が異物混入を笑ってごまかしたように拡散したのだ。店の評価はわずか2時間で4.7から2.1へ。さらに保健所へ金属片の写真が届き、午前2時17分、閉店後の裏口に人影が現れる。30年分の信用を奪われかけた澄子は、孫とともに記録を残し始めた。職場逆転|金銭問題1.8万字5 420 -
完結第6話
会長、腕時計に盗聴器があります!
有楽町の高架下で靴を磨く18歳の佐藤蓮には、他人には聞こえない微かな機械音を聞き分ける力があった。ある日、常連客である東都ホールディングス会長・田中健三の腕時計から、機械式時計には存在しない電子音を聞き取る。留め具から現れたのは、米粒ほどの盗聴器だった。会長に請われて本社へ入った蓮は、次々と情報漏洩を防ぐが、やがて産業スパイに仕立て上げられる。300万円の入金、深夜の入館記録、捏造写真。会社だけでなく帰る場所まで奪われた少年は、古い靴箱に残した証拠を抱え、会長を追い落とそうとする陰謀に立ち向かう。職場逆転9.0千字5 197 -
完結第5話
「中卒は留守番してろ」と空港に置き去りにされた私
中卒ながら独学で資格を取り、旅行会社に中途入社した22歳の天野澪。現場経験を生かして難航していた企画を救っても、学歴を嘲る竹内部長に成果を奪われ続けていた。やがて澪は、予約困難な老舗旅館・天祥館の視察枠を獲得する。ところが出発前夜、竹内は部下を脅し、澪の航空券だけを密かに取り消した。羽田空港に1人残された澪へ届いたのは、「中卒は留守番してろ」というLINE。事情を知らず天祥館へ着いた同僚たちを待っていたのは、チェックインを認めない女将だった。なぜ女将は、不在の新人を待つのか。そして澪が保存した操作履歴と録音は、竹内の嘘をどこまで暴くのか。職場逆転8.1千字5 812