"知らない家族が守った家" 第4話
忠雄は返事をしなかった。
認めれば、自分の何かが負けるような気がした。
12に入ると、朝晩のえ込みが厳しくなった。
美津はようやく貸してもらえる部を見つけた。
畳半。炊事と便所は共同で、ここからを乗り継がなければならない所だった。それでも母子3で入れると言われた部は、になかった。
「来週、ます」
美津がそう告げた、忠雄は「そうですか」とだけ答えた。
本来なら胸を撫でろすはずだった。
ようやくが全部戻る。
階の台所も、仏も、庭も杉浦だけのものになる。
それなのに、何かが引っかかった。
夜になると正が妹へ布団をかけ直す音がする。朝になれば、仏から微かな線の匂いが漂ってくる。
それらが消えることを像しても、忠雄はったほど嬉しくなかった。
「父さん」
曜の午、浩が押し入れから顔をした。
へ戻って以来、杉浦の古い荷物との物が混ざったままになっている所を理していたのだ。
「これ、うちの物かな」
にしていたのは、表の擦れた冊の帳面だった。
紐で綴じられ、表には何もかれていない。
忠雄は座卓へ持っていき、最初の頁をいた。
鉛で細かな字が並んでいた。
《昭22614 根側、瓦ずれ。漏りあり。古材で補修》
忠雄のが止まった。
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次の頁をめくる。
《昭2332 側戸、戸破損。交換》
さらにめくる。
《昭231219 井戸の板、腐。子どもがづかぬよう取り替え》
付は毎続いていた。
このでどこが壊れ、何を直したのかが、驚くほど細かく残されている。
忠雄は無言で頁を送った。
《昭2497 仏畳交換》
その横だけ、とは違うき込みがあった。
《位牌、仏具は元の位置へ戻すこと》
「父さん」
浩がい声で呼んだ。
忠雄は返事をしなかった。
帳面の最の頁をく。
そこに署名があった。
健。
忠雄はい、その3文字から目をせなかった。
自分が7、に占領されていたとっていた。
そのの根を直し、戸を直し、仏の畳まで替えたの名が、目のに残っている。
そして、その男はもうこの世にいない。
忠雄は帳面を閉じかけた。
その、最の頁の裏側に、まだ文字があることへ気づいた。
く透けている。
浩も覗き込んだ。
「何ていてある?」
忠雄はもう度、帳面をいた。
最の頁の裏には、修理の記録とは違うい文章が残っていた。
《母の仏壇について、処分してよいとの話あり。断る。主につき、現状のまま保管する》
そのには、さらにさな字でこう記されていた。
《いつ戻るか分からなくても、戻るがいるであることに変わりなし》
忠雄は何度も読み返した。
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胸の奥で、今まで固く固まっていたものへ細い亀裂が入ったような気がした。
「さんのお父さん、ずっとこのを直してたんだな」
浩が言った。
「頼まれた仕事だったのかもしれん」
忠雄は反射に答えた。
自分でも、言い訳のように聞こえた。
その晩、忠雄は帳面を持って階へりた。
美津は子どもの着物を繕っていた。忠雄が帳面を差しすと、顔を見ただけで何のことか分かったらしい。
「それ、残っていたんですね」
「っていたんですか」
「はい。主がつけていました」
忠雄は向かいへ座った。
「どうして、ここまでしていたんです」
美津は針を止めた。
健は初め、このを管理していたから「古い具や仏壇は片づけてもよい」と言われたという。駐軍関係者が使うとしては邪魔になるからだった。
「主は、仏壇だけは駄目だと言ったそうです」
「なぜ」
「持ち主の族が帰ってくるから、と」
忠雄は黙った。
「帰ってくるかどうかも分からなかったでしょう」
「私もそう言いました」
美津はし笑った。
「終戦の翌でしたから。京はあんな状態でしたし、このの持ち主がどこにいるのかもらなかった。もう戻ってこないかもしれないでしょうって」
健はそれでも首を振ったという。
《自分のじゃないから、勝に決めてはいけない》
その言葉を、正にも何度も聞かせていた。
「仏壇に毎朝をわせるように言ったのも、ご主ですか」
「はい」
「どうしてそこまで」
美津はし考えた。
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