"破られた団地当選通知" 第10話
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完結第11話
母が守った「4人目」
昭和23年の冬。空襲で夫を亡くし、3人の子どもを育てる富美は、配給所へ行くたびに言い張った。 「うちは、子どもが4人です」 台帳に残るもう一人は、3年前の空襲で消息を絶った長男・正一だった。町内から「いない子の分まで受け取るのはずるい」と責められ、次男の昭夫まで学校で泥棒扱いされる。 耐えかねた昭夫が母に内緒で配給人数を訂正しようとすると、富美は物置へ彼を連れていった。そこには3年間、一粒も食べずに取っておいた正一の米があった。 「帰ってきた時、また“あなたの分はない”なんて言いたくなかったの」 しかし厳しい冬のある日、空腹で震える少年が家を訪れる。富美は長い間守り続けた甕を見つめ、やがて昭夫へ静かに告げた。 「取ってきて」――正一を待つための米が、今ここにいる子どもたちの命をつなぐ食事へ変わった夜だった。時代|歴史|昭和1.6万字5 491 -
完結第10話
百円だけの香典
「香典は、一世帯100円までにしてください」 昭和34年、父の葬式で長男が玄関に貼った一枚の紙に、親族は騒然となった。 父は従業員17人の町工場を30年営み、多くの人へ香典を包んできた。 「今まで受け取った分を返してもらうのが付き合いだ」 叔父も母も、紙を外せと迫った。 そこへ、亡き父から1000円を受け取ったという農家の男が現れる。 「3年かけて用意した。今度は俺が返す番だ」 だが長男は100円だけ受け取り、残りの900円を返した。 その対応に、母は「父さんが築いた信用を壊している」と泣いた。 長男自身も、自分が父の遺志を勝手に解釈しているのではないかと迷い始める。 通夜が終わった夜、玄関の紙を外そうとした、その時。 昼間の農家の男が、小さな風呂敷包みを抱えて戻ってきた。 そして返された900円の本当の使い道を告げた――。時代|昭和1.5万字5 9 -
完結第11話
出生届を止めた助産婦
昭和30年の秋、信州の山村で二人の女が同じ夜に女児を出産した。介助したのは、村でただ一人の助産婦・松永ハルだった。 一人目の赤子を連れて次の難産へ駆けつけたハルは、夜明け前の混乱の中で、二人をほんのわずかな間だけ同じ布団へ寝かせてしまう。 翌日、ハルは異変に気づいた。最初に生まれた子の左肩にあった青い痣が、もう一方の家にいる赤子へ移っていたのだ。 「この子の出生届だけは、あと二、三日待ってください」 問い詰められたハルは、ついに二人の赤子を取り違えた可能性を告白する。しかし血を確かめる術のない時代、頼れるのは曖昧な記憶と、痣や足の形だけだった。 しかも二人の母親は、すでに三日三晩、腕の中の赤子へ乳を与え、泣けば抱きしめていた。元へ戻すべき命と、もう生まれてしまった情――戸籍には記せない選択を、二つの家族が迫られることになった。時代|歴史|昭和1.6万字5 284 -
完結第10話
知らない家族が守った家
昭和27年、7年間接収されていた世田谷の自宅へ、ようやく戻った杉浦一家。 ところが庭には洗濯物が干され、家の中には見知らぬ母子が暮らしていた。しかも7歳ほどの少年が、杉浦家の仏壇に毎朝手を合わせていた。 「今週中に出ていってください」 家を取り戻した忠雄に譲るつもりはなかった。しかし母子には行き先がなく、二つの家族は一時的に同じ屋根の下で暮らすことになる。 やがて押し入れから、亡くなった母子の父親が残した古い帳面が見つかった。そこには屋根や雨戸、仏間を修理した7年間の記録が、細かな日付とともに記されていた。 「ここは自分たちの家ではない。いつか持ち主が帰ってくる」 少年が仏壇へ手を合わせていたのは、帰る場所を失った父が、まだ見ぬ家主のために守り続けた約束だった――。時代|歴史|昭和1.5万字5 123