"最終列車で消えた18歳" 第6話
坂は否定したが、信には分かっていた。
「なぜ父は、坂さんのことを警察に言わなかったんですか」
「自分も、美紀さんにしたことをられたくなかったからだ」
信はすでに娘の入学辞退届を提していた。町の々には、美紀が父を捨てて列から消えたと説し、捜索への寄付も受け取っていた。
匿名のが誤解だったと公表すれば、自分が娘を追い詰めた経緯もらかになる。
信は坂を責める方、沈黙を選んだ。
坂も信のみをったため、互いに真実を話さなかった。
録音テープの半には、久美子がで吹き込んだ言葉が残っていた。
《この箱を見つけたへ。兄は、美紀が来なかったと言っています。でも私は信じられません。美紀は約束を破る子ではありません》
続いて、昭63514の刻が読みげられた。
それは、父娘が旧駅の待で会うことになっていた夜だった。
昭63514、鷺線が廃止されてから約1か半が過ぎていた。
線はまだ撤されていなかったが、列のらない駅は急速に寂れていた。切符売りの窓には板が打ちつけられ、ホームの計も842分で止まっていた。
久美子は、美紀からの連絡を受けて信を訪ねた。
「美紀が戻ってくる。今夜9、駅の待で話したいそうよ」
信は最初、かないと答えた。
広告
学の入学資格を失った娘に、何を言えばよいか分からなかった。自分が疑った理由を話せば、くなった文まで傷つけることになるとった。
「説するのは兄さんの責任よ」
久美子は譲らなかった。
「美紀は、謝ってほしいだけじゃない。どうして自分のを取りげたのか、父親のから聞きたいの」
信は夜850分、旧駅へ到着した。
久美子はくの跡で待し、父娘だけで話せるようにした。
待には、気がついていた。
磨砂ガラス越しに、子へ座るが見えた。美紀は学案内と類の入った封筒を膝に置き、何度も計を見げていた。
信は入のまでんだ。
扉へをかけようとしたとき、待のから美紀の声が聞こえた。
「お父さんが謝ってくれなかったら、私はもう戻らない」
独り言だったのか、久美子へ話した言葉を繰り返していたのかは分からない。
しかし信には、自分を裁くために待っているように聞こえた。
駅だったころ、くの乗客にをげ、事故や遅延の説もしてきた。だが娘ので、自分が違っていたと言うことはできなかった。
信は待のに20分くっていた。
磨砂ガラスの向こうで、美紀が度ちがった。扉の方を見たが、にいる父には気づかなかった。
午918分、信は扉をけずに帰った。
広告
美紀は10まで待った。
その、久美子のに乗り、名古へ戻った。
翌朝、信は久美子へ言った。
「美紀は来なかった」
「嘘よ。私はあの子を駅まで送った」
久美子が追及しても、信は認めなかった。
「あの子は、父親より都会を選んだ。もう戻るつもりはない」
信はその言葉を繰り返すことで、自分が扉をけなかった事実を消そうとした。
方、美紀のもとには坂から連絡があった。
「信は駅へかなかった。おには度と会いたくないと言っている」
坂は、信が待のまで来たことをっていた。信自が、その夜のことを彼へ話していたからだ。
それでも坂は、美紀へ父の拒絶だけを伝えた。
父娘が解すれば、自分の匿名のがらかになる能性があった。さらに久美子から、隠した検査結果を返すよう求められていた。
坂は再び、父娘のへ嘘を置いた。
美紀は父から完全に拒絶されたとった。
名古でみ込みの仕事を探し、幼児用品の員として働き始めた。期学には通えなくなったが、夜の保育講座へ通い、数かけて保育補助の資格を取得した。
久美子とはで連絡を続けた。
最初のには、こうかれていた。
《お父さんをみたくありません。でも今戻れば、私が違っていたことにされます。自分で活できるようになってから、もう度話したいです》
久美子は、そのを信へ渡さなかった。
当初は、美紀が落ち着くまで待つつもりだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
宅配箱を盗む隣家の子…餌を入れた翌朝、母親が激怒
ペットショップを営む榊哲也の家で、宅配ボックスから荷物が次々と消える。近所の目撃情報が指したのは、隣家の小学五年生・航太。しかし母親の千晶は「子どもを疑うな」と哲也を非難し、町内に悪い噂まで広め始める。哲也は自分宛ての荷物に店で扱う乾燥コオロギの餌を入れ、防犯カメラで行方を確かめることに。すると映像には、少年の行動以上に不可解な親子のやり取りが残されていた。さらに消えた荷物を追ううち、地域の見守り活動に関わる不自然な書類まで浮かび上がる。小さな宅配トラブルの裏に、何が隠されているのか。怒り|真相|修羅場2.8万字5 613 -
完結第20話
大正、子守奉公の少女
