"破られた団地当選通知" 第4話
枝が言った。
「美代子と同じ部でも、分だな」
茂も頷いた。
さな浴を見たには、枝は本当に泣きそうになった。
のも、の夜も、子どもを連れて銭湯へ歩かなくていい。
がをしても、体を拭く湯をすぐ用できる。
これを捨てるなんて考えられない。
そういながら帰ろうとした、枝は階段のからを見た。
コンクリートの段が、く続いている。
踊りを折れ、また階段。
さらにそのにも階段。
エレベーターはない。
ふと、トメの顔が浮かんだ。
毎朝、布団から起きるまでにがかかる。
玄関先のわずかな段差でも、ハルの肩を借りるがある。
「……おばあちゃん」
枝が呟くと、茂も同じことを考えたらしく、黙って階段を見た。
案内の職員は悪気なく言った。
「階は当たりがいいですよ。お若いご族には気です」
若い族。
その言葉が引っかかった。
川は、若い夫婦と3の子どもだけではない。
帰り、ともあまり話さなかった。
駅へ向かう途で、茂がようやくをいた。
「母さん、これってたのかな」
「階だってこと?」
「通にいてあったか?」
枝は記憶をたどった。
通を受け取ったは、当選という文字ばかりを見ていた。
細かい部番号まで覚えていない。
「いてあったかもしれないけど……」
「だから破いたのか?」
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「でも、それならそう言えばいいでしょう」
枝の声には、まだりが残っていた。
案内所のまで戻った、先ほどの職員がを見つけて呼び止めた。
「あの、川さん」
「はい?」
職員はし迷うように資料を持ち直した。
「つ確認したいことがありまして」
茂が戻ると、職員は受付簿をいた。
「今回、初めてこちらへ来られたんですよね?」
「そうですけど」
「ご族の方で、先に部について問いわせた方はいらっしゃいませんか」
枝と茂は顔を見わせた。
「いません」
「お母様のお名は、川ハルさんでっていますか?」
茂の表が変わった。
「母です」
職員は受付簿のを指した。
そこには、3の付がかれていた。
当選通が破られるだった。
《川ハル》
《407号・階数確認》
さらに、その横にはさな文字で、
《入居辞退届 用持ち帰り》
と記されていた。
枝はが分からず、しばらく文字を見つめた。
「お義母さんが、ここへ来たんですか」
「記録ではそうなっています」
「で?」
「はい。407号が何階か、それからエレベーターがあるかを何度も確認されたそうです」
茂の顔から血の気が引いた。
ハルは当選通を衝に破いたのではなかった。
そのにで案内所まで来て、階だと確認し、入居辞退の用まで持ち帰っていた。
しかも、ではそのことを誰にも話していない。
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枝のに、つの疑問がはっきり浮かんだ。
ハルは最初から、族を団へかせないつもりだったのか。
それとも――。
あの階にってはいけない理由を、彼女だけがっていたのか。
へ戻るまで、茂は度も母のことをにしなかった。
枝も話しかけなかった。の窓に流れる並みを眺めながら、のでは案内所の受付簿にかれた文字ばかりをいしていた。
《入居辞退届 用持ち帰り》
あれは、ただ通を破くよりい。
ハルは族に黙って、自分ので当選を辞退しようとしていたことになる。
へ着くと、ハルは台所で根を切っていた。
トメはいつものように玄関先へ腰掛けている。
茂は着も脱がずに言った。
「母さん、案内所へったんだってな」
包丁が止まった。
枝には、その瞬だけで答えが分かった。
「407号が階だって、ってたんだろ」
ハルはしばらく何も言わなかった。
やがて包丁を置き、掛けでを拭いた。
「ってたよ」
「何で俺たちに言わなかった」
「言ったらどうした」
「どうしたって……相談しただろ」
「相談したって、部が階になるわけじゃない」
茂は言葉に詰まった。
枝が尋ねた。
「辞退届まで持って帰ったんですよね」
「そうだよ」
「最初から断るつもりだったんですか」
ハルは枝を見た。
「最初はね」
その答えに、胸のへ再びりが湧いた。
「どうしてですか」
ハルは返事をせず、玄関の方へ目を向けた。
そこにはトメがいる。
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