"月8万円の町工場社長" 第10話
「浦さんは『貯はありません』とおっしゃいました。それだけなら何も分かりません。でも800万円の借があることまで、自分からおっしゃった」
「断られたかったんですよ」
「はい。でも理由までは言わなかった」
子さんは微笑んだ。
「で理由を聞いて分かりました。ご自分を良く見せたくないから隠したんだと」
俺は苦笑した。
「相当面倒くさい男ですね」
「かなり」
即答された。
で笑ったあと、子さんは表を戻した。
「誰かを守るために背負った借なら、私は恥ずかしいといません」
その言葉を聞いた瞬、胸の奥がくなった。
3。
俺は800万円を自分の失敗だとってきた。
へ断られたこと。
役員報酬8万円。
擦れた靴。
買えなかった。
全部。
経営者として。
けない証拠だと。
っていた。
それを初めて。
別ので。
見てくれるがいた。
「子さん。俺にはまだ借があります。だって、来どうなるか本当は分かりません。精とは会社の規模も桁が違います」
「はい」
「それでも、うちに来てもらえませんか」
言ってから、自分でもひどいとった。
プロポーズではなく。
求のようだった。
子さんは真面目な顔で数秒考えた。
「浦さん」
「はい」
「やっぱり格です」
「まだ試験だったんですか」
「次は、緒に幸せになれるかの試験です」
ので属製のバケツが倒れる音がした。
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あとで聞いたところでは、島が聞きをてながらを引っかけたらしい。
それから2。
俺と子はのに結婚した。
きな式はしなかった。
参加したのは田辺さんたち4と沢渡さん、社、それから親しいが数だけだった。
俺はしいスーツを買わず、父の古いジャケットを直して着た。
子は「それがいい」と笑った。
社は披宴のあと、俺のを握って言った。
「娘の見い相を何も見て、私はずっと『もったいない』と言ってきました。でも今回は、言わずに済みました」
沢渡さんは自分の紹介が正しかったと3回も自した。
田辺さんは乾杯の挨拶でしばらく黙り込み、最に「正さん、息子はちゃんとやってます」とだけ言った。
今も浦製作所は同じ所にある。
械は1台増え、従業員も増えて5になった。
しく入った19歳の女性職へ、島が先輩らしい顔で具の名を教えている。
治具棚には。
島が作ったものが。
2個増えた。
裏側には。
な字で。
名が彫ってある。
田辺さんは63歳になった。
今も腕はくが、週に度は必ず休み、妻の通院へ付き添うようになった。
美代子さんはしい資繰り表を作った。
従業員の与だけでなく、材料、具商、処理会社、運送会社へいくら支払ったかまで枚にまとめている。
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「うちが誰に助けられて回っているか、見えるようにしておきたいんです」
そう言っていた。
父のノートは。
今では。
事務所の棚に。
置いたままだ。
田辺さんが。
若い職へ。
加を教える。
々く。
22の。
精のページには。
父の文字の横へ。
田辺さんの。
き込みが増えた。
そして。
俺の名で借りた。
800万円も。
の。
最の返済が終わった。
通帳の残を見た。
像していたほど。
嬉しくはなかった。
俺にとって。
あの800万円は。
借というより。
浦製作所が。
き延びた3の。
記録だったからだ。
「終わったよ」
に帰って子へ言うと、彼女は「おめでとうございます」と笑った。
「なんか、あっけないな」
「それくらいでいいんです。あのおは、浦さんが返さなければならなかったおというより、返すと決めて背負ったおだったんですから」
俺の役員報酬は今、25万円まで戻った。
父の35万円にはまだ届かない。
それでも、5ぶりにしい革靴を買った。
子には。
「ようやく見いのの靴を捨てられますね」
と笑われた。
「捨てないよ」
「どうしてですか」
「記品だから」
借800万円。
貯なし。
古いジャケット。
擦れた靴。
最悪の条件だけを並べて。
断ってもらうつもりだった。
俺はあの。
自分を貧乏に見せようとしていた。
けれど。
本当は。
見せるまでもなく。
はなかった。
ただ。
子の言う通り。
俺は何も持っていなかったわけではなかった。
守ってきた。
4の活。
父が残した。
技術。
何も。
棚に積みがった。
治具。
それから。
度削った部品を。
22まで。
覚えていてくれた。
そういうものは。
の残には。
円も。
表示されない。
ある、所の学から職体験の徒が3やって来た。
田辺さんが旋盤で属を削って見せると、のが完成したさな部品をのひらへ載せた。
「これ、何に使うんですか」
「病院の械のだ」
「って、見えないですよね」
「見えねえな」
は議そうに部品を眺めた。
「じゃあ、どうしてこんなにきれいに作るんですか」
田辺さんはしだけ考えた。
それから。
いつものきなで。
部品を持ちげた。
「見えねえところが雑な械に、命は預けられねえだろ」
3の徒は黙って部品を見ていた。
俺はしれたところで。
その景を見ながら。
父の言葉をいした。
俺たちが削っているのは。
鉄ではない。
信用だ。
そしての価値も。
案。
同じなのかもしれない。
見える貯。
肩。
会社のきさ。
そうな。
そんなものより。
見えないところで。
何を守り。
何を残してきたか。
あの。
子が「格です」と言った理由を。
俺は今になって。
ようやく。
全部理解した気がしている。
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