大正時代、貧しい農家に生まれた十一歳の少女は、「三度の飯」を条件に子守奉公へ出された。赤ん坊を背負う毎日から工場近くの家、東京の屋敷へ。三年分の奉公賃は家族に渡され、働く場所も自分では決められなかった。やがて海を越えて旅順へ渡った彼女は、子どもたちの世話をしながら、文字を覚え、針仕事を学び、少しずつ自分の世界を広げていく。誰かのために働くことしか知らなかった少女は、いつか自分の人生を選べるようになるのだろうか。時代|歴史|真相2.8万字5 31 -
完結第17話
忘れたコートが教えてくれたこと
結婚式まであと3週間。高橋ゆいは婚約者・博人の実家に忘れたコートを取りに戻り、衝撃的な会話を耳にする。食卓に広げられていたのは、祖母から相続した自分のマンションを、博人の実家が営む会社の追加担保にする計画書だった。しかも本人への説明は「婚姻後1週間」の予定。14人の従業員を守るためだと訴える婚約者の母と、すべてを知りながら黙っていた博人。人生逆転|裡切られた|夫婦|真相|修羅場2.0万字5 410 -
完結第20話
死んだ母を名乗る女
母を亡くして二年。三十歳の浅沼美咲は、空き家となった実家を片付けている最中、郵便配達員から思いがけない言葉を告げられる。「先月もお母様にお会いしましたよ」。亡くなったはずの母を名乗り、郵便物を受け取っている女がいるというのだ。家の中に残された生活の痕跡、天井裏から聞こえる不審な物音、そして母宛てに繰り返し届く現金書留。兄とともに調べ始めた美咲は、疎遠だった叔母の影と、母の遺産をめぐる不穏な思惑に気づく。死者の名を使ってまで隠そうとした秘密とは。真相|親子関係2.3万字5 1195 -
完結第20話
シャッターを切らなかった日
昭和46年、水俣。写真館で働く17歳の村瀬航一は、町の現実を新聞に伝えようと、仕立て屋の橋本夏枝にカメラを向ける。しかし、彼女から「撮らないで」と拒まれた後、以前撮った手の写真が本人の了承なく新聞に掲載されてしまう。その一枚は夏枝の仕事と暮らしに思わぬ影響を及ぼした。工場で働く父、被害を訴える住民、善意で支援する人々。それぞれの事情に触れるなかで、航一は問い始める。人の苦しみを伝えることと、その人の人生を勝手に語ることは、同じなのだろうか。激動の昭和を背景に、写真と人間の尊厳を描く物語。時代|歴史|昭和|真相2.7万字5 57 -
完結第12話
消えた路地の矢印
昭和39年、東京オリンピックを目前に控え、東京の街は急速に姿を変えていた。23歳の標識職人・黒田俊も、新しい道路の案内板を作る仕事に追われていた。ところが工事によって古い路地が封鎖され、診療所へ通う老人や商店の人々が行き場を失い始める。立ち退きを迫られる活版所の親子、変わり続ける迂回路、そして正しいはずの標識に迷わされる人々。時代|歴史|昭和|真相|修羅場2.8万字5 46 -
完結第12話
昭和39年、給食費泥棒にされた少女
昭和39年、村の小学校で給食費9,600円がなくなったと騒ぎになり、11歳の岸田和子は担任から泥棒だと決めつけられた。無実を訴えても信じてもらえず、和子は転校を余儀なくされる。それから35年。廃校となった母校で古い出納簿を見つけた和子は、問題の給食費が事件の二日前に全額入金されていたことを知る。なぜ教師は、なくなっていないお金を盗んだと少女を責めたのか。食数の合わない給食記録、突然退職した調理員、沈黙する元同級生。忘れられた帳簿を手がかりに、和子は35年間隠されてきた学校の秘密を追い始める。時代|歴史|昭和|真相3.1万字5 384 -
完結第12話
昭和44年、終電後に消えた駅員――28年目に見つかった記録
昭和44年、長野県の小さな駅で働く杉原修一は、最終列車を見送った夜、8万6,400円の現金とともに姿を消した。父を泥棒と呼ばれながら育った娘の美緒は、28年後、取り壊しが決まった駅舎で古い駅務日誌を発見する。そこには、父が終電の55分後、赤いランプを持って七号橋へ向かったという不可解な記録が残されていた。運休したはずの貨物列車、書き換えられた帳簿、沈黙を守る関係者たち。父はあの夜、何を知り、なぜ帰ってこなかったのか。昭和の小駅に封じられた28年間の謎を追う、家族と真実の物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|真実2.9万字5 295 -
完結第12話
雨宮停留所の黄色い傘
私は六十二歳。幼いころから、ときどき人には見えない姿や声を感じることがある。 山梨の小さな町で叔母の家を片づけていたある雨の日、廃止された停留所の水たまりに、黄色い傘を差した少年が映った。 そこで出会った老女は、四十年近く前に失踪した息子を今も待ち続けているという。 「まだ帰れない」 少年が残した言葉を手がかりに調べ始めると、破り取られたバスの運行日誌、隠された手紙、そして家族が長年伏せてきた秘密が浮かび上がる。 あの少年は、いったい何を伝えようとしているのか。日常ホラー|ミステリー|真相|親子関係2.2万字5 248